ある男の最後の1日
こんな事になるのなら昨日買ったカレーパンを我慢せずに食べておくべきだったと生瀬和弘は思った。
カレーパンを食べなかった理由はこの日の昼食をいつも行ってる田中亭のカレーライスに決めていたからだ。
大好きなカレーを食べに行くのに似たようなカレーパンで小腹を満たすことはないと思い何も食べずに田中亭へ向かう、その途中の事故だった。
大通りから一つ外れた交差点、その向かいにお目当ての店がある。
柄にもなく小走りなんてしなければ近づいてくる車に気付かないなんてことはなかったはずだ。
ミニワゴンから生瀬と同い年だろうか、あるいは年下の女が一人降りてきた。さっき出来たヘコみと生瀬の血がこびりついて居なければ新車の様に見える。その女には表情が足りない。と言うよりは無いに等しい。無表情で生瀬を見下ろしていた。
ー何だよその顔は、お前がやったんだろうがー
怒鳴れない変わりに生瀬は思った。生瀬を生瀬の血が囲む。
ーあぁだるぃ、いや眠い?何でだっけ?あぁまだ昼飯食ってないや。腹減ったなぁ…ー
自分を吹き飛ばしたミニワゴンを見つめながら薄れ行く意識の中、思考を巡らせる。
ーなんかあの車、カレーライスみたいだなー
生瀬和弘は今、死んだ。