出会い
「終わりだ!」
相手が『心器』をふりおろす。
『防がなければ死ぬ!』
思わず『心器』が発動していない状態でガードする翼。もちろん『心器』を発動していない状態でガードなんてできない。それでも人間の本能で動いてしまう。眼前に相手の『心器』』が迫って
『終わった………』
翼は、目をつぶり死を覚悟した。翼の危機を感じて構える慎太郎。
「やめてー!!」
叫び、目を背ける美里。誰もが、最悪の状況を考えたほんの数秒のなか
――ガギン――
死のタイムリミットを告げる鈍い音が鳴る。
ドサーと『心器』の勢いでまわりの砂が舞い上がり、思わず周りの人々は目をつぶる。
「ツバくーん!!」
「ツバ!!!」
慎太郎と美里が安否を確かめるように翼に声をかける。二人とも気が気でない表情をしている。
砂煙が徐々にはれていく…… 晴れていくほどに周りの緊張がピリッとしてくる。美里たちは、必死に目を凝らして翼の安否を確認する。砂煙に人影が写る
—―
「ツバくん?」
美里が翼だと思い声をかけようと声を出したが、その影は翼ではなかった。
恍惚に笑い、勝ちを確信した男の顔が見える。その顔を見た瞬間、美里からグニャグニャとしたオーラ? みたいのが出始めた。ふらふらと男のほうへと歩いていく美里。
—― ツバ…… くん…… ツバ…… くん… 今行くからね…… ――
美里にはもう周りは見えていなかった。目はずっと見開いたままでオーラが男に近づくにつれて増していく。周りはヒシヒシと美里の殺気を感じていた。もちろんそれは慎太郎も感じていた。
『やばい、美里のやつが感情を抑えきれないでいる…… 多分、翼は大丈夫だ。このままだったら美里の心器で俺たちがやばい!』
「おい、美里!!」
慎太郎が美里の前に回り込み美里の両肩を持ち美里の歩みを止める。
「慎ちゃん、離して!! ツバくんが…… ツバくんが!!」
美里が、慎太郎の腕をほどこうと体を大きく揺さぶる。
「落ちついて、みっちゃん…… 大丈夫だから…… 翼は美里を置いていかないから……」
慎太郎は、あえてやさしい声をかけ美里を落ち着かせる。
「ほ…… ほんと? ツバくんは大丈夫なの? 私を置いていかない?」
「あぁ…… 大丈夫だ……」
慎太郎の声で落ち着いたのか美里の力が徐々に抜けてくる。それと同じくして美里を渦巻いていたオーラ? が小さくなり始めた。
『ふぅー なんとかなったな。後は翼だけど ……』
砂煙が風に流され、完全に晴れる。翼の姿もはっきりと見るようになる。
「ツバくん!!!」
美里は、一早く翼の姿を確認する。そのあと美里は、翼ともう一人確認する。
「だれ?」
---き………… ---
『なんだ? 俺は、死んだのか? ダメだ…… 頭がボーとする』
---君……---
『また何もできなかったのか…… また…… 誰か呼んでるのか…… 美里か?』
「君、起きなさい!」
ぱっと目を開ける翼。見えたのは、あるはずの『心器』でもなく美里でもなかった。目の前には、悠然と金色のロングの髪をなびかせ『心器』を軽々受け止める一人の女の子がいた。
「大丈夫!?」
と敵と相対したまま聞く彼女。心まで響くいい声だった。
「すぐ終わらすから待ってて」
『キッ!』と睨み彼女は、目の前の敵と相対した。敵に向き合った時の彼女の表情は、相手に何かを訴えようとするものだった。彼女は右足を前に出し、左手に細い剣をフェンシングのように構え『 Take my feeling』と唱えた。
――シュッ――
電光石火だった。彼女が勢いよく左足を蹴ると再び砂煙が起き、砂煙がはれると彼女の剣はもう相手の首元をとらえていた。
「ま、参った」
相手は、地面に膝をつき『心器』を解除して両手を上げていた。
「や、やった……」
誰かがつぶやいた。すると、周りから連鎖するように歓喜の声が上がった。その歓声に答えるかのように彼女は笑顔で手を振る。
「大丈夫!? ツバくん!!! 」
今にも泣きそうな顔で美里が駆け寄ってくる。
「なんだよ、その顔は? 化粧がくずれるぜ」
翼が自分のことを心配させまいと平然と振る舞う。
「バカっ!! そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!! もう、ダメかと思ったんだからね」
泣きながら怒る美里。
「だから、大丈夫って言っただろ」
慎太郎が心配ないと近づいてくる。そんな慎太郎に『キッ!』と睨む美里。
「慎ちゃんも慎ちゃんだからね!!」
と慎太郎に詰め寄る美里。慎太郎は、美里をなだめている。
そんな光景を横目で見ながら生きていることを改めて実感する。これは時間がかかりそうだと思い立ち上がろうとする翼。しかし、足に力が入らない。
『ハハハ、情けないな……』
翼の前に手が差し伸べられた。
『誰だ?』
顔を上げる翼。目の前に手を差し伸べていたのは、金色の髪の一人の女の子。はっきりと顔は見ていなっかたので、すぐには助けてくれた彼女だと思わなかったが分かるきっかけになったのはその金色の髪だろう。
「大丈夫?」
もう一度聞く金髪の彼女。
「あぁ、助けてくれてありがとう」
彼女の手を取り、立ち上がる翼。立ち上がると彼女の頭が翼の丁度、胸ぐらいに来た。
『美里より少し高いくらいか』
翼にとってそれは意外だった。先程の彼女は、もっと大きく思えたからだ。顔を改めてよく見ると上品な顔立ちで、名門のお家のお嬢様のような感じを受けた。そのような事を考えていると翼に異変が起きた。
――バシ!!――
大きな音とともに、翼の顔に激痛が起きた。異変を感じたのは翼だけではなかった。周りの先ほどの観客たち、もめていた美里と慎太郎も一斉に音の方向へと振り向いた。
振り向いた先の光景は、先ほどたくさんの人々から歓声を浴びていた彼女が、自身が助けた男の顔をぶっているという光景だった。
翼は、何が起きたのか分からなかった。信じたくなかった。自分を助けてた人にぶたれていることを。しかし、顔全体にまで広がった痛みはそんな翼の考えをいともたやすく覆した。手でぶたれたところを抑えながら翼は、彼女の顔を見た。すると、彼女は先ほど敵と相対したとき以上に鋭い目線を翼に向けていた。
「なんで、勝算もなしにあんな危険なことをしたの!?」
鋭い目から彼女の激しい怒りが伝わってきた。彼女の感情を受け取った翼は、自分も彼女に自分の感情を伝えた。
「俺は…… もう誰も見たくないんだ! 自分の目の前で誰かが傷つくのを…… そして、そんな状況で何もしないで見ているだけなんて俺にはできない!」
翼にとってこれだけは自分で否定するわけにはいかなかった。翼にとって、もう誰も傷ついてほしくないというのが自分の感情だった。
「ツバちゃん……」
翼の表情を見て美里は、子供のころからの翼と一緒に居た分その言葉には誰よりも特別な感情を抱いた。しかし、金色の髪の女の子に感情の変化は見られなかった。
「自分の命も、守れない人が他人の命なんて守れるはずがないでしょ! 私は、嫌いです! あなたのように自分の命を軽はずみする人を…… 必ずそういう人は何も守れない!」
そう言って彼女は背を向け翼たちから遠ざかって行った。
翼は再びぶたれたところを抑える。顔の痛みは、彼女が遠ざかるほど増したように感じた。
「ツバ~ 振られちゃいましたね~」
慎太郎がそう言って翼の肩に手をかけてくる。
「そんなんじゃないよ慎太郎。 それよりそろそろ入学式の会場行かないとやばくないか?」
美里が腕につけていた、腕時計を見る。
「えっとぉ~ 確か入学式の開始時刻は11時だったから、今の時刻は…… 10時57分!! みんな急いで間に合わないよ!」
美里の掛け声で翼、慎太郎は一斉に駆け出した。