表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/33

校舎裏

起きたのは10時過ぎだった。

今日取っている講義は私も小夏も午後からの物だけだ。

お昼過ぎまで小夏の部屋でダラダラして、二人一緒に部屋を出た。




大学に着くと、何だかいつもより騒がしかった。



「本物初めて近くで見た!」

「やっぱり格好いいね!」



すれ違った学生たちが、そんなことを言ってた。

どうしたんだろう?

小夏と顔を見合わせてから、一際(ひときわ)声が集まってる方に目を向ける。

見れば、今から私たちが入る校舎の入り口に人だかりが出来ていた。

それも女の子ばっかり。

(……嫌な予感がする)

私はこれから講義があるから、その校舎に入らないといけなくて。

足が重くなりつつも、人だかりの方をなるべく見ないようにして横を通りすぎようとした時。



「待てよ」



腕を捕まれた。

腕を掴んだのは、透和。

透和は周りの女子たちのざわめきなんて物ともせずに、私を見下ろしている。



「……なに?」



不機嫌そうな透和の表情に、萎縮しそうになるけど。

それを気取られたくなくて、声を出した。

少し、声が震えてしまったかもしれない。



「――来い」



透和は私の問いを無視してそれだけ言うと、私の腕を掴んだまま返事も聞かずに校舎の外へと歩き出した。

捕まれた腕を引っ張られて、引きずられるように連れて行かれる。



「ちょ、透和!」



慌てて呼び掛けるけど反応はない。



「離して!」



捕まれた腕が痛い。

透和に向かって訴えるけど、透和は振り返らない。

それどころか、さらに強く握られた。

逃がさない、とでも言うように。

私は引きずられるように歩きながら、何とか振り替えって。



「先、行ってて!」



こっちを呆然と見つめる小夏に、それだけ叫んだ。




◇◇◇◇◇




連れてこられたのは、校舎裏だった。

透和の足が止まった、と思ったら。

ぐい、と腕を引かれて。

体を引き寄せられて。

気付いたら校舎の壁を背に、透和の両腕に囲い込まれてた。

至近距離で、透和が口を開いた。



「……昨日、どこにいた?」



声が、低い。



「っ」

「言え!」



イラついた声に、身が竦(すく)む。



「と……友達のとこに……」



一昨日の恐怖が蘇って。



「友達?さっき一緒にいた奴?」



問い詰めてくる透和が怖くて。



「そ、そう……」



声が震えた。



「それで?」

「え?」

「何でメール返してこなかった?」

「っ、友達と飲んでて……気付かなくて……」



咄嗟に、答えてた。

でも、こんな答えで透和が納得する訳もなくて。



「飲んでて気付かなかった。まぁ、それが本当だったとして。朝には、気付いてたはずだよな?まさかそれも気付かなかったとでも?」



さらに問い詰められる。



「っ、それ……は……っ」



言葉が続かなかった。

だって、ホントは昨日から気付いてたんだから。

メールを打つのなんて、数分もあれば事足りる。

歩きながらだって打てる。

なのに、返信をしなかった理由なんて――。

言えるわけがない。

射貫(いぬ)くような透和の視線が怖くて。

逃げるように、目線を下に逸らした。



「何とか言えよ!」



ビクッ。

荒げられた声に、体が竦んだ。



「ちッ」



俯いているのが気に入らなかったのか、舌打ちをした透和が私の顎を掴んだ。

くい、と無理やり顔を上げさせられて。

不機嫌な顔をした透和と目が合う。



「はな……っ、んぅ」



離してと言うはずだった言葉は、透和の口の中に飲み込まれた。

食べられてしまうんじゃないかと錯覚しそうなほど、激しく口内を貪られる。

唇を離そうと頭を振ろうとするけど、いつの間にか後頭部に添えられた手に押さえ付けられて抵抗もままならない。

空気を吸うことも難しくて。

酸欠で意識が飛びかけた時。

ヒヤッとした冷たい物が、服の裾から入り込んで来た。



「っ!?んーっ!?」



透和の手だ。

慌てて透和の腕を掴む。

でも、それが気に入らなかったみたいで。

ようやく唇を離した透和が、耳元で囁いた。



「俺を拒むな。拒んだらここでお前をめちゃくちゃに抱いてやる。――声出したら、誰かに見られるかもな?」



まぁ、俺はそれでもいいけど。

クツクツと笑いながら囁かれたその言葉に、透和の腕を掴んでいた指の力が抜けた。



「そう、それでいい。拒まなきゃ、最後まではしねェよ」



そう言ってまたキスをしようとしてきた――その時。



「奈夕ー?」



小夏の声がした。



突然割り込んできた、第三者の声。

多分、いつまで経っても講義室に来ない私を探しに来たんだろう。



「奈夕ー?どこー?」



その声に、透和の意識がいって、拘束が緩んだ。

(今しかない……っ)

ドカッ。



「――っ!」



私は透和を蹴り飛ばし、校舎裏から逃げ出した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ