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二度目の出会い


透和を初めて近くで見たのは、大学二年の春だった。



その日、取っている講義もなくて午後から暇だった私は、講義で分からなかった所を大学の敷地内にある図書館まで調べに来ていて。

調べ終わって外へ出た時には、すでに夕方になっていた。

空に出ている綺麗な夕日を見て、ふと図書館裏に植えてある桜の木を思い出した。

大学には色んな所に桜を植えていて。

特に中庭や校門付近に植えられてる桜は密集してるのもあって、見ごたえがある。

だから。

図書館の中から眺めることを目的としてるんだろう、図書館裏の狭いスペースに植えられた桜の木をわざわざ見に来る人はいない。

もしかしたら、何人かはいるのかもしれないけど。

取り合えず私は、入学してから一年近くの間、見に行って誰かと鉢合わせたことは一度もなかった。


(こんな夕日の中、桜を見たら綺麗そう)


そう思って訪れた図書館の裏。

そこに、透和がいた。

桜の根元に仰向けになって。

眠ってた。

人がいたことにも驚いたけど。

それが“藤咲透和”だったことにも驚いた。

夕日に照らされる桜の下、気持ち良さそうに眠る透和は――綺麗だった。




しばらく目の前の光景に見惚れた後。

はた、と我に返った。

春とは言え、夜は冷える。


(このままここで寝てたら、風邪ひくんじゃない?)


寝てる透和を見て、そう思ったけど。

話したこともない相手を声をかけて起こす勇気なんてなかった。

でも、風邪をひくかもしれないと分かってるのに、そのままにしておくことも出来なくて。



「……はぁ」



一つ息を吐いて、眠っている透和の上に羽織っていたカーディガンをかけて――立ち去った。




◇◇◇◇◇




次の日、講義が終わった後で私はまた、図書館裏を訪れた。

彼に会えるかも、なんて思ってたわけじゃない。

昨日彼に掛けたカーディガンが置いてあるかもしれない、と思ったからだ。

もしかしたら彼がそのまま持って帰ってたり、捨てられてたりしてる可能性もあったけど。

それならそれで別に良かった。

あればいいな。

そんな軽い気持ちで訪れた図書館裏に、



「――これ、あんたのだろ?」



カーディガンを持った彼がいた。



確信を持って言われた言葉に、言い逃れは無駄なことを悟った。

促されて隣に座り、何故か二人で会話をすることになった。

突然のことに混乱しすぎて、逆に冷静になれた。

感情が追いついてなかっただけなのかもしれないけど。

会話途中に、何でカーディガンの持ち主が私だと分かったのか聞いたら、



「あの時、起きてたから」



なんて返答が。

何でも、近付いて来る足音で目が覚めてたらしい。

でも、下手に起きて声をかけられるのも面倒だからと寝た振りをしてたそうだ。

まさか、カーディガンだけ掛けて声もかけずに立ち去るなんて思ってもいなかった、と苦笑してた。


(きっと、周りには肉食女子しかいないんだろうなぁ)


透和の話を聞いてて思ったのは、そんなこと。

まぁ、透和みたいな美形に近寄れる女なんて、そうじゃないと無理なんだろう。

で、そんな肉食女子に辟易してた透和は、初めて見た草食女子が珍しくて興味を持った、と。

そういうことなんだと思う。

会話の終わりに彼は、



「また、ここに来るか?」



そんなことを聞いてきた。

その言葉の意味に気付かないほど鈍くはない。

だから。



「講義が全部終わった夕方とか、友達と約束がない日とかなら」



まぁ、雨じゃない日限定ですけど。

なんて返事を返した。



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