2 己の力を知る時
ステータスオープンです。晃達のは、次で出す予定です。他のクラスメイト達の固有能力も、次で出します。
五日間の勉強期間は、順調に進んでいった。奴隷の講義の時に、正義感の晃が憤怒する事件があったが、晃の親友の尽力でどうにか収拾させることができた。
「すまん大地、少し熱くなりすぎた……」
「いいって、いいって! 気持ちは分かるし……まあ、お前らしいっちゃあ、らしいしな!」
「そうだよ~、だいちゃんが軽い分、晃君が真面目じゃないと、絵美が疲れちゃうよ?」
飄々とした雰囲気、茶髪にイヤリング、筋骨悠々の姿はまさに不良といった感じの男……守野大地は、晃と絵美の幼馴染みであり、いつも二人の矢面に立って来た存在だ。
そんな、大地は熱くなりすぎた事を反省する、晃に陽気に笑いながら、気にするなとなだめていた。
「ふあぁあ……」
「ゆう君、さっきの講義中、ずっと寝てたね……明日はステータスの儀だけど、大丈夫?」
そんな、大反省中の晃の前に、寝てた事を悪びれる様子もなく、優太が歩いてくる。当然、幸子が注意と心配をしながら……
「優太! お前はまた、幸子に甘えているな!」
「あれ? さっちゃん達、今戻るの?」
そんな、優太達を見つけると、晃が猛然と食いかかるが、当の優太は面倒臭そうに、そそくさと部屋へ向かってしまった。
「あっ、ゆう君! また、明日!」
帰っていった、優太に幸子は見送ると、絵美と話し、晃は優太の態度に額に青筋を浮かべ、大地になだめられるのだった。
「はぁ~、早く、落ち着ける場所にいきたいなぁー」
優太は、そう呟き、明日の事を考えるのだった。
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この五日で、世界、国、魔物、ダンジョン、魔法と様々な事を学んだ。
そして、今、優太達はジゼル王に円卓の間に、呼び出されていた。
「さて、この五日間で、少しであるが世界の事を学ぶことが出来ただろう。それも、踏まえ、どの様に旅へと行ってもらうかを話そう」
ジゼル王は、前置きを述べると、今後の方針を話し出す。
「まずは、戦いたく無い者は、正直に言って欲しい……無理矢理も同然なのだ……旅に出なくとも責めないし、この城で保護することを誓おう……」
ジゼル王は、どこかで悲しそうにそう言い、名の制約を使い、戦わない者達を保護することを誓った。
「そして、この世界の為に、戦ってくれる者達にも、最大限の手助けはするつもりだ。それでだ、旅立つ者達には、最低四人一組で動いてもらいたい……」
「は? いや、それは困る……」
今まで、うつらうつらと、うたた寝していた優太が突然、異議を唱えた。そして、その言葉に反応したのは、幸子、晃、それに進だった。
「優太! 一体何のつもりだ? もしかして、一人で……正気じゃない!」
「そうだよ! ゆう君、この世界には魔物も、盗賊だって……一人でなんて絶対ダメ!」
「優太君、意図を聞かせてください……理由も言わずに一人でなんて許可できません。君も僕の生徒です……守るべき存在なのですから」
そんな、三人とクラスメイト達、ジゼル王に一息、溜め息をつくと、優太は自分の考えを話し始めた。
「はぁ~、まず、俺は困るだけで、他の連中は最低四人一組で良いと思うぞ? そこは、否定しない」
優太の言葉に、幸子が「じゃあ、何で……」と呟くのを聞きながら続きを話す。
「しかしな、力を手に入れた人間……それも、顔を知ってるだけの赤の他人に、背中は任せられない」
「ふむ? 救世主様方も、一枚岩ではないと?」
「……!? 仲間を……信じられないと?」
優太の話しを聞き、ジゼル王は何かを考え込み、進はどこか悔しそうに、歯を噛み締めている。
その様子を見た優太は、再び溜め息をついた。
「はぁ~、信用出来ないなんて、偉そうなことは言えないが……人は変わるし、変わらないとこの世界は歩くことすら出来ない、その為にも、イレギュラーは避けたい」
「……あくまで、生きるための選択だと?」
「そうだよ先生。この先、人を殺すかもしれない、命を落とすかもしれない、気の触れる奴が出てもおかしくないんだ……」
人を殺す、その言葉に震える手を握り締める者達、その姿を見て、優太は目を細める。
理屈は分かる、錯乱して強力な力の暴走、その危険の回避、分かるが、だからこそ支えが必要なのではないか? そんな、心の葛藤が、進にのしかかる。
しかし、沈黙を破ったのは、ジゼル王だった。
「ふむ、この事はステータスの儀を終えてからでよかろう。この儀式には、国の重鎮達が見に来るからな、準備を始めよう……ランド!」
ジゼル王は、場の空気をバッサリの断ち切り、執事のランドを呼び、儀式の間へと案内させるのだった。
「ゆう君……」
幸子は一人、暗い顔をしている。胸に渦巻く嫌な予感、それでもと、頭を振り思考をすぐに切り替える、彼女もまた、元の平凡な日常に帰るために旅立つ決意をかためるのだった。
儀式の間……その部屋の真ん中には、巨大な祭壇が有り、祭壇の近くに、数人のメイド達が控えていた。
「儀式の後、代表としてヒカル様には、力を披露していただきます。この披露には、重鎮の方々への牽制の意もあります」
「牽制? どうして、そんな必要が?」
「重鎮の方々の中には、貴殿方を使い、よからなぬことを考える者も居るのですよ」
ランドの、流れの説明の最中に、国の裏を聞かされ、生唾を飲み込む音がそこかしこから聞こえる。
しかし、その説明の最中も、優太は絶賛通常運転だ。今も、眠そうに欠伸を噛み締めていた。
「お兄様、せっかくですから、ユウタ様にも力の披露をお願い致しましょう」
といきなり、メイド達の前頭に立っていた女性がぶっこんで来た。
ランドを兄と呼んだ彼女は、ランドの実妹、シリア・バトラード。兄によく似た、整った顔つきに、栗色の髪を後ろに纏め、メイド服が似合っていた。
「シリア、それはお前の提案ですか?」
「ふふっ、いえ、陛下が提案なされました。ユウタ様が気になっているご様子でしたから……」
「分かりました、では、ユウタ様もヒカル様と共に力の披露をお願いします」
「おおぅ、決定事項かよ、ちくしょう……」
二人は頷き合い、優太の悪態を、華麗にスルーして、それぞれの位置へと戻っていった。
暫くすると、来賓席のような場所に、数人の重鎮と思われる男達が入ってきた。ジゼル王も一緒だ。
「それでは、これよりステータスの儀を始める。侍女達よ、あれを此処に……」
ステータスの儀、儀式と言っても、この世界の冒険者ギルドに行けば、ほいほいと発行出来るのだが、儀式の本来の意味としては、牽制が主だったりしている。
ステータスの儀自体は、魔法陣の刻まれた、カードに魔力を注ぐだけの簡単なお仕事だ。メイド達が持ってきたのは、そのカードだ。
「皆に行き渡ったかな? では、魔力を注ぐのだ」
魔力を注ぐ、本来ならば意味の分からない世迷い言。しかし、ここは異世界、この世界の事を学んだ優太達は頷くと、魔力を注ぎ始める。
魔力を注ぐ事自体は、簡単だ。意識を集中し、魔力をイメージするだけ、すると、優太達の手にあるカードの魔法陣が強く輝き始めた。
「うむ、魔力の登録が終わったな……皆、カードを見てみよ、己の力の全てが記されているだろう」
ジゼル王の言葉に、優太達は手元のプラスチックによく似た質感のカードを見始める。
カードには、様々な情報が載っていた。ちなみに、優太のステータスは───
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矢野優太 16歳 Lv.1
性別 男 種族 人族
職業 魔導師 特殊職 転移者/救世主
体力 :20
攻撃力:20
防御力:20
持久力:20
敏捷力:20
魔力 :1000
魔防 :1000
固有能力 〈魔法創造〉
スキル 言語理解(固定) 魔力増加超大 魔法鉄壁
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───と、なっていた。
「ちょっとまてや! こらぁ!」
「ゆうくんが、いきなり怒った!?」
「いや、悪い……何でもないんだ、天野……」
突然、ヤクザ顔負けの悪態をつき始めた、優太に幸子が驚くという、使い古されたやり取りをしながらも、儀式のメインイベントが始まる。
「それでは、ヒカル様にユウタ様よ、一部力を見せてくれ」
「はい! では、俺から……剣は有りますか?」
ジゼル王の言葉に、晃は頷くと剣は無いかと聞いていた。その間、優太は一つの考えを巡らせていた。
(この披露は、何処まで見せるべきか……)
優太が悩んでいるのは、〈魔法創造〉の事だ、詳細表示を見たところ、とんでもない代物だと分かった。
〈魔法創造〉……魔力の直接操作が可能になる。魔法に関連する、あらゆる事象に干渉し、創り、混ぜ、組み換える事が出来る固有能力。
ちなみに、晃の固有能力は〈聖剣生成〉……ありとあらゆる剣を、聖剣へと作り替える能力らしく、たった今、力の披露を終えたところだった。
「ヒカル様の力、素晴らしい力だ世界の為に、その力をお振るい下され。では次に、ユウタ様よ何か、必要な物はありますかな?」
そして、優太の出番がやって来た。ジゼル王の言葉に、優太は横に首を振り、祭壇へ上がっていった。
先ほどの、晃の披露を考え事をしていて、見ていなかった為に祭壇の変化に気が付かなかった。
(祭壇が……広がった? 結界もか、一番スタンダードなのは……魔法の合成かな?)
そう考えをまとめ、優太はおもむろに、魔法を唱えた。全く違う属性二つの魔法を……
「貫きし氷結の矢【氷撃】、焼き尽くす爆炎【炎撃】」
すると、赤と青の魔法陣が出現し、その魔法陣を重ね合わせ、違う魔法を創り出す。実は、魔力の直接操作のお陰で、詠唱も魔法陣も、不必要だったりする。
「全てを氷結し、爆砕せよ【氷結・爆】」
本来の【氷結】ならば、氷の矢で敵を貫き、凍らせる。しかし、優太が創り出した魔法は、氷の矢の鏃辺りに炎が閉じ込められている。
そして、赤と青の魔法陣が重なり、規則的に回転する魔法陣から、合計六発のそれらが、目の前の的に殺到する。
瞬間……
ドスッドスッドスッ……ピキッパキッ、ズドオォォン
全弾命中、氷の矢が的に当り、着弾地点が凍り付いていく。とたん、死の凍結に重なる、破壊の豪炎……優太以外の、その場にいた、全員が呆然としている。
「すごい……綺麗」
「あぁ……」
その破壊力、魔法の合成。しかし、幸子は爆発の後のダイアモンドダストに感動していた。
優太は、その輝きの中、一人……立ち尽くす、その姿はどこか哀しげだった。
「大義であったぞ! 皆、救世主様方に拍手を……これにて、ステータスの儀式を終了する」
「……皆様、下手はご考え無いようにお願い致します」
重鎮達は、先ほどの光景を目の当たりにしてか、ランドの静かな声に頷く。
「ゆう君……」
「悪い天野……先に部屋に戻るよ」
そう言うと、優太は部屋へと帰っていった。
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その日の夜、城にあるベランダに二人の男女……優太と幸子がいた。
「こんなところにいたの? 探したよゆう君……」
「幸子か……何か用か?」
優太は、人前では、幸子の事を“天野”と呼ぶが、二人きり、または、家族の前だと“幸子“と名前で呼ぶ。
幸子は優太の言葉に頷くと、優太の隣へと、近寄ってくる。
「うん、ゆう君。さっきの話し、やっぱり私も一緒に……」
「幸子は、大野達に付いてくれ。あの二人を小崎一人じゃ、きついだろ?」
幸子の言葉に、明らかにはぐらかす優太に、幸子は哀しそうに顔を伏せる。
「ゆう君は、私のことは、どうでもいいの?」
「違う、大野達との方が安全……」
「矛盾してるよ? ほんとの事をいってよ。ゆう君、私……分かってるんだよ? ゆう君は、自分の弱さも、自分が変わるのも見られたくないんだよね、だから……」
その言葉に、優太は哀しく、優しい目で幸子を見つめる。
「ああ、そうだ」
「やっぱり……私」
「それでもだ……分かるだろ?」
その言葉に、幸子は何かを言おうとして……言葉を飲み込んだ。
「うん、分かるよ……だから……絶対に生きて戻ってきて、一緒に帰ろ……」
「ああ、ありがとう……幸子」
「私、待ってるから……ね?」
その言葉に優太は微笑む、他人には絶対に見せない微笑みを幸子に向ける。
「ああ、約束する。絶対に生きて戻ってくる……お休み」
「うん、お休み。まだ……あの夢を見るの?」
幸子は、一言優太にそう聞いた、二人にしか分からない質問、それに優太は、優しく微笑み、語り掛ける様に答えた。
「ああ、今もうなされるよ、だけど、昔ほど寝苦しくはない。幸子のお陰で……な」
「そっか……引き止めてごめんね、お休み……ゆう君」
二人はそれぞれの部屋へと、帰っていった。明日からの、戦闘訓練に備えて。
二作投稿は傲慢でしょうか。初心者が粋がるなとなるでしょうか。アルファポリスが書きにくいと個人的に思い、あっちのをなろうに移そうと思ってます。