36話 至高の斬撃
大変長らくお待たせ致しました。
人形遣い更新です。
ここまでお待たせした弁明記者会見は、活動報告にてお願いします。
長らくお待たせしたにもかかわらずお気に入りに残してくれた読者の皆様方、再開を心待ちにしてくれた皆様、応援のメッセージをくれた皆様…
本当にお待たせ致しました!!
少女の傍らに座っていた初老の男は、四水の方を向くと忌々しげに顔を顰めた。
面倒くさそうに立ち上がり、四水の入って来た戸から外に出る。
すれ違いざま、男は四水を一瞥すると嫌みの籠った口調で話し出した。
「…とりあえず一命は取り留めた。
たく、面倒な患者を押し付けやがって…本当ならお断りする所だが、仕方なく治療してやったんだからな?
本来なら、うちで治療出来る範疇越えてるからな。次からは、違うヤツに頼め…」
それだけ嫌味ったらしく言うと、男は夜の闇へと姿を消した。
あの男は、裏の世界で伝説となったある闇医者の弟子だった男だ。伝説の闇医者の弟子と言う事で、若い頃かなり有名だったらしいが、今はこんな見窄らしい平屋建てで生活している。
「世知辛いね」
四水はそう呟くと、少女の傍らに座る。
懐から菓子を取り出し、一口で食べる。
饅頭だ。この二日間の滞在で見つけた饅頭屋が四水のお気に入りであった。
「やれやれやれ、なんで俺はこんなことしてんのかね?」
苦笑いしか出て来ない。
本来なら、裏家業の自分がここまで肩入れする事も無い事なのだ。
この娘に恩がある訳でもない。
その理由を強いて言うなら、四水自身が裏家業向きの人間ではないことが理由なのだが…本人はその事に自覚は無い。
四水が二個目の饅頭を取り出そうとした時、その声が発せられた。
「……みず…みず…みず!!!」
少女の声である。
まるで少女とは思えぬほど嗄れている。
四水は無言で吸い飲みを掴み、飲み口を少女の口に当てた。
勢い良く水を飲む少女の今後を思うと、四水は暗い気持ちになる。
彼女の光は二度と戻る事は無いだろう。
この世界は優しく無い。
盲目の少女に、コレから何が出来ると言うのだろうか?
四水は考える。
自分でも柄にも無い事だとは思う。
しかし、四水は考える。
考えた結果、なにも思い浮かばなかった。
自分は馬鹿だとは思う、しかし、ここまで何も浮かばないとは…滑稽だな。
まぁ、考えるのは俺の仕事じゃないしな。
四水はその晩、ずっと少女の傍らに居た。
■
滞在5日目となった。
最近不穏な空気を感じることが多い。そろそろ、移動を始めた方が良さそうだ。
昼、この平家を貸してくれている闇医者が、乱暴に戸を叩く音が聞こえた。
四水が戸を開き男を迎え入れると、男は不機嫌な態度で少女の触診を始める。
少女はまだ放心状態で、意識が朦朧としているが。
一応は山場を越えたらしく、眼球を刳り貫かれたわりに、血も止まっている。
流石は伝説の名医の弟子とあって、この男、腕は確かなのだ。
一通りの診察を終えた後、男は四水の顔見て告げた。
「そろそろでてけ。
この娘を連れてな。
うちもそろそろ限界だ」
「そうか、すまんね。
…なにかあったのかい?」
四水が訊ねると、男は深々と息を吐いた。
「表に二人、変なのがおる。
お前か娘か…どっちかを狙っているな…面倒ごとを持ち込んでくれるな」
二人か…
四水は壁の覗き穴から外の様子を伺った。
確かに二人…平家の前の通りに浮浪者の様な男と、町人風を装った和装の男が居るのが目についた。
堅気の人間ではなさそうだ。瞳で解る。
片方は…浮浪者の方は武人だろうか? なかなかの手練の様に見える。
「世話になったな、爺さん。
それじゃ、今晩にもおいとまさせてもらいますかね…」
そういうと男は不機嫌そうな顔を更に不機嫌にした。
「ワシに拾わせた命…勝手に死なすなよ」
成る程、医者としてのプライドはあるらしい。
■
真夜中。四水は表から姿を現し、杖のような仕込み刀をゆっくりと抜刀した。
囲まれているのなら、逃げる事は出来ないだろう。
なら、血路を開いてやらねばならん。
そして、昼間見た二人が闇夜から姿を現した。
無言である。これから死合いが始まるのだ。
先に動いたのは町人風の男。手から青白い炎のような物を発している…
魔炎…
火鳥家の家伝魔法である。
あの炎で燃やしたものは魔力還元され、術者の元に戻るのだと言う。
生け贄や、悪魔魔法を軸とする火鳥らしい家伝ではある。
つまり、その使い手は火鳥に属する術者なのだろう。
闘気を纏い、懐に隠し持った鋏(平家から持ち出した手術用)に通す。
魔法使いとの戦闘なんて長引かせるものでは無い、速攻で方を付けるべきなのだ。
魔法使いはなにかしようとしたのだろう、しかし、四水は直に鋏を魔法使いに向けて投げた。
鋏は魔法使いの肩に命中し、魔法使いは地に膝を付いた。どうやら、思いのほか深く刺さったらしい。
しかし、次の瞬間には、浮浪者風の武人の方が、何やら反りの大きい剣を取り出し切りかかって来た。
「おいおいおい、サーベルかよ面白い」
四水は今一度、刀に闘気を纏わせ、左手に構えサーベルの斬撃を防ぐ。
防いだ所で、右腕に闘気の波を造り渾身の突きを放った。
浮浪者の男は瞬時に後退ったものの、四水の突きの威力を甘く見たのか、衝撃波で2m程吹っ飛んだ。
その隙に、魔法使いの肩に刺さった鋏を蹴り上げ、より深く刺し、悲鳴を上げる男の喉を搔っ切り止めを刺す。
鮮血が迸ったが、興味も無い。まだ、戦いは続いている。
敵は体勢を立て直し、サーベルを構え直している。
(武人としては、並の殺し屋程度かねぇ…)
四水は経験的に相手の強さを判断した。
格下と考えて良さそうだ。
四水は、勝負を一瞬で決める事にした。
鞘に刀を戻し、居合いの形をとる。
四水は師から教わった、自身の扱える最高の剣技で止めを刺すことにしたのだ。
サーベルの武人は、四水との間合いを気にしながら、すり足で近付いて来る。
居合いの相手を警戒しているのだ。
刀身の長さは見た、間合いも大体解る。しかし四水が放つ尋常ならざる気配に警戒したのだ。
(感は、いいね…まぁ、本当に良かったら、逃げる所だろうけど)
しかし、相手は逃げなかった。
業を煮やしたのか、プレッシャーに耐え切れなかったのか、仲間を殺した相手への復讐心が勝ったのか…
奇声を発しながら切り掛かってきた。
まさしく捨て身の斬撃。防御を考えていない一閃だった。
サーベルを持った武人も解っていたのだ。
切り掛かれば自分に命は無いと…
サーベルが四水を捕らえようとした瞬間。
その刀の一閃が…おそらく剣士なら誰もが辿り着きたいと思う、至高の斬撃が放たれた。
■
四水は肩を痛めていた。抜刀した方の肩、右肩だ…
師から受け継いだ奥義ではあるが、俺のアレは未完成なのだ。
だから、使えば身体に響く。
真夜中に倒れる2つの死体…
片方は、自分が切られたことすら解っていなかった表情で死んでいる。
決着を急いだ感は否めんな…
剣士なら何合か切り合って終わらせたかったが…まぁ、ことがことだし止む無しか…
平家の戸が開いた、一瞬、刀に手を伸ばしたが、現れたのが闇医者の男と解り手を止める。
「終わったか?」
「見ての通りさねぇ」
「たく、死体は誰が片付けると思ってやがる」
「ワリィね、迷惑ついでに頼まれてくれ」
闇医者は深々と溜め息を吐いた。
溜め息吐くのが癖なんだと思う。
「これから、どうすんで? 特に娘は?」
そう訊ねられ、四水は考える。
もうココまで、縁が出来ちまった娘を残して行くのはあまりに不義理な気がした。
「まぁ、とりあえず、どうにかするさね」
まぁ、月村の家に連れてけば良いかと、適当な考えが脳裏を過った四水であった。




