Delete Doll
1人の人間が、人間から造り出した存在。通称、人形。
世界中にその存在は知れ渡ってはいるものの、多くは謎に包まれたままである。その姿を見たことがある者すらごくわずかだという。
ただ、人々が口をそろえて言うことは決まってひとつ。
彼らの運命が"悲しい"ということだけである。
朧月が小さく照らす街の路地裏。
少女がくるりくるりと楽しげに回る。その度に服の裾が広がり、華麗な舞を踊っているかのようだ。
お願い。と、小さな声が何度もその少女に向けられる。
その声を聞きながら、少女は何事もないかのように回り続ける。
一度だけ大きな声が路地裏に響いたとき。少女の足が止まる。
「本当に、いいの?」
悲しげな顔で声の主を見た。
彼は泣きながら、請うように何度も頷いて頭を垂れた。
少女はその様子を黙ったまま、立ち尽くしたまま見た。そして、開きかけた口を閉じ、拳を握る。
目を閉じて、わかったとだけ言った。
彼は涙を流しながら、笑う。
ありがとうと、素敵な笑顔だった。
雲が晴れ、丸い月がその姿を現した。静かな光が辺りを照らす。
「静かになっちゃった。」
身を翻して夜の街に向かう。路地から出る直前に振り返る。
音もない路地裏は、月明かりに照らされていた。
「ホント、つまらないわ。」
少女は奥に向かって声を飛ばした。
しかし、その言葉には誰も答えない。
真っ赤に染まった彼はもう、喋らない。
「ホント、撲殺ってつまんない。」
明るく照らしていた月がまた、雲の中にその姿を隠した。
読んでいただきありがとうございます。
今回は思いつきで、物語の冒頭部分だけ短編として投稿させていただきました。
冒頭だけで、どれだけ興味を持っていただけるかと……かなり心配ではありますが、どうぞよろしくおねがいします。
いつになるのか定かではありませんが、いつか連載としてやりたいとも思っています。
その時もどうぞよろしくおねがいします。