29 辛くも幸せだった少女
だいぶ遅くなりました……最近、暑くなって来たので体調には気を付けましょう(白目)
(何故だろう……私は何か悪いことをしただろうか? 重い病に身を蝕まれ、それでも努力を重ね、父の様に、叔父の様になりたいと願っただけなのに……)
少女は絶望する。どうしてこうなってしまったのかと……
(永く生きる為にも続けてきた努力……今では、それも叶わない……)
重い病、努力を重ね、いつ来るかも分からない死に抗い続けてきた。それをこんな結末を迎えるなど……少女は悔しかった。
そして、正義感の強い少女は更なる絶望を見る。
幼い子供を売り、使えなくなったと棄てる、残虐な行為を……少女は泣きながら見ることしか出来なかった。
(守りたかった……でも出来なかった。体が動いてくれない)
しかし、それでも少女は走った。動かない体に鞭を打って、幼い子供の亡骸を抱えて……この娘だけでも、安らかな場所でと願って。
【ハガン帝国】、古くから力で他国を支配してきた国であり、国の方針は完全なる実力主義である。
少女はそんなハガン帝国の貴族の娘だった。
実力主義の帝国、その貴族の中でも少女の両親は帝国やり方に反抗していた。
「あなた、あの子が立派になる頃には、この国が変わっていると良いわね」
「ああ、そうだな」
広い庭でメイドと遊んでいる少女に、二人は優しく微笑んでいた。
少女が十二歳になる頃、その症状は出始めた。
高熱を出し、寝込むようになった。
「先生! あの子は大丈夫なのですか!?」
「……落ち着いて下さい、ヘンティル卿」
愛娘の窮地に興奮していた父親も、医者の言葉に落ち着きを取り戻す。
「すまない……」
「仕方ないだろう、一人娘が寝込んでいるんだ」
正気を取り戻し謝る父親に、彼の兄が慰める。
そんな二人の代わりに、母親は娘の容態を聞いている。
「それで……娘は……」
「お三方、お子さんの病気は……恐らく、魔力欠乏症です」
医者の診断に、三人は目を見開く。
「そんな……」
「そんなに悲観なさらずに、今からでもステータスを鍛えさせれば永く生きられる筈です」
魔力欠乏症……それは、成長と共に大きくなる筈の魔力の器が大きくなり難くなり、魔力が漏れでてしまう病、大体の場合は魔力が回復しなくなり死に至る。魔力を常に供給し、器の成長が追い付けば無害化できる。また、ステータスを鍛え体の負荷を少なくする事で延命できる。
医者言葉に、いの一番に立ち直ったのは、父親の兄だった。
彼は弟の肩に手を置くと、優しく微笑みうなずいて見せた。
「アラン、あの子は私が鍛えよう……少しでも永く生きていけるように……」
少女は、生きるために強くなる。
時は流れ、少女は16歳に成った。
その日も、叔父から稽古を付けて貰っていた。
「ここまでだな、太刀筋が良くなってきたぞレイナ……」
「はぁ、はぁ、あ、ありがとう……ございます」
レイナと呼ばれた少女は、叔父から渡された魔力回復ポーションを飲み干し、「ふう」と息を付いた。
少女は、金髪を後ろに束ね、動きやすい練習用の軍服に身を包んでいた。
「さあ、帰ろうか」
「はい! 叔父様」
叔父は少女の頭を撫でて、共に歩き出す。
少女は幸せだった、病気であろうと、訓練が厳しかろうと、確かに少女は幸せだった。
しかし、幸せは長くは続かなかった。
「……誰だ?」
「いやぁーばれた? さすがはかつて、豪剣と呼ばれただけはある……」
叔父は、後ろから付いてきていた何かに声を掛ける。
そして、現れた男に警戒しながら、姪である少女を守るように立つ。
「悪いけど、依頼主の頼みでねぇ……嬢ちゃんを拐ってこいってよぉ」
「くっ、金を払われれば何でもやる傭兵か、外道が!」
叔父の言葉と同時に、傭兵は走り出す。
それに、叔父も剣を抜き、傭兵の一撃を受け止める。
「逃げるんだ、レイナ!!」
「叔父様私も……!」
ギンッ ザシュッ
レイナの目の前で、叔父は傭兵に斬られ、血が噴き出す。
「あ、ああ、叔父様ぁぁぁぁ!」
「グフッ、レイ……ナにげ……」
叔父は倒れ、動かない。
それを座り込み、呆然と見つめる少女。
「いやぁ、流石は豪剣、手負いじゃなきゃ危なかったぜ……」
叔父は足に矢を受けて、足を満足に動かせなかった。
だからこそ、そこを狙ったのだろう。
「……さない」
「おー? 何か言ったかい嬢ちゃん」
四年間、常に付きっきりで鍛えてくれた叔父、いつも厳しく、死んでしまいたいと思った時には、優しく諭しくれた。
そのお陰で、調子が良ければ、並の騎士より強くなれた。
「私は、貴方を許さない!」
「ほう、傷は付けるなと言われたが……仕方無い」
レイナは、叔父の剣を構えて、傭兵を睨み付ける。
しかし、駆け出そうとした途端、レイナの視界が揺れた。
「魔力欠乏症ねぇ、死なれたら困るんだよねぇ」
「……あ」
倒れたレイナに、傭兵は近付き腕を縛る。
そして、部下を呼ぶとレイナを運ばせるのだった。
アラン達が駆け付けた時には、叔父の遺体があるのみだった。
レイナが連れ去られて来た場所は、複数の檻が置かれた場所だった。
檻の中には、まだ幼い多種族の子供達が閉じ込められていた。
「おい……お嬢ちゃんに魔力ポーションを飲ませとけ、死なれたらかなわん」
「へい……」
すると、ギイィィと檻が開く音がする。
レイナの髪を掴み顔を上げさせると、下っ端の男は強引にポーションの瓶をレイナの口に流し込む。
「グッ……! はあっ……ゴホッゴホッ!」
「……たくっ、こんな欠陥品売れるのかよ」
下っ端の男は悪態を付きながら、檻から出ていく。
男が出て行った後、同じ檻に入れられた小さい少女がレイナに話し掛ける。
「おねえちゃん大丈夫?」
「……!」
レイナは少女を見ると、目を見開く。
少女の年齢は六歳位、体は痩せてしまっている。
「うん、大丈夫だよ……私はレイナ・ヘンティルだよ。貴女は?」
「わたしは、ライラ!」
ライラは話して貰えたのが嬉しいのか、笑顔で自分の名前を答えた。
レイナはライラの頭を優しく撫でると、何故檻に入れられているのかを聞き出す。
「あのね……ライラ、おかあさんとお外にお出かけに行ったの。そしたら、おかあさんがここで待ってて言ったから待ってたの」
話している内に、ライラは泣き出してしまった。
「……グスッ、おかあさん……戻って来なくて……眠たくなって、気付いたらここに居たの……」
「そう、大変だったね」
「うぅ……おかあさんに会いたいよぅ……」
レイナは泣いているライラを慰めながら、ライラの事を考える。
(きっとライラのおかあさんは、事情があって来れなかった……考えたくないけど、ライラを捨てた?)
レイナは泣いているライラを見て、心を決める。
(この子も他の子達も私が守らないと……)
そして、しばらくして、レイナ達は一つの馬車へと詰め込まれて、馬車はそのまま進み始めてしまったのだった。
それからは悪夢の様な日々だった。
終わりの無い長い道のりを進む馬車、売られて行く者や、死んでしまう者……その遺体は乱雑に棄てられて行くのをただ見ることしか出来なかった。
「はぁ……はぁ……」
そして、レイナ自身もまともに動ける状態ではなかった。
そんなレイナをライラは、心配そうに見ていた。
「おねえちゃん大丈夫?」
「うん……大丈夫だよ……」
魔力欠乏症の症状と、録な物ではないが自分に与えられた食料を同じ檻の子供達に分け与えていた為、レイナの体は既に限界が近かった。
それでも、レイナは心配を掛けまいと、ライラの頭を優しく撫でる。
そして、レイナは眠りに着いた……生きて居るかも分からない明日の為に……
翌朝、レイナは目を覚まし、まだ生きていることを確かめる。
(まだ……生きている)
生きている事に、安心していると檻の子供の一人がレイナを切羽詰まった状態で呼んでいた。
「レイナ姉ちゃん! ライラが!」
「え……?」
少年の言葉に、レイナはライラの近くに行く。
ライラは尋常ではない汗を吹き出させ、苦しそうにレイナの事を呼んでいた。
そんなライラの手をレイナは握ってあげる。
「おねえ……ちゃん……わたし……もうダメ……」
「ダメ……ライラ、諦めないで……」
ライラの言葉に、レイナは励ます様にそう語り掛ける。
しかし、ライラは僅かに首を横に振る。
「わたしね……ほん、とはわかってたの……おかあさんに捨てられたこと……」
「もう、ここから……出られないことも……」
ライラの言葉に、レイナの瞳から涙が溢れてくる。
「でも……おねえちゃんに会えて……楽しかった……嬉しかった……」
ライラは息も絶え絶えに、「だから」と言葉を繋げる。
「おねえちゃんは……生きて! 生きて……いつか話してくれた……沢山の人を救える騎士に……なって……」
その言葉を最期に、ライラは力尽きた。
レイナはライラの手を優しく握りながら、涙を流し続けた。
「お前達! 何してる!」
悲しみに暮れるレイナ達に、下っ端の男が怒鳴り声を上げる。
男は息絶えたライラを見て、「ちっ」と舌打ちをする。
「何だよ、そいつ死んだのか……どけお前ら!」
男がライラに手を伸ばす。
その瞬間、少年が男の手に噛みついた。
「あいたぁ!」
「姉ちゃん! ライラを連れて逃げて!」
少年の言葉と同時に、レイナは駆け出したのだった。
(どのくらい走ったのだろう)
レイナはライラの亡骸を抱え、重たい手足を懸命に動かし走り続けた。
そこが街なのには、直ぐに気が付いた。人波を掻き分けて、走り続ける。
「すいません、通して下さい……」
途中、広場らしき所で座っている人と目が合った気がする。
しかし、気にしている暇は無い、せめてこの子の亡骸だけでも教会へと連れて行きたい……レイナの願いそれだけだった。
「はあ……はあ……そ、そんな」
しかし、無情にも入った路地は行き止まり。
そして、レイナの後ろには追い付いてきた下っ端達だった。
「へっへっへっ、もう逃げられねぇぜ」
「大人しく捕まれ」
レイナは座り込み、来る筈の無い助けを呼ぶのだった。
「誰か……助けて……」
「ふん、今回は特別だ……」
すると、レイナの声に返すように、言葉がかえってきたのだった。
「助けてやる」
そこには、自分と変わらない年齢の男が立って居たのだった。
重い……自分で書いてて心苦しいね。はたして、優太は少女を救えるのか……




