16話 工作の時間です
新章突入です
森の中を俺は走る。
付近の木と木の間に、まるで蜘蛛の巣の様に張り巡らされた糸を使い、情報を収集・・・
母様の『手駒』の位置を確認したあと走り出す。
俺がこの一年で、母様の磨かれて来たのは、より高度に精密な『魔糸』を作る技術だ。
特に『魔糸』における二つの性質は特筆しておく。
最初に、『魔糸』は込める魔力を微妙に変えることで、様々な性質を持つ様になるという点だ。
戦闘面では、
蜘蛛の糸の様なもの、針金の様に頑丈な物、強い粘着力があるもの・・・などの性質を持つ物を作ると便利である。
俺は特に、蜘蛛の糸の様に『魔糸』を作るのが好きだった。
『魔糸』の特性の中に、触れた物の情報を伝達するレーダーの様な仕様がある。
それを最大限に発揮出来るのが、蜘蛛の糸と見紛う程に作られた俺の『魔糸』だ・・・
実際の蜘蛛も、巣の糸が感じ取った振動をキャッチし獲物を補食する、まるでレーダーの様に使うからな・・・
ここまで、精巧に作るのには手間が掛かったが。
そのおかげで、この『隠れんぼ』でも母様と良い勝負が出来る様になった。
勝てたときは一度もないが・・・
二つ目は、作った糸は消滅しにくいという点。
最初に作った糸が、なかなか消滅しない物だから母様に訪ねたら・・・
「ああ言い忘れてたわ!!
魔糸は、自分から魔力として回収するか、魔糸自信の魔力が切れないと消滅しないから
因みに、魔糸は込める魔力によるけど、最低、1週間は消滅しないわ」
試してみたら、確かに、手から切り離して放置しても、一週間消滅しなかった。
・・・俺の作った『魔糸』は、一ヶ月経っても消滅しなかったが・・・
さらに、こまめに魔力を流してやれば、半永久的に消滅しないことが明らかになった・・・
おっと・・・
ちょっと、回避出来そうもない敵が現れた様だ・・・
一番最初に『隠れんぼ』した時、煮え湯を飲まされた、巨大間接人形・・・
その名を『タロス君』がそこに居た・・・
タロス君は、その大きな手を俺へと差し向けた・・・
瞬間、俺は近くの大樹に糸を飛ばした。
某蜘蛛人間の様にその糸を使い、木の上へと飛び移る。
タロスの手が宙を切った・・・
最初に糸を出したときの発想を元に編み出した技である・・・本当に、スパイダーなあの人みたくなったな・・・
糸を使って飛び回り、タロスも手を振り回すが俺を捕らえることは叶わない・・・
くくく、馬鹿め、伊達にこの一年間、木の上から落ちづけて無いわ!!
タロスを一頻り翻弄した後、俺は糸を飛ばし大きく森の奥へと移動する・・・
余裕・・・
そんな単語が出て来た、人はそれを油断と言う・・・
木と木の間を飛び越えようとした刹那、
俺の身体が何かに絡まり、空中で静止する・・・
え?
これ、なにごと?
俺を搦め捕ったのは、よく見ると、俺が使う『魔糸』の様な・・・
否、俺が使う物より粘着力に特化した物だ・・・
それが俺を絡めていた・・・
よく見ると、付近の木々に張り巡らされている・・・
その糸の上を、まるで蜘蛛の様に歩いてくるのは、母様のマリオネット、名前はルーカス。
「ガガガ、レイジサマ、カクホー」
試合終了、俺は今日もモミモミされます・・・
■
さぁて、モミモミされた後に、屋敷にある自室に戻る。
もうね、ダメージに慣れちゃいましたよ・・・
さて、部屋に戻ると趣味に走ります。
部屋に乱雑に置かれた木材と木工道具・・・
工作の時間です・・・
『魔糸』の技術を学び、俺が目をつけたのは、その性質だ・・・
込める魔力の量により、性質が変わる・・・そう、様々な性質の『糸』を作ることが出来るのだ。
何故、コレに目をつけたかと言うと、前世での我が家の家業が所以だろうな。
俺の地元は、日本でも有数の繊維産業が盛んな街だ。
爺ちゃんは工場とか持ってて、そこでジーンズとか作ってる・・・
それ故に、繊維とか、布とか、紡績とか、織機の動かし方とか、そういった知識には一日の長がある。
爺さんは俺に工場を継がせる気だったらしく、なんかそういう話を滅茶苦茶聞かされたのだ・・・
それが理由で、一応は工業高校に入ったのだけど、本心では継ぐ気なかったな・・・
トリマーとか、イラストレーターとか目指してたわけだしな・・・オタにもなったし・・・
・・・あ、でも、一回爺ちゃんの友達にさせてもらった羊の毛狩りは楽しかった、あいつ等ちゃんと躾けられてるから毛を刈るとき従順なんだ・・・コツは居るけどね、あいつ等、可愛いからもう一度やりたいな・・・
さて、そんなことはそうでも良かったな。
『魔糸』を作る際、試しに作ってみたのがコノ、『ポリエステルの紛い物』だ・・・
ポリエステルとは・・・
ナイロン、アクリルなどと並ぶ、三大合成繊維の1つだ。
まぁ、解り易い所で言えば、服に使われている繊維と言えばいいか。
俺が、ポリエステルの性質を思いだしながら魔力で紡いだ物なので、若干、オリジナルより劣るが・・・
因みにこの世界には、合成繊維という概念が無かったようで。
コレを最初にアリサに見せたら大層驚かれた。
「マスター、・・・これは絹糸ですか?」
そう聞き返されて笑ったのを覚えている。
合成繊維とは、地球の歴史で19世紀に作られた『レーヨン』などの『人造絹糸』まで遡るから。
もしかしたらアリサは、感触を『絹糸』としか表現出来なかったのかも知れない。
・・・大分、違うと思うけどな・・・
・・・そう言えば、この世界には『人造絹糸』は存在しないのだろうか?
地球の歴史なら、大正時代には作られていた気がするのだが・・・
「・・・聞いたことが無いですね」
と、返された。
この世界の繊維産業はどうなっているのだろうか?
メインの繊維は何だったかな、・・・確か、植物繊維なんかがメインだったか?
そこで俺は考えついた、
コレは儲けれると・・・
まぁ、ファンタジーな繊維作って(龍の焔をも耐える、耐熱性を持った繊維。聖剣とかの斬撃を受け止める、ケブラー繊維の強化版みたいなヤツ・・・etc)、それで服を作れないかぁーと模索してみたり。
その為には、やはり実験だ。
アリサに頼んで用意させた木材で、『手織り機』を作る。
爺ちゃんと小学生の頃、夏休みの自由工作で作って以来だ・・・重くて学校に運ぶのが、凄い疲れたのを覚えている、あの大きさの工作も俺だけだった・・・
アリサが、織機を用意しましょうか?
と、聞いて来たが断った・・・
この世界の技術力がどれほどの物か知らないが、まず、俺が使ったことのある物で簡単な実験をしたいと考えたからだ・・・毎日、モミモミされて、なにかしらの趣味に逃げたかったのもある・・・
部屋に誰か入る音がする、アリサとポチ、それと母様の着せ替え人形にされているサヤカさんだ。
今日は、母様と同じゴスロリだ。
「おうおう、小僧、精が出るじゃねぇーか」
「お疲れまです、マスター」
「レイジ、手伝いに来た」
それそれが、それぞれの台詞を口に出し、俺を手伝ってくれる。
この中で、俺がしたいことを理解しているのはアリサだけだが。
ポチは手先が器用なようで、作業が速い(そう言えば、馬車を直していたな・・・)。
サヤカさんは、ノコギリで木材を切ってくれている(俺が母様の所で修行している最中、父様の所で、父様の手伝いをしているから、ノコギリの扱いが上手くなったのだとか。因みに俺は、父様が何者なのかイマイチ知らない)。
アリサさんは、作られた部品を分けたり、大鋸屑を掃除したり、お茶を淹れたり、忙しそうだ。
今日作った物で、8機目・・・
ぶっちゃけた話、4人で作る程の物でも無いのだ。
レイジ君の特技が明らかになりました。
うん、書いててあれだけど、説明口調だね・・・
お気づきかと思いますが、前世のレイジ君の家庭は変人揃いです。
お爺さんもその中の一人なので、気にしないでね♪
因みに繊維などの知識は、作者が昔、専門的に習ったうろ覚えの知識を大幅に使ってます。
変な所はあると思いますが、大目にみてやって下さい。
簡単な手織り機なら、誰でも簡単に付けれます。
作者は、不器用なので動きませんでしたが・・・