第十一章[男の戦い]
―時は流れ、夏。
バンドとチア部の活動を両立させる毎日が、
少しずつ安定してきた。
まだ、いじめは続いているけれど。
「それでも仲間がいてくれる。」
それだけでも、ミカにとっては大きい。
キーンコーンカーンコーン・・・
翔 「あっち~」
ツバサ 「もう、本格的に夏だね」
ジョニー 「蝉が鳴いてると余計に夏って感じだな」
生徒 「おい」
翔 「なんだよ?」
生徒 「お前たちのバンド・・・こないだライブやったんだって?」
生徒 「変に注目されてっけど」
翔 「ああ。わりーな大人気だったぜ」
生徒 「ふん・・・調子に乗んなよ。ちょっと人が集まったくらいで・・・」
生徒 「どうせすぐ消えるだろ」
生徒 「そうだよね~」
ミカ 「そっ・・・そう思っておけばいい」
生徒 「?」
ミカ 「いつか私たちが有名になったら・・・後悔させてみせるから・・・っ」
生徒 「は?何言ってんの?」
生徒 「声が小さくて聞こえませーん」
生徒 「あんたもさ、チアやってるから強いとか思ってんの?」
ミカ 「ちっ・・・ちがうっ・・・」
―ガラガラ・・・ガタン!!
生徒 「ミカ!!!」
ミカ 「・・・?」
生徒 「おおおおいた!すげー」
翔 「誰だ?」
光 「さぁ・・・?」
―見たことのない男子学生。
茶髪のスポーティーな雰囲気で、背も高い。
漫画に出てくる、学校の大人気な男の子という雰囲気だ。
ミカ 「・・・??」
生徒 「探してたんだよー!!!」
生徒はミカに駆け寄った。
生徒 「ちょ・・・えっ!?涼何やってるの?」
涼 「小林・・・ミカ!」
ミカ 「えっ!?」
涼 「野元涼です。よろしく!」
ミカ 「え・・・あ・・・よ、よろし・・・」
翔 「ちょっと待ったー!!」
涼 「?」
翔 「気安く触ってんじゃねーよ!つか誰だよ!!」
生徒 「きゃーーー!涼くーん!」
生徒 「なんでうちのクラスにー?」
生徒 「え、どこどこ?」
涼 「ちょっと話してみたくてさ、来ちゃった☆」
生徒 「きゃーーー!キラーンってしてる!」
生徒 「イケメン~!!」
生徒 「誰に会いに来たのー?」
クラス中の生徒たちが、一斉に涼を見つけると、そのすぐ隣にはミカがいた。
生徒 「え・・・冗談でしょ?」
涼 「何が?☆」
生徒 「話してみたかった人って・・・」
涼 「この、小林さんだよ!」
生徒 「は!?何言ってんの・・・」
翔 「おい待て!こっちのセリフだ!」
生徒 「アンタは黙ってなさい!」
翔 「ああん(怒)!?」
ジョニ― 「おいやめろ翔」
涼 「あーあ・・・うるさくなっちゃったね」
ミカ 「・・・。」
生徒 「だいたいね、涼はみんなのアイドルなんだから!こんな奴が独り占めしていいわけないじゃない!」
翔 「だからなんなんだよそれ!」
ミカ 「・・・何の・・・ご用ですか?」
ミカは不安そうに尋ねた。
涼 「ちょっとだけ時間もらえる?」
ミカ 「え・・・」
生徒 「ねぇ涼くーん!」
涼 「ごめんみんな!また今度ね!」
涼はミカを連れて教室を出た。
翔 「おい、待てって!」
―五分後・・・
涼 「・・・ここなら邪魔は来ないな」
ミカ 「あ、あの・・・私に何の御用でしょうか?」
涼 「そんなよそよそしくしないでよ☆」
ミカ 「え・・・」
涼 「俺さ、こないだのライブ見たんだよ!ビバ☆ロックの!」
ミカ 「あ・・・ど、どうも・・・」
涼 「日曜にほぼ毎週やってるよな?俺、時間あるときは毎回見てるんだけど・・・もしかして気付いてもらえてなかった?」
ミカ 「ありがとう・・・でも、歌ってるときは歌に集中しすぎてて・・・ごめんね」
涼 「そっか!・・・初めてライブを見たときは衝撃だったな・・・街をたまたま歩いてたら綺麗な声が聞こえてきて・・・しかも見てみたら俺と同世代じゃんってなって」
ミカ 「は、はぁ・・・」
涼 「しかも後から同じ学校の生徒だってわかって衝撃!」
ミカ 「ありがとう・・・これからもよかったらライブ来てね」
涼 「完全にファンとして見てるでしょ?」
ミカ 「え・・・ご、ごめん。」
涼 「俺本当に好きになったわ」
ミカ 「え?」
涼 「ミカ自身をねっ☆」
ミカ 「え・・・!?」
翔 「おーーーい!ミカー!」
ミカ 「し、翔だ」
涼 「・・・。」
翔 「ここにいたのか・・・野元、涼・・・だっけ?何の用だ?」
涼 「青山翔君・・・。ビバ☆ロックのギター担当」
翔 「・・・?」
涼 「君さ、ミカと付き合ってんの?」
翔 「お前には関係ねーだろ」
涼 「君のギターテクニックはすごいと思うけど、君自身はミカにふさわしくないようだね?」
翔 「は!?何言って・・・」
涼 「勝負しよう、翔君。」
翔 「勝負・・・!?」
ミカ 「・・・?」
涼 「ああ。このミカをかけてね☆」
翔 「ふざけんな!!ミカは物じゃねぇ!」
涼 「分かっているよ。でも、仮に僕がミカと付き合ったら・・・この学校はどうなるかな?」
翔 「ずいぶんと自分に自信があるようだがな、お前にもお前のファンがいるみたいだぜ。
ここはお互いのために関わらない方が平和に収まる!」
涼 「それはそうかもしれないが・・・ねぇ、ミカっていじめとか受けてるんでしょ?」
ミカ 「っ・・・・!」
翔 「おい、いい加減にしろよ!傷つくこと言ってんじゃねーぞ!」
涼 「君が暴力的にふるまうことで、余計な混乱が生まれる。より多くの生徒を敵に回すことになるんだよ・・・でもね翔君。幸い僕に歯向かう人はこの学校にはいない。そしてその僕が仮に誰と付き合おうと、僕の決めたことだからって許してくれる。ミカへの冷たい視線もきっと消えるだろう。果たしてどっちが平和的解決なんだろうね?」
翔 「言ってる意味が分かんねーよっ!」
涼 「・・・じゃあどんなことでもミカを守れると?」
翔 「当然だ!!」
涼 「なら勝負の内容は僕が決めさせてもらうね。」
翔 「いいだろう!なんか訳分かんねーことになったけど、どうであれ他の奴にミカは渡せないんで」
涼 「暑苦しいなぁ。・・・言っておくけど、手加減はしないよ」
翔 「あたりめーだ!!!そのかわり、俺が勝ったら二度と近づくんじゃねーぞ!」
涼 「分かった」
ミカ 「待って!勝手に決めないでよっ!」
涼 「・・・。」
ミカ 「二人はそれでいいかもしれないけど・・・こっちは・・・勝手に自分のこと決められたら困るのっ!」
翔 「そ・・・そうだよな・・・ごめん」
涼 「君は翔を信じられないの?」
ミカ 「そういうわけじゃ・・・ないけど・・・」
キーンコーンカーンコーン・・・
涼 「授業の時間だ。またね」
涼は颯爽と教室に戻っていった。
―放課後・・・
ジョニー 「・・・は!?勝負!?」
タクヤ 「それは・・・学校中で騒ぎになるんじゃ・・・!?」
ツバサ 「その人、そんなに有名だったの?」
光 「本当に学校のアイドルらしいYO~!名前を知らないの俺たちだけだったみたいだYO」
ミカ 「・・・。」
翔 「絶対に勝つから問題ねぇ!周りがどう言おうと関係ないからな!」
マリナ 「ねぇ、その勝負まだ正式に受けたってわけじゃないんでしょ?・・・無視できないの?」
翔 「ほっとけないっすよ!」
マリナ 「でもそれでいいの!?」
ミカ 「先輩!・・・私も最初はそう思ってました・・・でも、私は翔を信じてるので」
マリナ 「ミカちゃん・・・」
ツバサ 「勝負の内容は、いつ、どこで?」
翔 「それがまだ分からないんだ。だが・・・アイツが全て決めることになっている」
タクヤ 「そうなのか!?不利になるんじゃ・・・」
ジョニー 「油断できないな」
翔 「ああ・・・」
―次の日・・・
生徒 「ねぇ!これ何―!?」
生徒 「おい見えないよ、なんだよこの人だかり!」
生徒 「なんか掲示板に貼ってあるらしいよ!」
生徒 「・・・なにこれ!」
『青山翔君へ
今日の放課後、決闘を申し込む。体育館でバスケット対決、一対一だ。』
翔 「すげー人だかりだな・・・」
ジョニー 「なんだ?」
生徒たちは一斉に後ろを向いて、翔たちのほうを見た。
翔 「な・・・なんだ?」
生徒 「ねぇ、アイツが青山翔?」
生徒 「そうだよ・・・隣のクラスで・・・」
ミカ 「ちょっとすみません!通してください!」
ミカたちは人をかき分けて、掲示板の前に立った。
ミカ 「・・・これ・・・!」
翔 「あ・・・!」
生徒 「おい翔、冗談よせよー(笑)」
生徒 「涼と対決とかいつ決めたの??」
生徒 「アタシの涼君なんだけどーどういうつもりー?」
生徒 「どーせ勝てねぇって(笑)」
翔 「・・・今日の放課後って・・・」
ミカ 「いきなりすぎる・・・」
生徒 「なぁ、見に行こうぜー」
生徒 「いこいこー!涼君のかっこいいところ見たいし~!」
翔 「・・・行くしかねぇな」
―放課後・・・
ツバサ 「翔!頑張ってね!!負けないで」
翔 「おう!」
ジョニー 「じゃ、体育館行くか」
体育館に着くと、大勢の生徒がコートの周りに集まっていた。
生徒 「涼君頑張ってー!」
生徒 「わー!涼君~!!!」
生徒 「おい、翔たちが来たぜ」
コートにはすでに涼の姿があった。
翔 「・・・よぉ」
涼 「来てくれたんだね、よかったよ」
翔 「逃げるわけにはいかないからな」
涼 「それでこそ翔君だ。」
生徒 「ねぇ・・・なんであいつらこんなことになったの?」
生徒 「よく分かんねー」
涼 「もう一度勝負の内容を確認しておこうか。一対一でバスケット対決だ。先に点を取った方の勝ち。ミカをかけて勝負だ。」
翔 「ああ。」
生徒 「ねぇ、聞いた!?」
生徒 「ミカをかけて勝負・・・って・・・」
生徒 「どういうこと!?」
涼 「さぁ、さっそく始めようか。」
ミカ 「翔!頑張って!!」
翔 「・・・。」
涼は生徒にボールを渡して、翔と向かい合った。
周りで見ている生徒たちは緊張感に包まれ、
自然と歓声をおさえた。
ピー!!!
―笛が鳴ったと同時に、生徒は翔と涼の間の空中にボールを高く投げた。
バシっ!!
生徒 「よし!!涼が取ったぞ!」
生徒 「わーーー!!いけー!」
生徒 「きゃー!」
生徒 「涼君頑張って~!・・・でもなんか勝ってほしくない気もする・・・けど頑張って!」
涼はドリブルをしながらゴールへ向かい、シュートを放った。
翔 「っ!」
生徒 「あー外した~」
生徒 「翔に取られたしっ」
ジョニー 「翔!いけ!」
ツバサ 「頑張れ~~~!!!」
タクヤ 「しかし・・・すげースピードだな」
マリナ先輩 「たしかバスケ部入ってるんじゃなかった?」
タクヤ 「そうなの!?」
光 「自分の得意なもので勝負かYO」
ジョニ― 「とにかくシュート決めろ!」
ミカ 「・・・。」
マリナ先輩 「ああ~またボール取られた!もう見てられないわ!」
ツバサ 「ゴール守って!!」
ジョニ― 「かなりの接戦だな・・・」
涼 「その程度か?」
翔 「少し遊んでただけだっ!」
翔はボールを奪い、涼の守るゴールに向けてシュートした。
涼 「・・・!」
翔 (入れ・・・!!!)
ミカ 「・・・!」
翔のボールは、大きな円を描いてゴールに入った。
ピー!!
生徒 「入った・・・!!」
生徒 「ええええ!」
涼 「なっ・・・」
翔 「っしゃーーー!!!」
ミカ 「わぁ・・・!!」
ジョニー 「やったぜ!」
タクヤ 「さすが!!」
体育館には驚きの声と歓声が混じった。
翔 「正真正銘、俺の勝ちだ!」
涼 「・・・負けたよ」
コートの中心で握手をする二人の元へ、ミカが駆け寄った。
ミカ 「あの・・・お疲れさま」
涼 「ミカ・・・」
ミカ 「私なんかの為に、って言ったら変かもしれないけど・・・二人とも一生懸命でかっこよかった」
ミカは涼に笑顔を見せた。
ミカ 「よかったら、またライブ聴きに来てね」
涼 「・・・ああ」
ミカ 「そして・・・」
ミカは翔を見て頷いた。
ミカ 「信じてたよ、翔」
生徒 「なんかさ・・・涼君ってバスケ部なのに負けたって・・・」
生徒 「翔すごくね?」
生徒 「涼君負けちゃったけど、これでいつまでも私たちのアイドルだね~」
涼 「悔しいけど、やっぱりお似合いだ」
翔 「・・・ありがとな。」
―まるで戦いの終わりを告げるかのように、最終下校時間のチャイムが鳴った。