33話 迎えが遅いのだが?
「水無瀬…ですか」
アリサに夢の中で『水無瀬』なる人物に出会ったことを告げると、彼女は苦虫を噛み潰した様な表情を見せた。
『水無瀬』とは、どんな家なのだろうか?
あ…俺の着替えは、宿の従業員さんが用意してくれた。
なんか、忙しそうだったな…俺達が来た意外で、何かあったのだろうか?
因みに、ポチは未だ爆睡中で、赤城は読書(夜通し読書かよ!!)、サヤカは別室で治療中(かなり酷い怪我だったので納得)である。
アリサは『私も詳しくは知らないのですが…』と、前置きして話しだした。
「以前、修行でご紹介したと思いますが、我が家と同じ七大貴族の一家です。
歴史は『水無瀬』の方が古く、その家名が歴史に出始めたのは『戦国時代』より前だとか…
その《家伝》は、異国の魔法をベースに、独自のアレンジを加えた『幻術』…
月村家が『人形遣い』の家柄だとすると、水無瀬は『幻術師』の家柄と呼べるでしょう」
…なんとなく思ったのだが、
この世界には王道の《魔法使い》は居ないのだろうか?
『人形遣い』とか『幻術師』とか…
確かにファンタジーだけど、なんか王道の『魔法使い』じゃ無いよな…
『パペットワーク』も『夢幻廻廊』も十分ファンタジーだけどさ。
なんかこう、《ファイヤーボール》とか《ヒール》とかさ、そういった魔法は無いのかな?
『人形遣い』でも満足してはいるけど、やっぱり王道には憧れるというかさ…
多分、『日恵野』の魔法も違うと思うしな。
俺の思考がだだ漏れのため、アリサが凄く不思議そうな顔をしている。
「ふぁいやーぼーる? 火の玉…ですか?
…私の情報が正しければ、《火鳥家》が焔を用いた魔法を使うらしいですが…」
マジでか?
火鳥には王道の魔法が存在するのか!?
そういえば、他家の魔法を俺が使うのは可能なのだろうか?
もし、使えるのなら王道を体験させてもらおう。
「…アリサは、マスターの将来に一抹の不安を覚えざる負えません…」
やばい。
アリサを心配させたくは無いから、この思考は一旦中止だな。
そうだ、ついでだから聞いておこうか…
「日恵野家は、『人形遣い』とか『幻術師』とか、そういったので何て呼ばれてる?」
アリサは即答した。
「日恵野は『魔祓い師』と呼ばれております。
日恵野に関しては少々複雑で、本来の家伝が失われたことにより、戦国時代に確立された対魔法使い用の魔法が《家伝》となった様です。
それ故に、日恵野家は《対魔法使い戦特化型の魔法使い》と呼ばれています。
夜守を倒した日恵野の動きは、マスターもご覧になられましたね?
あの、日恵野静という男は、武人戦にも精通し、政治的面にも優れ、ルックスも…まぁ良い方で、評判も良いので、現在、勢力争いにおいて最有力候補とよばれています。全く、腹が立ちますが…」
『魔祓い師』ときたか…
つまり、『エクソシスト』か?
つーか、『魔祓い師』は『魔法使い』のカテゴリーに入れていいのか?
だって、魔法を『祓う』側の人間だろ?
普通、敵対関係とかそういう存在じゃん。
アリサに聞くと、
「日恵野は、その『祓う力』を確立させ、戦国時代成り上がった家系です」
だ、そうだ。
■
夜守の屋敷を外から見ながら、溜め息をついた。
屋敷の中では、静の知らない『委員』が忙しなく働いていることだろう…
結局、撤退作業と事後処理で徹夜してしまった。
レイジ君達を待たせている事実に罪悪感が刺激される。
とはいえ、彼の母親に待っていてくれと言われている以上、待つしか無い。
月村美夜子に、そう言われて静は律儀に待っているのだ。
時刻は、朝6時くらいか。
お腹が空きましたね…
隣を見ると、大樹がパンをかじっていた。
「やらんぞ」
見ただけで、そんなことを言われるとは…不本意ですね…
ただ、美味しそうだと思っただけなのに…分けてもらおうなど、一かけらも思っていないのに…
空腹をごまかす為、話相手になって欲しかっただけだのに……
「…静、今更だが俺達は何時まで待てばいいんだ?
俺は、夜守の身柄も奪われて、少々不機嫌なんだが」
実質、僕たちは追い出された形ですからね。
詳しいことは聞かされていないし、教えてもくれないでしょう。
夜守の身柄も、後から来た『委員』に引き渡しました。
大樹は俺の頼みで、わざわざ同行してもらっています。
しかし、このままだと、何も無さ過ぎて流石に悪い気がしますね…
今度、飯でも奢りますか…
そんなことを考えていると大樹に睨まれました。
「…この借りを、飯でも奢って返そうとして無いか?
…勘弁してくれ
そういうのは、可愛らしい女の子を誘って行け。
何が悲しくて、お前の『おすすめの店』に、男二人で入らねばならんのだ…っけ!!」
なんで、ここまで拒否されているのでしょう?
この前、誕生日に連れて行った、『レストラン』は味が合わなかったのだろうか?
僕は、『西欧料理』も、あの『雰囲気』も好きなのだが…残念です。
「付き合い長いから、考えていることは解るがな…
静、お前、少しズレてんだよな」
「ズレているとは心外だな」
「で、何時まで待てばいい?」
おっと、そうですね…
「もうすぐ終わるでしょう。
月村美夜子は、『委員会』の人間ではありませんし。
あくまで『月村家』の人間として、『月村の家伝』における『重要機密』とやらの関係で屋敷に残っているのでしょうし…
先程、委員会幹部の一人、『月村大悟』が屋敷に入りましたからね…
引き継ぎをしたら出て来るのではないでしょうか?」
「…そうか、さっさとして欲しいな」
「ですね…」
僕たち二人に近付く人間が多数。
全員、『新聞記者』だろうか?
本当に、何処から情報が漏れたのですかね?
「仕方ないです、あしらいますよ」
僕は、彼等と向き合った。
■
日恵野がやって来たのは、10時を回った頃だった。
どんだけ待たすんだよ、おい。
日恵野とともに部屋に入って来たのは、日恵野より背の高い大柄な男と、体中を包帯で巻かれたサヤカさん、そして…
「レ・イ・ジーーーーーーーーーーーーー!!!」
抱きつかれた、凄い久しぶりだな、おい。
入って来たのは、我が母君、月村美夜子様だった。
別に怒ってないが、お迎え遅いぞ…
まぁ、前世の母は、もっと酷かったがな。
ハッスルし過ぎて、息子の存在忘れるなよ?
「レイジーーーーー!!
良く頑張ったわね♪
私も鼻が高いわ、流石、私のレイジ♪」
スリスリ…
スリスリ、すんな!!
母様は、後ろに居る赤城に視線を向けると。
ニッコリと笑った。
「貴男が、赤城さんね?」
なんで、名前を知っているんだ?
日恵野と目が合う…奴は困った様な顔をしていた…
なるほど、コイツが説明したのか。
赤城は立ち上がると、恭しく母に向けて一礼した。
「はい、お初にお目にかかります。
私が、赤城です」
母様の笑みは崩れない。
赤城のことを、母様は何処まで説明されているのだろうか?
もし、単なる誘拐犯として説明されていたら…赤城グッバイ!!
「貴男と、貴男の仲間の仕事がなんだったのかは追求しません。
ですが、今、貴男方に、雇い主はいますか?」
赤城は即答した。
「いえ、今我々に『雇い主』はいません。
前の雇い主が誰だったのかは言えませんが、今現在、求職中です」
母様は和やかに頷いた。
その後の言葉にアリサは絶句する…
「そう、なら、私に雇われて下されない?
月村の屋敷を勝手に見られた以上、放置する訳にはいけないのよね…」
「御待ち下さい奥様!!
放置する訳にはならないのは解りますが、なにも雇う必要は…」
母様はアリサの方に顔を向ける、笑みではあったが有無を言わせないモノを宿していた。
「アリサ?
この方々は、曲がり形にも、レイジの命の恩人ですよ?
たとえ、今回の原因を作った張本人だとしても…です」
母様の理屈は、言うのはアレだが変だ。
しかし、それを指摘しても俺達にはどうしようも無いのでは無いか?……と、思っている。だから、俺は口出ししなかったのだ。
だから…アリサ、少し下がってくれ。
アリサは俺の方を見ると、赤城を睨み、俺の後ろに下がった。
母様はそれを見届けると、俺に頷いて改めて赤城に問う。
「それで、雇われて下さりますか?
勿論、裏切りは死を意味しますよ?」
赤城の即答が、芝居臭かった。
「勿論、存じております。
これより、よろしく御願い致します」
ちらりと見た日恵野の顔が、苦笑いだったのが気になったが…どうでもいいか。




