22話 月下襲来
その日は、三日月が浮かぶ夜だった・・・
父様と母様は、『デート』するとかで家に居ない。
たまにこういう日があるのだ・・・昨日なんて、俺に『明日、ダーリンと◯◯◯◯して来るんだけど・・・レイジは妹と弟どっちがいい?』なんて聞いてきやがる・・・子供に聞くな!! ・・・まぁ、最初に出会った時から色々諦めていたけど・・・
というわけで、ご両親が子作りに励んでいる間、俺は趣味を楽しむとしますか。
俺の部屋に並べられた計8機の『手織り織機』・・・
俺がこれほどまでに数を揃えたのには理由がある、
人形を自在に動かせる前提で作り上げたのだ。
そうすれば、俺が操っている訳だから、大量に人形を操り、多くの実験を昼夜問わず行える。
しかし、現実は悲惨だ・・・
俺はマネキン1つ満足に動かせない(逆にマネキンだから動かせないのでは? と、思ってるが)。
だが、俺はポチとの『契約』には成功している・・・つまり、理論上、ポチは何の説明もしなくても俺の命令通りに『手織り織機』を動かせる筈なのだ。
しかし、現実は厳しかった・・・
「・・・小僧、悪い、手が届かねぇ・・・」
俺が作ったのは『卓上手織機』と呼ばれる、比較的大きく無い手織り機である。
しかし、この織機を使うにはポチは手が短すぎた・・・
織機を動かすには、頻繁に手を動かさねばならない、ポチでは無理に思えた・・・
部屋の隅に佇むアリサが声を掛けてくれる。
「マスター、私が動かしましょうか?」
「アリサ・・・動かし方、分かるか?」
「?・・・私もマスターと契約しています、マスターが命令を下されば動かせますが?」
ん〜、そうなのだが、この前から、
アリサとは、『永続契約』の筈なのにポチの時に感じた感覚が無いことに疑念を感じているからな・・・
別に、『それが、どうした?』ってことなんだけど、何かな・・・
アリサのことは信用しているが釈然としないモノがあってだな・・・
第一、この心も筒抜けの筈なのに、何も言わず微笑んだり普通に性格しているアリサは怪しいのだ。
疾しい所があるなら、弁明の1つも言って欲しいのだが・・・
俺も口に出して訪ねていないのが悪いのだが・・・なんか、恐くてな、俺ヘタレだわ・・・
とは言え、現在は実験優先。
アリサに動かして頂いた。
今回俺が魔糸で作り上げたのは、出来るだけ『麻糸』に似せて作った糸だ。
まず、最初は『普通の糸として作った魔糸を織って布を作れるか?』という、初歩の初歩に挑戦だ。
アリサが織機の前に座り、織機を動かしだす・・・
懐かしい音が部屋に木霊した。
完璧に使いこなしているな・・・小気味いい音を発しながら、布が織り上がっていく・・・
ああ、昔を思いだすな・・・爺ちゃんの家で、夏休み永々に仕込まれたっけ・・・
俺が感慨に耽っていると、布がある程度織り上がっていた・・・
アリサに止めてもらい、触って感触を確かめ、ハサミで切って・・・駄目だ、切れない・・・
少し、驚いた声でアリサが告げる。
「マスター、魔糸の切り方はご存知ですか?」
「え? 切り方?
普通に切れば良いんじゃないの?
俺が母様の糸に絡んだとき、普通にハサミで切ってたよ?」
母様が持っているハサミ・・・
俺がネバネバする糸で捕らえられた時、母様が糸を切った代物だ。
それを見たから、俺はハサミで簡単に切れると思ったのだが・・・
「はい、『あの』ハサミなら難なく切ることが可能です
しかし、普通の道具を使い、普通の方法で、普通の人間が魔糸を切ることは叶いません。
奥様が持っていらっしゃるハサミは、魔糸を切ることを目的に作られたハサミなのです
恐らく、マスターも近いうちに奥様からプレゼントされるとは思うのですが・・・
切るには専門の道具か、方法が必要です」
・・・そういえば、俺は普通に掌から切り離したんだけど?
「それは、術者の身体に繋がっていたからです、身体から離れた瞬間には切ることは叶いません
魔力として吸収するか、消滅するのを待つかですね・・・」
「じゃあ、ハサミを貰えれば万事解決だよな」
俺が笑顔で告げると、アリサは気まずそうな顔をした・・・
「いえ、・・・そのハサミを使っても、マスターがお考えのことが出来るかは怪しいです
ハサミが・・・その、とても高価な道具なのです」
・・・マジか?!・・・
試しに聞いてみた・・・目が飛び出る金額だった・・・
それをプレゼントしてくれるかもしれない母様に感謝だが、俺に買い与えて我が家の財政は大丈夫なのだろうか? ・・・大丈夫だろう・・・なんか、凄い貴族らしいし・・・
でも、それを何本も買う金はないだろう・・・
俺が計画していた魔糸で作った布の大量生産には、そのハサミがもっと必要になるだろうな・・・
否、待て、切る為の方法があるとか言ってなかったか?
「はい、しかし、その方法は『武術』のカテゴリーです
マスターが取得するのは難しいかと・・・」
確かに、俺では無理だ・・・が、しかし、今ここに居ないサヤカなら・・・
ん? そう言えばサヤカは何処だ?
「サヤカさんなら、星見さんの家事を手伝っていますよ」
最近はマネキン共のせいで、満足に家事を出来てなかったようだしな・・・
今日はマネキン共は、母様に付いて行って屋敷に居ない、無論、母様付きのドール・叢雲も居ない。
そうか、なら、今度、聞いてみることに・・・!?
急に悪寒が身体を突き抜けた、アリサも何か感じ取ったのかポチを見ている、まさか・・・この感覚はポチと繋がっているから感じるのか?
「あー、小僧、ちょっと厄介なことになりそうだぞ?
俺様の『デバイス』がな・・・破壊されたわ、敵襲だろうよ」
デバイス?
なんだろうか、それ、前世では聞き慣れた単語だが・・・
「マスター、『デバイス』とは人形の能力を一部受け継いだ分身のことです
コレを作り出す機能を『デバイス作成機能』と言います
・・・ポチ、また自分で自分を改造しましたね?」
「いやいや、コレは役に立ってるじゃんよー、細かいこと言うなや・・・
まぁ、今回、俺様が作った『デバイス』は俺様の足下にも及ばないクソなんだが・・・
家の中回った警備くらい出来るだろうと思ってな・・・それが、破壊されたわ」
「サヤカ達に破壊された可能性は無いのか?」
聞いてみたが答えはNOだった。
「それは無えぇな、星見の姉えちゃんじゃ、デバイスといえ俺の分身を壊せるとは思えねぇ・・・
サヤカの嬢ちゃんなら、頑張れば壊せるだろうが、・・・最初、俺達に助けを求めると思うぜ?」
「でも、結界が張られてるんじゃないのか?」
「おそらく、結界の網を潜られたものと思われます・・・
マスター、迎撃許可を・・・」
不測の事態にアリサは冷静だった。
「分かった、許可する
だが、俺も付いて行ってもいいか?」
俺がそう告げると、アリサは不安そうな顔をしたが・・・
「分かりました、マスターの決定には従います
しかし、どうか、私からは離れないでください」
「安心しろ、俺様も付いて行くからな!!」
アリサが許可を出し、ポチが付いて来る・・・
真っ暗な屋敷は何処か不気味だった・・・
■
まずは、サヤカ&星見さんとの合流だ。
二人は、俺の居た場所からは離れた部屋で備品の整備をしているとのこと・・・
暗い廊下は、否応無く焦りを増幅させてくれる・・・
走っていたら、アリサが急に静止を促した・・・
「そこに居るのは何方ですか?
私の魔力探知機能に引っかからない所を見るに、『武人』の方ですよね?
無許可に人の屋敷に足を踏み入れ、我が主を前にしても顔も見せないとは
・・・些か失礼ではありませんか? 不法侵入者が!!」
アリサが怒気を含めた口調で叫ぶと、廊下の闇の向こう側から一人の男が現れた・・・
「いやいやいや、俺達みたいな賊相手に失礼も糞もないだろ普通?
でも、まぁ、俺もそう言うの好きだぜ?
正々堂々、上等じゃん♪
いや、ほら、俺も侍の端くれだからさ・・・そういうの燃える訳よ、人形の姉ちゃん」
現れたのは、着物を来た若い男、手には木製の杖の様なモノ・・・顔には先程から笑みが浮かんでいるが、目が笑ってないな・・・
いや、つーかその外見、どこの三世の一味だ、おい!!!




