14話 森の中での逃走劇
鬱蒼と生い茂る森の中は、薄暗く、小動物達の住処だった。
俺は初めて居世界の動物を発見した。
リスの様な、ウサギの様な・・・、赤毛の小さい身体に、長い耳を持った可愛らしい動物である。
母様との鬼ごっこ所ではない、俺大興奮である。
前にも話したかもしれないが、俺は動物好きが講じて、ワンコのブリーダーさんの元でアルバイトをした経験がある。それ以外にも、某有名ペットショップ・◯ミーゴでのバイトもした。某野鳥を愛でる会にも加入している。工業高校に在学していたのに、勉強して愛玩動物飼養管理士の資格も持っている。
それほど動物が好きなのだ。
ブリーダーさんの所でのバイトは、高校生活との両立から半年で根を上げてしまったが・・・
将来的には進路選択で、芸大か、トリマーさんの専門学校か、この2択で迷った程だ(工業高校どうしたっ!)。
動物は良い。
癒されるからな・・・、後、モフモフ出来るし・・・。
・・・そういえば、ずぅーと前に獣耳生やした亜人さんを見かけたな・・・じゅる・・・
「レイジ、なんで涎垂らしてるの?
・・・『赤兎』はそんなに美味しく無いよ?」
俺に付いて来てくれたサヤカさんが、俺の目線を追って兎の名前を教えてくれる。
赤兎って、まんまじゃねーか・・・
それよりも、俺は兎を食べたそうに見えたのか?
心外である・・・
俺が抗議の声を上げようとしたとき。
サヤカさんが、俺の唇に人差し指を当て、静かにする様に促した。
近くの茂みへと隠れる様に言われる。
サヤカさんも俺の真横に隠れた・・・
・・・ロリ属性無いけどな、生前女の子と交流無かった身としては、この状況は・・・
やべぇ・・・ロリに目覚めそう・・・
しばらくその状態で隠れていると、森の奥から俺でも解る程、大きな足音が聞こえて来た。
葉っぱの隙間から、足音の主を確認する・・・驚いた・・・
2~3m程のなんの装飾の無い大きな関節人形
ゆっくり、ゆっくり、森の中を移動し何かを探している様な素振りを見せる・・・
なんだアレは?
外見からして、母様の『手駒』というヤツなのだろうけど・・・
あんな大きな人形を動かしていると言うのか?
アレは、『ドール』なのか、『キラー・パペット』なのか、それとも俺のまだ知らない人形の種類なのか?
・・・それにしても、外見恐過ぎるだろ、子供との遊びで持ち出す人形じゃないな・・・
その大きな関節人形が通り過ぎるのを待って、俺達は茂みから出た。
ちょっとした恐怖体験である。
「レイジ・・・、ここを移動しよう
また、来るかもしれないから・・・」
泣きそうな顔でサヤカが告げる・・・
ほら、ここにトラウマ植え付けられた子供が一人・・・
俺は頷いて、二人でその場を後にした。
■
逃げた先は、一層背の高い木々に囲まれた場所だった。
太陽の光は完全に遮られており、辺りは薄暗く不気味だ。
こんな場所で人形から逃げる俺達は、まるでホラー映画の登場人物みたいだな・・・絶対にB級だろうけど・・・
「レイジ、疲れてない? 大丈夫?」
サヤカさんが俺を心配そうに見ている。
この前まで、多大にお世話になりましたからね、心配させる訳には行かないでしょう。
それに、なんか全然大丈夫そうだし。
なんか、バランスは取りづらく、たまに転けそうになるけど、基本的に疲れてないんだよね・・・
俺、体力上がったのか?
「大丈夫だサヤカ
サヤカの方こそ大丈夫か?
デッカい人形が歩いて来た時、泣きそうな顔してたぜ?」
ふざけた調子で言ってみると、
サヤカが目に涙をため始めた。
あれ、俺、言っちゃ不味いこと言った?
「だって・・・恐かったから・・・」
ああー、うん、ありゃ恐いね・・・
しかっりした口調で、全然普段は忘れているけれど、サヤカはまだ4歳なんだった・・・
普通、4歳の子供があれを見たら泣く
俺は2歳だが、精神年齢は20歳くらいだからなぁ、
あんな人形見ても、『わぁ、すげーファンタジーだぁぁ。この技術を応用して某機動する戦士作れないかなぁ・・・』、とかしか考えていなかった訳で・・・
逆にサヤカは偉いと思う。
あんなのを見たら、普通、恐くて動けないもんな。
それを多分、俺の前だから無理して頑張ろうとしたんだと思う。
それを揶揄っちゃ不味いだろう・・・
「サヤカ、気にするな
誰にだって恐い物はあるんだ、
俺だって嫌いな物や恐い物くらいあるからな!」
俺が励ますと、
サヤカは泣いた顔を上げ、俺の顔をマジマジと見つめて来た。
そして、なにか決心した、覚悟を決めた様な顔になる
なんだ?
俺の顔に何か付いているのか?
「レイジは一杯恐いものあるよね・・・
年上のあたしが頑張らないといけないよね!!」
え? 何コレ?
サヤカの中での俺は、とんでも無いヘタレか何かか?
・・・ああ、俺、サヤカの前では弱い所しか見せてないわ・・・
いや、つーか、転生してからカッコイイ所なんて1つもないんじゃ・・・
駄目だ、このままでは駄目だ
いまから軌道修正、そう軌道修正しなければ!!
俺とサヤカはお互いに決意を固め合ったのであった・・・
■
この場所には母様の追っ手は来ないようだ。
そういえば俺達には時間を確認する術は無い・・・
まぁ、もう既に5分は経過してそうだが・・・
残り時間が少ない割に、母様は何もして来ないな。
もしかして、俺達の捜索を諦めたのだろうか?
いや、それは無い。
前世の母に似ているから断言出来る、あの手の人間は諦めが悪い。
ならなぜ、制限時間ギリギリまで俺達を放置する?
もしかして、俺達が隠れんぼの範囲から出たのだろうか?
それなら、アリサが飛んできそうな物だが・・・
「レイジ、来たよ・・・」
隣に隠れていたサヤカが何時でも走れる状態を取る。
今更だが、俺には何も聞こえない、サヤカは聴力が良いのだろうか?
しばらくすると、俺にも聞こえる足音、足音・・・
足音の主の姿を確認した後、またしてもサヤカが泣きそうな顔になった。
俺もそぉ〜と覗く・・・ああ、あれは俺でも恐い・・・
母様の『手駒』その2は、5体のマネキンだった。
どのマネキンの動きも、どこか気持ち悪く気色の悪い感じだ。
マネキンであることからか、上等そうなドレスを着ているが・・・
それで不気味な動きをされたら、、マジでホラーだからな?
もう、なんか・・・母様の趣味が解った気がした・・・
「ひぃい!・・・」
隣で悲鳴が上がる。
どうしたのかな、と振り向くと・・・
「ガガガ、ガ、レイジサマ、ミーツケッタ・・・」
ソコには、木で作られた、装飾のされていないマリオネットが浮いていた・・・
バタン・・・
サヤカが倒れた・・・・・・
まぁ、仕方が無いな、ココまで無理をさしたのは俺だし。
マリオネットは俺より小さい。
俺を捕まえるための人形ではないのだろう。
なら、目的は・・・
タタタタタタタタタタタタ
後ろから聞こえるマネキンの足音・・・
俺は振り向かずに走り出した。
そんなもん見ちまったら、流石の俺でもトラウマは免れない。
薄暗い森の中をマネキンに追いかけ回されながら走る2歳児・・・恐怖だ・・・
しかし、マネキンの動きは遅い。
もともと、動かす為に作られた人形ではないからな、その点で逃げれないことも無い。
俺が余裕を確信した時、目の前にマネキンが現れた・・・
クソ、まだ居やがったのか・・・
進路を変えて走り出す。
そしたら、またそこにマネキンが潜んでいた。
なにかがオカシイ・・・
まるで、俺を誘導している様な・・・
敵の手に乗るのは癪だが、俺は森の歩き方に慣れておらず、大きな木の影から現れるマネキンを事前に予測して回避するなど不可能に近い・・・
仕方なく母様の手に乗るのだ。
なぁーに、時間一杯走り回れば俺の勝ちだ。
マネキンの脚は俺より遅い・・・
俺が勝利を確信して、一際大きな木を迂回しようとした瞬間、それは降りて来た・・・
球体で作られた間接を持つ、大きな手・・・
急に現れた手に驚き転ぶ、それを支えたのはもう片方の手である・・・
俺はそんなことには構わず、必死に逃げ出した・・・
しかし、走り出した俺の身体をいとも簡単に捕まえる手。
そうだ・・・コイツが居た・・・
大きな木の影から現れたのは、最初にサヤカが涙した巨大な関節人形であった。