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とある貴族の人形遣い (仮)  作者: 涼坂 九羅
2章 月村の家伝
24/37

24話 月下誘拐

 その男は音も無く現れた・・・

 全身黒尽くめの若い男。

 星見さんは、いきなり現れた男に言葉を失っていた。

 

 男の出現から一拍後、星見さんは叫び声をあげようとしたが、


「・・・・・・・・!?」


 男は声を出される前に星見さんの口を塞ぎ、彼女の後頭部を壁に打ち付けた。


『ゴン・・・』


 鈍い音が部屋に響く・・・

 星見さんは、糸が切れた様に崩れ落ちた・・・


 現在、男は星見さんを前に、あたしに背を向けている・・・


 あたしは瞬時に、箒を握りしめ、レイジのお父さんに教えてもらった『闘気』の纏い方を実路する。

 全身を隈無く、持っている箒までも覆う様に・・・

 力が行き渡る感覚・・・


 あたしは、自分を・・・レイジを守る為に、修行したのだ。

 この黒尽くめが何者なのかは知らない。

 だけど、この男は星見さんを襲った・・・


 敵だ。

 それ以外の何者でもない・・・

 ならば、先手必勝をねらう!!!


 あたしは、闘気により強化された脚で飛び上がり、男の頭部を背後から狙った。


「・・・おや? 驚きました、闘気を纏えるとは・・・」


 男は振り向くと、あたしの振り下ろした箒を片手で掴み、『何か』を私に飛ばした・・・

 その『何か』に、あたしは、右肩、右肘、右膝、右足首、左肩、左肘、左膝、左足首を、もの凄い勢いで撃ち抜かれ、反対側の壁に磔にされた・・・


 なんで!?

 なにが、あったの?


 思考が追いつかない・・・ただ、解るのは自分の命が危ういことと、纏っていた闘気が身体を抜ける感覚だけ・・・その次に激痛が襲ってきた


「い・・・痛い・・・」


 あたりまえだ、身体を何本もの大きな『針』で貫かれていたのだ。

 全てが闘気を纏っていた・・・そして、その針から、同じく闘気を纏った『糸』が男の手元まで伸びている・・・武人だ、この男は武人だった。


「・・・今更ですが、貴女が『サヤカ』さんですか?」


 男の口調は丁寧で柔らかかったが、どこか男の冷酷さを感じる声色だった。

 この男の狙いはあたし・・・『サヤカ』だ。

 だとしたら、この男の雇い主は・・・


 戦慄した、身体を動かし、もがく、針が空けた穴から血が噴き出した・・・

 痛い!!、痛い!!、痛い!!・・・だけど、この男に捕まれば、あの狂った男にあたしは・・・


「いやだ、いやだ、いやだ、死にたく無い、死にたく無い!!!」


 半狂乱だった、自分でも解る程に・・・


 男は少しずつ近づいて来た。

 男が一歩進むごとに、あたしは叫び声をあげる、泣きわめく・・・


 男が目の前に立つ頃には、言葉を叫んではいなかった、わけの解らない単語を口走っていた・・・

 男があたしの肩に触れる・・・


「ひぃ!!・・・」


 情けないと思う・・・

 なにが、レイジを守る為にだ・・・

 自分一人満足に守れず、敵を前に泣きわめいている・・・

 どこか冷静なあたしが、あたしを嘲笑う・・・あたしは、これでいいのか?


 闘気をもう一度練り、身体に纏わせる。

 死ぬ程痛いけど、死ぬよりマシだ。

 特に、針に刺されている部分が焼ける様に痛い・・・でも、死ぬよりましだ!!!


 男が驚きの表情を浮かべる。

 あたしに触れていた手をどける・・・

 その隙に身体を無理矢理動かし、磔を脱出する・・・


 まだ、身体に針はある・・・痛い・・・

 床に、這い蹲る様に倒れたあたしは、動くことが出来なかった・・・


(レイジ・・・)


 身体が石の様に重たい・・・意識はソコで途切れた・・・



「・・・なんて娘だ」


 赤城は驚きの声を発した。


 純粋な驚きしか出て来ない、私の『磔』を『闘気』による力技だけで突破した人間はこの娘だけだ。

 身体を流れる『気』の集まる経穴を私の『針』で突いたのだ、私が同じことをされれば逃れられる自信が無い。第一、気が練れない筈なのだ、否、練れたとしてもここまでは・・・


 倒れ込んだ娘の身体から『針』を抜いてやる・・・

 傷は深く血が噴き出した。

 私の応急処置だけで、事足りるだろうか?


 本来なら、ここまで傷は酷く無い。

 酷くなったのは、この娘が、私も驚きの方法で『磔』を突破したからだ。


 まぁ、駄目なら四水に任そう、ヤツは治療も出来るからな・・・


タタタタ・・・タタ・タ・・


 足音が部屋の前で止まる・・・私が顔を上げると、入り口に立つ子供が一人。

 手には縫いぐるみの手を引いている、3歳くらいの子供・・・


 色白の肌、母親似の人形の様な外見、私を必死に睨みつける怯えた瞳・・・

 なるほど、彼が、月村の秘蔵っ子・・・


 私の隣に倒れる娘に視線を移すと、瞳から怯えが消え去った・・・

 彼は、3歳児とは思えないスピードで魔糸を練り上げ、私に飛ばす・・・


(人形遣いが、単身で魔糸を人に向けて使う? 一応、避けときますか・・・)


 私は、顔に飛んで来た魔糸の端を最小の動きで躱・・・そうしたら、彼は魔糸を使い飛んできました・・・

 魔糸で自分を引っ張り、勢いを付けた蹴り・・・私は片腕でそれをガードし、もう片方の手で彼を捕まえようと・・・


「おおっと、そいつは問屋が卸さねぇぜ!!!」


 彼が先程まで持っていた縫いぐるみがナイフを取り出し切りかかって来ます。

 彼を掴もうとしていた方の手で、針を抜き『闘気』を纏わせ、人形に飛ばし牽制・・・


「ちっ・・・厄介、ですね」


 私が彼を振りほどくと、彼は違う糸を飛ばし、また私に蹴りを入れに来る・・・


「なんども同じ手は喰らいません」


 私は、ナイフに闘気を纏わし、魔糸を切る為に振り上げた・・・

 単純な魔糸は、熟練した武人の技を持ってすれば切れる。

 自慢ではないが、私も切れる武人だ・・・だが・・・


 ナイフに魔糸が付着して切れないだと!?


 ナイフは捨てた・・・完璧に捕らえられてる、まるで蜘蛛の糸だ・・・


 彼は、なおも私に魔糸を飛ばす・・・

 それにはもう、捕まる訳にはいかない。

 飛び回る彼は、まるで羽を持った蜘蛛に見えた、

 差し詰め、私は捕らえられた羽虫か・・・


『針』を飛ばし、彼を狙う・・・

 しかし、幾ら狙っても彼は避け続け、私に魔糸を飛ばす・・・器用なものだ・・・


 私は部屋の中央で、立ち止まり動くのを止めた・・・


 彼は私に魔糸を飛ばす・・・それをやはり最小で躱し、彼は飛んで来る・・・


 私はほくそ笑んだ。


「やめろ!! 小僧!! それは罠だああ!!!」


 人形が叫びながら、私に向けてナイフを投じる。

 しかしそれは、私が引き戻した『針』の前に弾き飛んだ・・・

 部屋に飛ばした無数の針が私の元に集う・・・


 飛び交う針・・・その全てが私の手元に戻る、つまり、私の周辺が一番の危険地帯である・・・


 彼は、飛んで来た・・・飛んで戻って来た『針』に気がついたのか、無理な避け方をし、床に落下した。


 殺すことはクライアントに禁止されているが、重傷を負わせるつもりで放った、だが・・・


 素晴らしいの一言だな、初見でこの技を無傷で避けられたのは初めてだ・・・

 今日は末恐ろしい子供によく合うな・・・


 人形が彼に駆け寄り容態を見る。

 打ち所が悪かったのか、気絶しているようだ・・・


「けっ、くそったれが!!

 相手の意表を突く面白いことしてくれやがって!!!」


 人形が手を動かすと、私に向かって、先程弾いたナイフが飛んで来た。

 ナイフを掴まず、ナイフに繋がってる『ソレ』を掴む。


『糸』だった・・・普通の黒い『糸』、できるだけ細いモノを選んだ為、遠目からでは判別出来ない。

 コレに闘気を纏わせると、『ワイヤー』の様になる。

 人形が用いているのは、只の『糸』だった・・・


「闘気を纏わせ、魔糸みたいにして使かいやがって!!

 ご丁寧に、俺様にバレない様に、俺様の所には『針』だけ飛ばして・・・

 やってくれるぜ!!!」


 この人形、なかなかいい洞察力を持ってるな・・・

 だが、武器を持っていないようだ、この状況どうする気だ?


「アリサちゃんが来る頃には逃げるだろうからな、助けも期待できねぇ・・・

 俺様も男だ、男は潔いいからな、殺されても文句はねぇ

 だがな・・・」


 人形はそこで区切ると、土下座した。


「頼む!!

 俺様はどうなっても構わないから、嬢ちゃんと、小僧の命だけは助けてやってくれ!!」


 私は可笑しくて笑みが出た。

 人形が殺気を込めた視線を向けて来る、当たり前か人形にしたら真剣だ・・・


 だが、私は馬鹿にして笑った訳では無いのだが・・・関心して、笑みが出てしまったのだが・・・それを私が言うのは不相応だろうか?


「解りました、命だけは保証しましょう」


「本当か!! 男と男の約束だぞ!!」


「ええ」


 私は人形を床に縫い付けた。

 そして、娘を抱きかかえ、部屋を後にする・・・


「おい・・・、嬢ちゃんを何処に・・・」


「独り言です・・・私はこれから彼女を夜守家の夜守 巳三郎様に届けます・・・」


 それだけ言うと、人形は意図を察したのか・・・


「けっ、男なのにデッカい独り言だな・・・」


 今日は、面白いヤツによく出会う・・・


 

 


 

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