その名はサンプルレンジャー
ガゼットの表紙を見て思いついたネタを正月のテンションで書き上げたものです。
続くかどうかは判らない!
~ 1月某日、アキバ近郊の石切り場にて ~
五人の〈冒険者〉が眼下に群れ集うモンスターたちを見下ろしていた。
重厚な鎧を着込んだ赤毛の戦士。メイド姿をした青髪の女魔術師。黄金色の髪を掻き上げる女エルフの双剣士。緑色の武道着を纏う辮髪のエルフ。そして桃色のリボンを揺らす和装の少女。
「やい、〈黒狸族〉ども! よくも僕のお年玉・・・・もとい、正月に賑わうアキバの街を混乱におとしいれてくれたな。 覚悟しろ!」
崖上に並び立つ五人の中央で、代表なのか赤毛の戦士が狸の獣人といった姿の亜人種族にズビシと人差し指を向ける。
そして、五人でそれぞれ頷き合い。
「行くぞ! 鋼の鎧に勇気を乗せて、みんなを護るは戦士の務め! 守護戦士の赤!」
まず、中央に立った赤毛の戦士が開いた右手を前に突き出すポーズをとる。
「眼鏡とメイドは知性の証。淹れたて一番摘み、妖術師の青!」
その右側で、豊かな胸の前に両手を交差させた神秘的なポーズをとるのは青髪の女魔術師だ。
「屈しないで戦いたい、地に魔物のあるかぎり。盗剣士の黄色!」
反対側では、エルフの女剣士が左右の手を斜め下に振り下ろし、凛々しいポーズを決めている。
「私は武闘家の緑色。挑発かまして〈緑子鬼〉から〈真竜〉まで引きずり回してやります」
一番右側では辮髪のエルフが武闘着を翻して皮肉そうな笑みを浮かべる。
「フシダラな皆さんには、この神祇官の桃色が愛の神罰、落とさせていただきます!」
一番左側に居た和装の少女が怒りを込めた右手を天に掲げるポーズを決め、五人が一勢に構えを変える。
いきなり始まった名乗り上げに虚を突かれていた〈黒狸族〉たちだったが、その動きに慌てて戦闘態勢を取とり始める。
再び、五人を代表するかのように赤毛の戦士、〈守護戦士の赤〉が声を張り上げる。
「我ら、五人揃ってぇぇぇ・・・・」
名乗り上げを締めようとした、その時・・・・
「「「ちょっと待ったぁぁぁ!」」」
割り込むように声が掛けられたのだ。
「第六の戦士、参上ですぞ!」
「ウチが第六の戦士なのー!」
「余こそ第六の戦士なのだ!」
「何奴マミー!?」
驚いて声のする方角を仰ぎ見る〈黒狸族〉から見て右手の崖に、新たに三つの影が現れていた。
「モフモフの守護者、召喚術師の水色!」
三人の中で最初に口上を述べたのは一見して性別不明の魔術師。ババッと大きく振り回す腕につられて羽織ったポンチョと緩く縛った水色の長髪が閃く。その背後では〈一角獣〉が演出効果代わりに嘶いている。
「吟遊詩人の橙色! ウチの稼ぎ場所はここなの?」
それに続くのは北米先住民めいた鳥の羽を多用した服装の少女だ。敬礼するかのように右手を前方に突き出す動きに合わせて鮮やかな橙色の髪が踊る。BGMに援護歌で物悲しい横笛の音色を流している。
「茨撃、余流、軍略の限りを尽くす。〈叡智の実践者〉付与術師の菫色!」
威厳を込めてマントを翻すのは紫色の衣装に身を包む少年だ。半ズボンから覗く膝は幼さを感じさせるが、呪文の詠唱を中断したまま維持することで身に纏った覇気は魔王もかくやという威圧感を放っている。
しかし・・・・
「ちょっとキミたち、第六の戦士は・・・・」
「いや、第六天魔王の例えもある通り六と言う数字は余にこそ相応し」
「ウチが第六の戦士。譲れないなのー!」
「コイツら、何やってるマミ?」
いきなり始まる口論に〈黒狸族〉の困惑は深まるばかりだ。そこに・・・・
「騒がしいですよ。マイナーカラー三人衆」
「まったくなのだわ。そんなに必死にならなくたって良いのだわ」
新たな声が掛けられ、〈黒狸族〉も口論していた三人も、その方角に目をやる。
そこには更に二つの影が。
「当方は、太陽の子、暗殺者の黒!」
「同じく、光の使者、施療神官の白! ふたりは・・・・」
「いや、それはご勘弁を、レディ」
崖の上、猫の頭部を持つ長身で黒尽くめの青年と、淡い金髪をした小柄な白衣の少女が背中合わせに立っていたのだ。
「キサマら、一体何がしたいマミー!?」
好い加減、緊張に耐えかね、〈黒狸族〉たちが騒ぎ始める。
「さぁ、好い加減に〆てしまいましょう。頼みますよ、ミスター」
〈暗殺者の黒〉に水を向けられ、〈守護戦士の赤〉は役割を思い出したように、動き出す。
「我らっ! ログホラ戦隊! サンプルレンジャー!!」
十人がそれぞれ思い思いのポーズを極め、背後に各自のイメージカラーの爆発が起こる。
かくしてアキバの正月を騒乱に陥れた〈黒狸族〉へのお仕置きが、(ようやく)開始されたのだった。
~ 同日同時刻、某ギルドの炬燵部屋にて ~
「なぁ、なんでオレ達は出番無しなんだ?」
「よく判らないけど、色の都合らしいわよぉ。司令さんっ」
茶色を基本色とした和風の鎧に身を包んだ狼耳の武士と、薄緑色の薄衣を纏った狐耳の森呪遣いは、とても暇そうに酒盃を傾けるのであった。