第十章[夢でもいいや。]
―日曜日・・・
ミカ (あーー・・・ダメだ、緊張する)
ツバサ 「音もうちょっとあげてー!」
翔 「ミカ・・・あれ、ミカ??」
光 「今、裏にいるYO」
翔 「おーい」
ミカ 「・・・あ、ごめん!」
翔 「大丈夫か?」
ミカ 「うん。は~・・・」
翔 「・・・緊張してる?」
ミカ 「う、うん・・・」
ジョニー 「おーい!そろそろ始めるぞ!」
ミカ 「やばい。呼んでる」
翔 「ミカ。」
ミカ 「ん?」
翔はしゃがんで、ミカの頭を撫でた。
ミカ 「・・・。」
翔 「俺たちのバンド名、知ってるか?」
ミカ 「・・・ビバロック」
翔 「そ。」
翔はニコっと笑った。
翔 「全力で楽しもう。俺たちがサポートするから、遠慮せず思いっきり歌ってくれ」
マリナ先輩 「おーい!翔とミカちゃん!」
翔 「すべて解き放つくらいでいいから。」
タクヤ 「どこいったあいつらー!」
翔 「お前の歌が聴きたいんだ。」
ミカ 「・・・うん」
翔 「よし。」
ツバサ 「僕たちも裏行って円陣組もう!」
ミカ 「・・・」
翔は少し周りを気にしてから、そっとミカにキスをした。
ミカ 「・・・!」
光 「翔、ミカ!そろそろいこうYO」
ミカ 「ああ!そそそそそうだね!!」
タクヤ 「おい大丈夫か?すげー緊張してるけど・・・」
ミカ (もうライブのことより今のが緊張してる!!なんなの!?)
マリナ先輩 「頑張りましょ!」
ミカ 「・・・はい!」
翔 「ミカ・・・」
ミカ 「ありがとう、翔」
翔 「・・・」
光 「なになに?」
タクヤ 「今度にしようぜ!もう時間だ!」
ジョニー 「さ、ミカ!」
ミカ 「う、うん・・・!」
メンバーは円になり、手を重ねた。
ミカ 「ビバ☆!」
みんな 「ローーーック!!」
裏から階段を上り、ステージに上がる。
外の光がまぶしい。
それぞれがポジションにつく。
ミカ (わぁ・・・人がたくさんいる・・・今日は日曜日だしね・・・)
翔 「ミカ、始めよう」
ミカ 「うん!」
ミカは勇気を出して、マイクに近づく。
ミカ 「こんにちは!ビバ☆ロックです!今日は久々のライブということですが、その前に新メンバーをご紹介します。まず、私、ボーカルの小林ミカ、キーボード、小林卓也、サックス、海堂真梨奈です!よろしくお願いします。」
タクヤとマリナはおじぎをした。
ミカ 「それでは、さっそく始めたいと思います。」
光がドラムのスティックを四回叩いて、前奏が始まった。
♪~~~~♪♪~~~
ミカは歌いながら、街行く人々を見つめていた。
誰か。一人だけでもいい。五分だけでも、止まって。
♪~~~♪♪♪~~~♪~~~~
「なんかやってるー」
「え~誰?」
行き交う人ごみのなかに、見覚えのある人影を見つけた。
ミカ 「・・・・・・!!!」
―同じクラスの人たちだ。
そう分かった瞬間、ミカは一気に声を落としてしまった。
翔 (・・・ん!?)
ジョニー (なんだ?マイクトラブルか?声量が弱く・・・?)
「あれ!?ねぇ、あれってクラスの・・・」
「え?!やば、あいつら本当にバンドやってんの!?ウケる!!!」
「しかもミカボーカルなんだけど!」
―嫌だ。
こないで。
こっちを見ないで。
ミカ 「っ・・・」
翔 「♪~」
ジョニー 「♪~」
同じくメンバーもクラスメートの存在に気付いたが、演奏を続けようと必死に歌に参加した。
「全然歌えてねーじゃん、何あれ~」
「もう行こ~」
「へったくそー!!」
せっかく立ち止まってくれた街の人たちが、どんどん立ち去っていく。
それを見て、クラスメートが声を出して笑っている。
―ああ。
やっぱり、私はダメだ。
怖がってしまって、何もできない。
その時、後ろから声が聞こえた。
翔 「ミカ!歌ってくれ!!」
ミカ 「・・・あ・・・」
そうだ。私は歌わなければいけないのに。
みんなが支えてくれているのに。
私がライブを潰してしまってはいけない。
私には、何もできないけれど。
音楽でなら。
音楽でなら、戦えるかもしれない。
―ミカは再び勇気を出して、歌い始める。
「・・・ねぇ、なんかライブやってるよ」
「あれ?アレってビバ☆ロックじゃん!新しいメンバーがいる!」
「あの女の子誰~??」
「よく分からないけど、歌うまいね~」
「ね。ビバのライブ久々~!」
―徐々に街の人たちが集まってくる。
クラスメートたちは、まだこちらを見て笑っているけれど。
♪~~~♪~~
パチパチ・・・
ミカ 「ありがとうございました。途中、すみませんでしたっ!・・・次が最後の曲になります。私が作詞・作曲した新曲です。」
「え・・・アイツが作曲?」
「面白い、聞いてやろーぜ」
―クラスメートはまだ、私に向かって挑発的な言葉をぶつけてくる。
ミカは深呼吸して、後ろを見た。
バンドのメンバーたちは準備万端みたい。
皆がミカを見て、笑顔で深くうなずいてくれた。
ミカ (もう・・・最後の曲・・・)
やるしかない、と思った。
一か八か。当たって砕けろだ。
ミカが合図を出すと、光がスティックを4回鳴らして、前奏が流れ出した。
♪~~♪~~~♪♪~~
「ねぇ、あれ・・・」
「え?あれ、ビバのライブだ!!」
「翔~~!!」
♪~~♪♪~
ミカは歌いながら思い出した。
この曲を作るまで、たくさんの悲しみが自分を襲ったこと。
でも、新しい出会いもあったということ。
自分はもう逃げないと決めたこと。
何もできないけれど、音楽と、翔たちがいれば戦えるということ。
ミカ 「美しい歌を歌うよ~♪『君だけのため』でもいい♪」
「ねぇ・・・なんかこの歌声いいね」
「確かに!改めてファンになりそう~♪」
街の人たちの笑顔が見えた。
徐々に人が増えていく。
ミカは素直に、嬉しくなった。
♪~~
一番前で野次を飛ばしていたクラスメートは、周りにどんどん人が集まってきたのに気がついた。
「なぁ・・・やばくね?」
「めっちゃ盛り上がってんだけど」
「一番前にいるのが逆に恥ずかしくなってきた~」
♪♪~~~♪~~
ミカ (ん・・・!?)
街の人たちが手拍子をしている。
それにつられて、周りの人もどんどん手拍子をし始めている。
「ねぇ、もう帰ろう。アイツらの演奏なんて聴いてるだけ時間の無駄だよ」
「そうだね、抜けよ」
クラスメートたちが後ろを向くと、さっきまで感じられることのなかった熱気と群集がそこにはあった。
「え・・・」
「なにこの人!?これじゃ・・・抜けられない・・・」
「『逆に、広場には壁がない。人数制限だってないから、ホールよりも多い人数を集める事だってできるぜ?』」
―ミカは、翔が言っていたこの言葉を思い出した。
そんなことできる訳ないと思っていたのに、
気が付いたら、その言葉のように、遠くのほうまで人が集まっているのが見えて。
♪~~~
わーーーー!!!!
―最後の音が鳴り響いた時には、自分の頬が乾いているのを感じた。
「私は、泣いていたんだ。」
上下に跳ねる人たち。笑顔で拍手をする人たち。
後ろを見れば、仲間がいる。
こんなに美しい光景が、この世にあったなんて知らなかった。
ミカ 「もう、夢でもいいや。楽しい。」
思わず本音が出てしまったのか、それともこれが現実だという事を確かめたかったのか、
気が付いたらそんなことをマイク越しにつぶやいていた。
一瞬ハッとしたが、観客はそれに応えるように声をあげてくれた。
それはモノクロに見えていた世界に、色が付いたような瞬間だった。