お嬢様、説教をくらう
「お嬢様、今日から学校だと言うのに支度もなさらないで、一体どこへいくのですか?」
お嬢様、と言いつつ全くお嬢様を敬う感じが全くないこのメイドさんの名前は、ブラン。
真っ白な髪にこれまたシミ一つ無い真っ白な肌。
それ故に目立つツリ目がちの赤い瞳。
文句なしの美少女である。だが、その顔を楽しむ余裕は今の私にはない。
「まさか、入学式から休もうとしているんじゃあありませんよね?」
ブランの声は冷たい。明らかに私が学校に行こうとしていないのがわかっている。
「あはははは、そ、そんなわけ無いじゃない。ちゃんといくわよ。たまたま鞄を忘れただけよ。」
「そうですか。それではお部屋に戻って準備をなさってください。幸い、まだ時間はあります。」
その冷たい微笑みには、有無を言わさない迫力があった。
残念ながらこうなったブランに逆らうことは私には不可能だ。
「......はい、40秒で支度をしてきます...。」
私の美少女ハーレム大作戦は初めからつまづいてしまった。だが、私は諦めない。障害の一つや二つは覚悟の上である。
「まったく......お嬢様が学園に通うと言い出したのですよ。しっかりなさってください。」
「いや、でもやっぱり、いざとなると面倒くさいというかなんというか。」
「お嬢様はこの王国が嫌いなのは分かっていますから。それも覚悟の上で仰ったのですよね?」
「うぐっ、まあそうなんだけどね...」
「でしたら、ほら、準備も出来たことですし行ってらっしゃいませ。」
しょうがない。言い出しっぺはこの私だ。男ではないが私に二言はない。覚悟完了。いざ、旅立たん。
「分かったわよ。いきますよーだ。行けばいいんでしょ、行けば。」
「はい。安全に注意して、改めて行ってらっしゃいませ。」
うまくブランの口車に乗せられた気がする。
......なんだか、面白くない。
私はちょっとイタズラをしてやろうとブランにむかって、キスをおねだりしてみた。
「ねえねえ、行ってらっしゃいのキスは?」
すると、ブランは顔を真っ赤に染めて、
「キ、キスでしゅか?しょ、しょの朝からそのような行為は......」
噛みながらあたふたしていた。
「うふふ、それ以上のこともしているのに、いつまでたっても初なのねえ、ブランは。」
そこがかわいいんだけど。
「い、いいから、早くいってください!遅刻してしまいますよ!」
「じゃあ、ほら早く。キスちょうだい。」
「わ、分かりましたよ。でも、一回だけですからね!」
「はいはい。ほら......早く...」
私は目を閉じてブランからのキスを待つ。
チュッ
静かなリップ音とともにブランの唇が私の唇に重なった。
舌を入れないバードキスだったが、私は満足だ。
「ど、どうですか?お嬢様?」
目を開くと真っ赤なブランが上目使いでキスの感想を聞いてきた。
......思わず襲ってしまいそうになるくらいにかわいい。
だが、ここで襲ってしまっては学校に遅れてしまう。それでは本末転倒というものだ。
「ありがとう、ブラン。じゃあいってくるわね。」
「は、はい。行ってらっしゃいませ。お嬢さ「それと」え?」
「こういうときは、お嬢様じゃないでしょ?ブラン。」
まったく...こんな時まで仕事モードが抜けないのはどうかと思う。まじめなのはいいけど、雰囲気ってものがあるのだ。
私がそう言うとブランは再び顔を真っ赤に染めて、
「...行ってらっしゃい、お姉ちゃん......」
小声で私を見送った。
今日1日これで頑張れる。
やっぱり美少女は最高だ。
ー取りあえず帰ったら押し倒そう。
そう考えながら、私は学校への道を歩き始めた。