4話 キラー・パペット 後編
最初に居た部屋に戻りポチは入り口を固める
あの小さな身体で、部屋に置いてあったタンスやベッドなどをドアの前に置き封鎖
この部屋のドアは内開きだから、ここから侵入するのは難しくなった
ポチはその後、部屋の中で武器になりそうなものを探し(何も無かった)
俺を安心させる様に呟いた
「安心しろ小僧
アリサちゃんなら直に帰ってくる筈だ
それまで俺様と一緒に頑張ろうぜ」
本当に良い縫いぐるみである
顔が怖いのと、人のことを気にしないのがタマに傷だが・・・
本当に頼もしい縫いぐるみだ
その戦闘力は、先程、賊を殺す所を見たことで確認済みだ
『キラー・パペット』
という、聞き慣れない単語が出て来たが・・・
多分、アリサさん達『ドール』と同じ意味を持った言葉なのだろう
アリサが『ドール』で、ポチは『キラー・パペット』・・・
確かに二人とも同じカテゴリに分類するには、違いすぎる気がしていた
アリサさんは人間と変わりないが
ポチは見た感じただの縫いぐるみだ・・・
キラー・パペット・・・
日本語に直すと、『殺人人形』だろうか?
英語の成績が学年最下位だった俺には良くわからんが・・・
なんか物騒な響きであることは分かる
まぁ、現在1歳ちょっと俺は、例えどんな危険な人形であってもポチを頼らなければ確実に死ぬだろうが・・・
転生して、転生前より若くして死ぬとか嫌だな
俺はこちらの世界で、孫や曾孫や5番目の妻に看取られながら死ぬって決めてんだ(キリッ
・・・少なくとも、『ど』から始まるアレは捨ててから死にたい
無論、前世では捨てれてない
彼女いなかったし、風俗行く度胸もなかったし
こんなこと考える一歳児ってなんなんだろう・・・
自分が無性に嫌になった
「さて、そろそろ来るか
小僧、そこら辺に隠れとけ!!」
はい、勿論、隠れますとも
ハイハイ全速前進!!
目標はカーテンの裏側!!
一歳児とは思えない早さで移動し身を隠す
その姿をポチは、唖然と見ていたが直に入り口のドアを見据えた
先程、賊を殺した辺りから怒声と悲鳴が聞こえる
そして何やら扉を乱暴に開け閉めする音
仲間の死に怒り狂った仲間の賊が
犯人を家中探しまわっているのだろう
直にこの部屋の前まで来た、ドアノブを回す音が聞こえるが開かない
賊が、『ここだ、ここで間違いない』と言っているのが聞こえた
「さぁて、俺様の実力を思い知らせてやるぜ!」
ポチはそう呟き、いきなり床に倒れた
おい、何やってやがる・・・
まさかアレか、『魔力切れ』か?・・・
アリサさんが、魔力供給がどうとか言ってたきもする・・・
あれ・・・俺、詰んだ?・・・
まだ見ぬ、こっちの世界のパパ様、ママ様・・・先立つ不孝をお許し下さい・・・
半ば諦めかけたその時
何やら爆発が発生し、扉が吹き飛んだ
アレか? 賊風情が爆弾か? けっ、いい気になるなよ、全然、ビビってないんだからね!!
・・・ちょっと、チビッたけど
カーテン越しに見る賊の人数は3人
部屋に入るなり怒声を響かせる大柄な男、多分、リーダーだ間違いない
「おい! 出てこい、人殺し!!!
テメェ、絶対ゆるさねぇ!!」
足下に転がってる血塗れの人形が犯人です・・・あれ?
ポチさん、なんで、返り血取れてんの?
何時、クリーニングしたの?
床に転がっているポチさんは
先程までの血汚れが嘘の様に、真っ白な状態でした
マジ、何時、クリーニングしたの?
リーダーの後ろに付いて来ているのは二人
明らかに賊の痩せた男と、他の二人とは違った雰囲気を漂わせるグラサン+オールバック+黒の礼服を着た厳つい男・・・明らかに一人異質である・・・
他の二人が、『賊』そのものの服装なのに、礼服の男は『賊を利用している人』そのものの服装だ
しかも、多分、あの厳ついの・・・俺の存在に感付いてる・・・
一瞬、俺の方向を見た後、口元に悪寒のする笑みを浮かべたのだ
絶対、気付いている
なのに、何故、他の二人に知らせないのか謎だが・・・
「お二方ぁ」
厳つい礼服の男が他の二人に声を掛ける、粘り着く様な、不快感のある声だった
リーダーの方が応答した、若干切れ気味だ
「こんな時になんだ、荒崎さん」
荒崎・・・厳つい男の名前だろう
荒崎は口元に笑みを浮かべて、続ける
先程、俺に向けた笑みと同じものだ・・・
「私共は、もう上がらせて頂きまさぁ
一階に居る『ドール』共は、お二方に全部お譲りします
勿論、料金は一切頂きません
今回のはサービスってことで
どうぞ、これからも御贔屓にしてくだせぇ・・・」
呆然と立ち尽くすリーダーだったが
直に笑顔になる
「そうか、下のドールは全部俺達の物で良いんだな?」
「はい、販売ルートが見つからなかったときは、また私共をご利用くだせぇ
・・・まぁ、番犬二匹を相手に生きて帰れたらですが・・・」
賊達は聞き逃した用だが、俺は聞き逃さなかった
今、確実に荒崎はポチを見てそう呟いたのだ、明らかにポチがキラー・パペットであることを見抜いている
・・・魔力切れみたいなんだけどね・・・
荒崎は最後に『ごゆっくり』と言い残し部屋を去った
二人の賊は先程までの怒りが嘘の様に意気揚々としている
そんな二人の表情は数秒後には苦痛に変わった
賊の足下に転がっていたポチが飛び上がり
隠していた(体内に隠していた)ナイフを取り出しリーダーの顔面を斬りつけた
リーダーは反応することが出来ず、まともに斬撃を喰らい、血が吹き出る目を押さえながら悲鳴を上げる
痩せた男も、最初は何が起きたのか理解出来ていない様子だった
だが、血の付いたナイフを拭い、リーダーに止めを刺すポチの姿を見て・・・
「・・・っそ、そうだった・・・ここは・・・人形遣いの・・・」
悲鳴を上げて逃げ出す男
入り口に向かった所で男の顔は青ざめた
入り口に立っていた人物・・・いや、ドールか
それに恐怖の眼差しを向ける
立っていたのは冷徹に微笑むアリサさん
普段と違う所は、そのメイド服に返り血を付けていることか・・・
俺ですら恐ろしいと感じる姿である
「マスター、ご無事ですか?」
ああ、俺なら大丈夫だ
「そうですか、ご無事で何よりです
この男の処罰ですが如何なさいますか?
・・・アリサは今、怒りで我を忘れそうです」
アリサさんの怒りが俺に直に伝わって来る
どうやら怒ると一人称が、『アリサ』になるようだ・・・
今はそれどころでは無いか・・・
止めとけアリサ
全員殺すのは不味いだろ
そいつは生かしていないと話が聞けない・・・
そこで、アリサさんは怒りを納めてくれた
まだ、若干、表情が恐ろしいが・・・
「そうですね、普通に殺しても詰まらないですよね、流石マスターです
明日、拷問室の準備を整えます」
おい、この家には拷問室なんてあるのか!?
物騒だな、おい!!
「はい、手狭ですが牢屋も御座います
それでは、とりあえずこの男を気絶させますね・・・」
男が身構えたのが分かった
しかし、アリサさんは速い
流れる様に男の懐に入り、男の鳩尾に右手で一撃入れて気絶させた
一連の動作はものの数秒・・・恐ろしい
ポチが呟く
「流石、俺様の制作者だな
まぁ、俺様の魂を作ったのは大旦那だから兄妹みたいなものだけどな!!」
アリサは気絶させた賊を捨て
一目散に俺を抱きかかえる
体中を弄るのは止めて欲しい・・・
「どこにも異常はございませんか、マスター?
もし怪我をなされているようなら、やはり、あの男・・・」
くどいぞアリサ
俺は無傷だ、見りゃわかるだろう
「・・・失礼致しました、マスター
気が動転していたようです
この度は私の不注意で危険に晒してしまい、本当に申し訳ございませんでした!!」
よく見るとアリサは涙を零している
えっ?
なんで泣いてるの?
一体どうして?・・・
「あぁー、いいか小僧
俺は小僧の声が聞こえないから答えんでもいいが、とりあえず励ましとけ
今はそういう場面だ
俺は席を外す、まぁ、頑張れや小僧」
ポチはそう言って部屋を後にした
・・・何様だ、あの縫いぐるみ・・・
泣き崩れるアリサを立ち直らせるのは、結構な重労働だった
俺、まだ1歳なんだけど・・・
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本当にありがとうございます
これからも人形遣いを面白く出来る様に頑張ります
どうかヨロシクお願いします!!