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五人の子悪魔  作者: とんとん
4/4

アスタの話 1の3 出会いの2

 何か大事な夢を見ていた様な気がした。

しかし夢というのは大切であればあるほど、目覚めてみればすぐ忘れてしまうものだった。

それに起きた場所が見知らぬ景色であれば、なおの事である。

 

「目が覚めたか。」

 

 アスタが身を起こすと、鳥人種の女性がこちらも見ずにそう言った。

アスタと違って羽は腕から生えていたが、足はアスタと同じくふとともから先が鳥の足である。

赤み掛かった長く艶やかな髪の毛は、陽射しを受けて煌びやかに光っている。

服にはあまり興味がないのか、簡素な布切れで豊かな胸と下半身を覆っていた。

 

「あなたは……誰?」

 

 アスタは当然の疑問を口にする。

身体を見てみると痛々しく刺さっていた矢が全て消え失せ、傷口は塞がっていた。

倦怠感はあるものの、痛みは一切感じられない。

目の前の女性が治してくれたと考えるのが自然であり、女性が敵ではないと直感も告げていた。

 

「私か……?」

 

 女性が振り返ってこちらを見た。

頬には色こそ違うものの、同じ模様が刻まれている。

女性はアスタを見つめるとやや間を置いて、こう言った。

 

「私はお前の母になっていたかもしれない女性だ。」

 

 

         ○

         

 アスタの母親はアスタを産んですぐに亡くなったと父から聞かされていた。

兄や姉の話によると、母は身体こそ病弱であったが、とても強い魔力を持つ魔物であり、父である魔王を軽く凌ぐほどであったという。

そして数多く集めた嫁候補の中で、群を抜いて美しかったそうだ。

母の魔力は長女のラヴィリアへ、美貌は末娘であるティセリアへ、しっかり受け継がれたと父はいつも自慢げに話していた。

アスタについても、お前は母親似の美男子になるぞと事あるごとに可愛がっていた。 

 

 これだけ聞けば子煩悩なだけではないかと疑いたくなるが、長男のエルゴスタと次女であるダリアへの態度がその疑惑を否定していた。

父の目からするとエルゴスタは可愛げがなく、ダリアは可愛くなかった。

だからなのか父のこの二人に対する態度は何処か冷たい所があり、きっと私は本当の家族じゃないんだわとダリアが時々愚痴を言うほどであった。

その都度ラヴィリアが慰めていたが、アスタはその会話を聞く度に母親や家族について考えた。

 

――自分だけ容姿がみんなと違うのはどうしてなんだろう。

 

魔物の子が親と違う容姿になる事はよくある事だと姉は話してくれた。

実際に翼の形や角の形は兄弟間で異なっている。

しかし下半身が鳥であるという程の大きな違いは、アスタにしか無いように思えた。

 

 だから、この問い掛けを口にする事に躊躇いはなかった。

 

「僕の……お母さんなの……?」

 

顔をそらす事もなくその疑問を受け止めて、眉一つ動く事もない。

動揺している様に見えなかったが、しかし即座に返事をする事はなかった。

重苦しい空気の中、別の事を聞くべきかと口を開きかけた時、呟く様に女性が答えた。

 

「言っただろう……。かもしれないと……。」

 

女性はアスタの傍まで来ると膝を落としてアスタを真正面から見据えた。

両手をアスタの頬に添えて、模様を指でなぞる。

触れるか触れないかの強さで滑っていく手はとてもくすぐったかったが、嫌いではなかった。

その動きに何処か優しさを感じられたからかもしれない。

 

「会いたくなかったが……、会えて嬉しいよ。アスタ。」

 

 やはり顔色を変えずに、そう言った。

 

 

         △

         

 女性はフレアと名乗った。

遠くの森で鳥人種を束ねる長をしていたらしいが、里を出てこの森で暮らし始めそうだ。

何故移り住む事にしたのかは聞いても教えてくれなかった。

 

「アスタ、お前は強くなる必要がある。」

 

 身体の具合を確かめていると、フレアは突然そんな事を言った。

アスタをじっと見据えて、先程よりも力強く、言い聞かせる様に繰り返す。

 

「善悪の分別が付く前に、力を身に付けるんだ。」

 

 アスタは何も言わなかった。

産まれた時から強くなる事への欲求は強かった。

しかしフレアが突然そんな事を話してきた意図が分からなかったし、善悪の分別とは何かもよく分からなかった。

その為どう答えたら良いのかアスタが迷っていると、フレアは異論無しと判断したのか先を続けた。

 

「まずは力の制御を学ぶ事からだ。そうでなくては溢れた力に圧し潰されてしまう……。」

 

 半ば独り言の様に呟くと、フレアはアスタの後ろを指差した。

つられて振り返ったが、どの方角も鬱蒼とした森がすぐに視界を遮ってしまった。

 

「そこの森には力を持たない動物たちが多く住んでいる。彼らの一匹を捕まえてこい。」

「……それだけ?」

「あぁ。それだけだ。」

 

 アスタは首をかしげた。

魔物が動物一匹を捕まえる事など造作の無い事の様に思えた。

聞く者によっては魔族を馬鹿にしているのかと怒り出すかもしれない。

しかしアスタに怒りの感情は一切なく、ただ相手の考えが読めずに困っていた。

 

「捕まえてきたら、フレアは嬉しいの?」

「…………え?」

「フレアが喜ぶなら、僕、捕まえてきても良いよ。」

 

 アスタと出会ってから初めてフレアは感情をあらわにした。

戸惑いの表情は徐々に苦悶あるいは憐憫の表情へと変わり、そして元の仏頂面へと戻っていく。

 

「……あぁ。嬉しいよ。」

「分かった。それじゃあ捕まえてくるね。」

 

 微塵も嬉しそうではない、淡々としたフレアの言葉を聞き終えて、アスタは腰を上げた。

見ず知らずの相手が言う事を真に受けるほど、アスタは幼くない。

しかし何故かフレアに初めて出会ったとは思えなかった。フレアの喜ぶ顔が見たいと、心の内で思っている自分自身に困惑していた。

フレアがずっと重々しい雰囲気を纏っていたから、その雰囲気を和らげたいと考えたからかもしれない。

思考の整理が上手く出来ないまま、示された森へと足を踏み出した。

考えるより身体を動かす方が好きだったし、動物を捕まえてきてからどうしようか決めようと思った。


遅れてごめんなさい。婚活やらで忙しかったせいです。

実り無き婚活なぞに精を出すくらいなら話を書けば良かった。

そうすれば財布も幾ばくか厚みが残っていただろうに……。

後悔先に立たず。

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