4 訓練~夕日を背景に……は流石に古い~
楓組のステータスは次回です。色々と不思議能力が多数出ますが気にしたら負けです。
自己紹介後、優太達は自主訓練に励む事になった。
しかし、優太は絶賛通常運転中……気だるげに、訓練場のベンチに座って、走り込みをしている、晃達を眺めていた。
「矢野君……君は異世界に来てもブレませんね」
そんな優太に話し掛けてきたのは、長い黒髪を後で束ね、鋭い目付きだが整った顔立ち、毎日女生徒達に”告白”されていた……“彼女”は伊井楓、才色兼備、文武両道で、なおかつ一年にも関わらず生徒会と風紀委員会の会長を務め、“女傑”と呼ばれていた。
「伊井……俺は魔導師だぞ? サムライのお前や、勇者の大野達と自主トレしたって、たかが知れてるだろ?」
「天野さんは、聖女なのに一緒に走っていますけど?」
「……天野……お前もか!」
魔導師だからとかわすつもりが、聖女が走っていると言う、事実によって儚くも崩れ去る。
ならばと、次の言い訳を考え始める優太に、楓は溜め息をついて首を横に振っている。
「はぁ……君の、その鋼の意思は何処から来るのですか?」
「イスカンダルから?」
「古くないですか? 歳偽ってるんですか?」
「古くない……それより、あっちも何とかしてくれ」
そんな、ネタ的やり取りの後に、優太は別の二人を指差した。
そこには、八島正孝と佐武将が神妙な面持ちで、向かい合っていた。
とその時……
「見ろ! 将! ア○ファステ○グマだぞ!」
「それなら、俺は○ヴァだ! ダイ○モンド○ストだ!」
完全にアウトだ……楓はぷるぷると小刻み震えながら、ゆっくりと、それはもうゆっくりと二人に近付いていく。
そして、拳骨……眼で追えないスピードの拳骨が二人を捉える。
「危ない単語を使うなぁぁぁぁ!」
「「がぁ!」」
〈魔眼使い〉の正孝と〈召喚魔法〉の将が頭を押さえて悶絶する様を見て、悪ふざけはほどほどにしようと心に決める優太だった。
そんな、魔闘士と召喚士の処理を済ませた楓が戻って来た所に、幸子が走り込みを切り上げて此方に来ていた。
「ゆう君……あの二人、楓ちゃんに何かしたの?」
「あの二人の厨二が炸裂しただけだ」
「あっ、天野さん……どうかしましたか?」
楓も幸子に気づき話し掛ける。すると、幸子の口から驚愕の情報が放たれた!
「そう言えば、あっちで和馬君と姫ちゃんが『ス○ープラチナ』とか『生○戦略』とか叫んでたよ?」
「いくらなんでも調子に乗り過ぎですね……少し、締めてきますね……むしろ、絞めますか……」
禍々しいオーラを漂わせて歩いていく楓を見送り、優太は溜め息をつきながら出口に歩き出す。
「俺は部屋に戻る」
「あっ、ゆう君! また明日ー!」
そんな、幸子の言葉に手を挙げて返すと、そのまま部屋へと戻っていった。
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全員のカードを持って、執務室に戻ったジークは頭を悩ませていた。
「ふむ、まずは旅人組と残留組を分けてから、旅人組を率先して鍛え、残留組も自衛できる様にしないといかんか……騎士団との合同演習も視野に入れてと……」
ある程度まとめたところで、「ふう」と息を吐きジークは椅子にもたれ掛かる。
「……随分と大変そうですね」
「のはぁあ!」
そこへ、突然現れたランドに、奇っ怪な悲鳴をあげるジーク。それを見て、ランドは呆れたように溜め息をついた。
「はぁ……ジーク、大変そうですが、どうしたのですか?」
「いきなり現れるなよ……いやな、短期間での訓練で何処まで仕上げれるかを考えてたんだ」
ジークとランドは、先程のやり取りを早々に切り上げ、本題を話し始めた。
内容としては、まず一つに、旅人組が何人になるか、戦闘職でも戦いたくない者が出てもおかしくないからだ。
二つ目に、訓練の内容、これは旅人組は厳しく、残留組も自衛出来なければ意味がない。
そして最後に、実戦訓練だ、対人訓練は騎士団との模擬戦で賄うが、旅人組には人殺しを視野に入れて貰わなければならない、さらに、危険の付きまとう魔物との実戦訓練も頭の痛い問題だ。
ランドは話しを聞いて、納得したように頷いていた。
ランドとて、考えなかった訳ではない。この旅には、危険が付きまとい、なおかつ、人殺しをしなければならない場合もあると……
「しかし、それだからこそ、彼等に道を示すことが、今貴方がやるべき事なのではありませんか?」
「ふっふっふっ……ぺーぺーだったお前が、言うようなったな……明日、彼等に話す、それから旅立つか残るかを聞こうと思う」
ジークの決意、ランドは再び頷くと、そのまま扉へと歩いていく。
ジークは、その背中を見送ると、再び資料に目を通す。
「あいつも、素直じゃねえなぁ」
ジークの呟きが、執務室に静かに響いた。
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「……以上だ。行きたくない者は残ってくれても構わない……我々は君達を守るし、自衛出来る力も付けさせる。まあ、どちらにせよ訓練はあるのだがな」
翌朝、訓練場に集められた優太達は、ジークの話しを聞き、何人かは震える手を押さえていた。恐怖、不安、帰りたい思いが複雑に絡まり合い、誰も話し出すものはいない。
そんな中、一人の少年が決意に満ちた眼で、高らかに声をあげた。
「それでも、俺は戦うぞ! 皆で元の世界に帰るために!!」
「うん……うん! そうだよ! ここでくよくよしてても何も変わらないもんね!」
「お前らが行くのに、俺がいかねぇのは筋が通らねぇな……よっしゃ! やってやるぜ!」
真っ先に声をあげたのは晃だ、それに続く様に絵美と大地が名乗りをあげた。
「私も、皆の為に行きます。その為の覚悟も……」
「楓が行く言うなら、私も覚悟決めなアカンな」
「明菜……」
楓の言葉に、一人の少女が歩み出てくる。
金井明菜、楓の親友にして、生徒会会計兼風紀委員会の副会長を任されている。黒髪ショート、活発と言う表現が似合う表情豊かな少女だ。
「それに、楓一人じゃ心配やし……」
「明菜! それはどういう意味ですか!?」
そんなやり取りの中、昨日問題発言をした四人も楓共に行くと名乗りをあげた。
「俺たちも行くぜ! なっ! 将!」
「ああ! ご令嬢二人じゃ心配だしな!」
「「貴方達が言うな(や)!」」
正孝達の言葉に、楓と明菜が声を揃えてツッコミ、それを見て鈴音姫花が微笑む。
「ふふっ、それに……この世界を観て回りたいしね!」
「だな! その為にも、力を付けないとな……」
姫花の言葉に、同意と頷くのは近藤和馬だ。
そんな、楓達を見てジークは申し訳無さそうに笑っている。
そして、ジークは優太に視線を向けた。ブレインから話に聞きた、一人で旅立つと言う少年、少し興味が湧いた、故にブレインとの決闘を提案したのだが……
「ゆう君、私も晃君達と行くから……何処かであったらよろしくね?」
「まあ、会ったらな」
当の優太は、眠そうに欠伸をしながら幸子と話していた。
ジークは、視線を外し全員に聞こえるように、大声で話し掛ける。
「他には……居ないようだな、残留組の者達の安全は保証する! 自衛の力も付けさせる! では、これより訓練を開始するぞ!」
そうして、本格的に訓練が開始された。
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少し遡り昨夜ジークとランドが話していた頃、進はリティと打ち合わせの最中であった。リティは講義をしている時とは違い、かがやく銀髪を下ろし、眼鏡は外しており、講義時とは印象がだいぶ違う。
「ふむ……では、しばらくススム殿は戦えない分、この国内の調査がしたいと言うことで良いのか?」
「はい、歴史を調べ、資料にまとめれば、きっと彼等の役に立つはずです!」
進の話しを聞き、リティは微笑む。
そんな、リティに気が付き、照れくさそうに頭を掻いている。
「ふふっ、ススム殿は生徒を大切にしているのだな」
「ええっ! 僕は彼等の先生ですから、守りたいんですよ……生徒達を……」
しかし、進は言葉を小さくしてしまう。その心には優太と、優太の言葉がのしかかっていた。
進の変化に気づいたリティが、首を傾げる。
「ススム殿?」
「矢野君が……ステータスの儀式の前に、言ったんです……人は力を手にすると変わってしまうと……僕は何も言えませんでした……」
「そうか……」
「もしも、本当に生徒が力に飲まれて、変わってしまった時……僕はどうしたら良いのでしょうか?」
進の話しを静かに聞いていたリティは、少し間を置いてから、まず一つの推測から話し始めた。
「恐らく……その矢野と言う少年は、自分がそうなるのを怖れて、一人で行くと言ったのだろうな……そして、もしも本当に生徒が変わってしまったのなら……心を受け止めてやれば良い」
「心を……」
「そうだ……心が弱り切っているから……人は変わってしまう……ならば弱った心を受け止め、癒してやれば良いんだ……」
リティの言葉に、進は「心……癒す」と呟く。
すると、進は決意を固めたように、拳を握り締めた。
「もう一度、矢野君と話してみます」
「ああ、そうすると良い」
そうして、リティと進の打ち合わせは終了した。
翌朝の訓練に合流するために、進は自室へと戻るのだった。
ネタが古いは言わぬが花だと思うんですよ……ハイ