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逃げた先



「小夏っ」



入り口近くにいた小夏の所に駆け寄ると、小夏はホッとしたような顔をした。



「もう、なかなか来ないから心配したでしょ。彼氏と仲がいいのはいいことだと思うけど、時間を考えてよね」

「ごめん!話に夢中になっちゃって……」



昨日、別れ話の最中だって言ったばかりで、こんなこと言うのは怪しまれるかも。

とは思ったけど。

それ以外に言葉は思いつかなかった。

でも、小夏は私の苦しい言い訳に疑問は持たなかったみたいで。



「全く、もう……」



そう言いながら、私の背後を見た。



「――藤咲くんも。奈夕はこれから講義なんだから、気をつけてよね」



小夏の視線を追って振り返れば、当然のように透和がいた。



「っ」

「ああ、悪かった。次からは気をつける」



“次”。

次が、あるんだ。



「じゃあ、講義頑張れよ」



言いながら笑う、その透和の笑顔が――ただ怖かった。











「トイレ寄っていこ?」



そう言われて入った女子トイレで。



「――で?どういうことなの?」



何故か私は、詰め寄られていた。

講義が始まっているからだろう。

女子トイレの中に、私と小夏以外の人はいない。



「どういうって?」



いきなりの事に、訳が分からなくて聞き返した。



「さっきの」



単語で答える小夏の声が、いつもより低い。

機嫌が悪いのが、分かる。

でも、何でそんなに豹変(ひょうへん)したのかが分からない。



「何って?」



ホントに分からなくて、もう一度聞けば。

小夏はイラついたように、舌打ちした。



「とぼけないで。悪いと思ったけど、雰囲気がヤバそうでちょっと立ち聞きしてた」

「っ!?」



立ち聞きした?

何を?

透和とのやり取りを?

どこから?

何を聞かれた?

言われた言葉を理解すると同時に、一気に頭の中が混乱する。

どう誤魔化したらいいんだろう。

そう、言い訳を探す私に。

小夏は違う質問をしてきた。



「……ねぇ、その手首、何?」



言いながら下を向いた小夏の目線を追って、ハッとする。

小夏の目は私の手首に向いていて。



「あ……」



さっき、透和に強く掴まれたからだろう。

手首には、くっきりと赤い(あざ)が出来ていた。



「っ、これは……っ」

「誤魔化さないで」



遮るように言われた言葉に。

射貫くようにして見てくる真剣な目に。

もはや、言い逃れが出来ないことを悟った。









大学のトイレで話せるような話でもなかったから。

結局、講義には出ることなく小夏の部屋に逆戻りして。

ポツ、ポツ、と全てを話した。

出会ってから、今までのこと。

全部。



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