戦場の女神
――バシュッ――
地面をえぐりながら一筋の斬撃が飛んできた。
「ぐっ!」
翼はエリスを庇い、その斬撃を受け吹き飛ばされる。
――ガラン、ガラン、ドッシャーン――
「ちょっと、またあなたは!!」
翼の近くまでエリスは駆け寄り、翼の体を起こす。
「だ……大丈夫か……?」
翼は、うっすらと目を開ける。斬撃を受けた所からは、ドクドクと血が流れ出ている。
「今は、しゃべらないで!」
――ビリッ――
エリスは自分の衣服の一部を破き、翼に血止めの応急処置を施す。
「少し、痛むわよ!」
――ギュッ!――
「うっ!」
痛みで顔を歪める翼。
「ありがとう……」
少し緩んだ表情を見せる。意識はまだあるようだ。
「説教はまた後でします。それより今は……」
キッと斬撃が飛んできた方向を見るエリス。
「誰ですか、出てきなさい!」
――バシュッ――
また斬撃が飛んでくる。それをエリスは横に転がり回避する。
「答える気はないですか…… いいでしょ!」
エリスは、右足を前に出し、左足を後ろに引く。右手を前に出し左手を顔の付近に、フェンシングのように構える。そして
『Take my feeling』と唱える。
「心器発動!」
エリスは左手に細い剣を宿し、戦闘体制に入る。
『いったい何者? あれだけの斬撃を飛ばすということは相当の手練れのはず…… とにかく注意しなくちゃ!』
――バシュッ、バシュッ、バシュッ――
「また斬撃!」
また斬撃が飛んできた。しかし、今度は一発ではなかった。エリスは一発、二発と攻撃をかわす。しかし
『このスピードで三発目は避けきれない』
――ガッ!――
エリスは、咄嗟の判断で剣で斬撃を受け流す。
――ドーン――
エリスが弾いた斬撃が後ろの方で爆発する。
『くっ…… なんて力なの!』
エリスの『心器』がビリビリと震える。
――バシュッ、シュ、シュ――
続けて斬撃が飛んでくる。
「なめないで!」
エリスは、完全に斬撃の来るパターンを読み、素早い動きで相手の懐に入る。
――ビュッ――
エリスの鋭い突きが相手の懐に入る。
『取った!』
「遅せぇ……」
――ガギン――
相手をとらえた思った剣が防がれる。
『防がれた! それにこの『心器』は……』
エリスはすぐに相手との間合いをとるため後ろに下がる。
「遅ぇよ…… お前!」
「今朝、私に負けておいてよくでかい口が聞けますね先輩!」
『今朝?』
翼がエリスの会話に引っ掛かる。エリスとの距離を詰めるように前に出てくると徐々に姿がはっきりとしてくる。
「お、お前は……」
翼は確かにその姿、その『心器』に見覚えがあった。男は翼を見つける。
「なんだ、お前も居たのか…… まぁいい好都合だ!」
「好都合?」
エリスが顔をしかめる。
「あぁ、どうせお前を殺したあと…… あの男も殺す予定だったからな! あぁでも、もう…… 死にかけか!! アハハ、アハハ、ハハハ」
男は腹を抱え笑う。エリスはその隙をつこうと動こうとするが……
「動くな!」
男は体全体にどす黒いオーラを帯だした。
「くっ!」
『何? あの男から溢れる感情のエネルギーの量は…… こんな短時間で何があったの?』
「アハハ、これだよ、これだよこれ!」
男のどす黒いオーラが更に強くなる。
「お前たちがいなければ…… お前たちが…… お前たちが憎い、憎い、いぃー!!」
猛スピードでエリスに突っ込む。
---バキッ、ボキッ、バコ---
「ふぅー、まぁーこんなもんか……」
慎太郎が『心器』を収める。慎太郎が立っている下には数十の人が倒れていた。
「なんだ、まだ俺にやられたい奴がいるのか? 出てこいよ、そこにいるんだろ?」
口調とは裏腹に慎太郎の目は真剣だ。
――パチ、パチ、パチ――
「素晴らしいですね。私の気配に気づくとは…… なぜ分かったのですか?」
物影から顔に仮面を付け、黒ずくめの格好で出てくる謎の男。
「こっちからも質問しよう。なんで、お前からはそんなに血の臭いがする?」
謎の男は、クンクンと自分の服を嗅ぐ。
「おかしいですねぇー 充分落としたはずなのんですが…… よくわかりましたね。これもまた評価に値する」
――パチ、パチ、パチ――
また拍手をする謎の男。
「悪いが、血の臭いには敏感なんだ。昔からな……」
複雑な表情を見せる慎太郎。
「どうやら何か理由ありですね。さてさて、それが分かったから私をどうするつもりですか? 優秀なエモーションハンターさん」
「もちろん、お前が何を企んでいるか吐いてもらうよ」
「力強くでもですか……」
「それが、お望みならば……」
――バチンッ――
二人の殺気がぶつかる。周辺がピリピリとした緊張感に包まれる。
『こ、こいつ……』
慎太郎は思わずゴクリと生唾を飲み込む。
---ピクン---
『何だ?』
慎太郎が異様な気配に気づく。
『確か…… あの方向は翼たちがいるところ……』
「ハハハ、始まっちゃいましたね!」
謎の男も異様な気配を察知する。
「何をした!」
慎太郎が『心器』を発動し、その矛先を謎の男に向ける。
「私は何もしてませんよ。私は、少しお手伝いをしてあげただけです」
「お手伝いだと!?」
異様な気配が一層強くなる。
「こんな事をしてていいんですか? 早く助けに行かないと大事なお友達が死んじゃいますよ。優秀なあなたなら私の命とお友達の命どちらを取りますかねぇ? イヒ、イィッヒッヒッー」
「くそ!」
慎太郎は『心器』を収め、翼たちの助けに向かう。
『待ってろ、 翼!』
「さて、私も行きますか……」
――ビュッ!――
謎の男もその場から消えた。
――ガン、ガン、ガン――
エリスと男の『心器』がぶつかる。戦いは、激しさを増してきた。しかし、戦いの有利は明らかだった。
「ハァ、ハァ、ハァ、くそぉー!!」
男が再びエリスに突っ込む。しかし、男の攻撃をエリスは意図も容易くかわす。そして
――ビュッ、ビュッ――
素早い剣さばきで的確に相手をとらえる。
『すげぇ』
翼はエリスの動きに魅了されていた。
彼女の戦いを見た人たちは言う。彼女は戦場で踊ると…… 彼女と戦った相手は言う。彼女の剣は予測できないと…… 彼女は魅了する舞い、自由自在の剣からいつしか戦場に舞う女神『感情のフレイヤ』と呼ばれるようになった。
――ドスッ――
男は遂に膝をついた。
「なんで……なんでなんだ!」
男は体から血が流れ落ちていた。
「あきらめなさい! 力だけではあなたは私には勝てない」
しかし、男は立ち上がる。
『こんな奴に…… 二度も……』
朝の出来事が頭をよぎる。
――ピシン――
その瞬間、男の体に違った感覚が流れる。
「こ、これか……」
男は、笑みを浮かべる。
「残念です…… これで終わりです!」