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後日談③(前編)

纏めきれませんでした……↓



「一度、藤咲くんとはゆっくりと話してみたいと思ってたの」



開口一番、にっこりと笑って、小夏が言った。

内容は普通なのに、何だかとても含みを感じる言葉だった。

その言葉を向けられた透和は、私が別人じゃないか、と疑ってしまいたくなるような嘘くさい、でもとても爽やかな笑みを浮かべて。



「ああ、俺も会いたいと思ってたんだ。何でもずっと奈夕を(かくま)ってくれてたそうで?」



棘がふんだんに含まれているであろう言葉を返した。



「ええ、奈夕の“一番”の親友だから。困ってる親友を助けるのは当然でしょ?」



一番の、という所に力を込めながら、見下すように小夏が応酬する。

その小夏の笑みが何故か勝ち誇ったように嘲笑に見えたんだけど、気のせいだろうか。

そう思う私の横では、小夏の笑みを真正面から受けて、透和がピクリと微かながらに眉を反応させる。



「当然、か。……ははっ」

「当然よ」



ははは、ふふふ。

二人の笑い声が、半個室の室内に響く。

(怖……っ)

怖いよ、二人とも!

何かバックにブリザードが吹き荒れてる光景が、幻視出来るんだけど……っ。

私はただ透和の横に座ってるだけで、話を振られてるわけでもないのに。

開始数分ですでに胃が痛い……っ。

今にもキリキリと本格的に痛み出しそうな胃を服の上から押さえながら、何でこうなってしまったんだろうと、そもそもの経緯を思い返した。





そもそもの発端は、透和に逃げてた間のことを聞かれたことだった。

その時点ではまだ、小夏のことを透和に正式に紹介してはいなかった。

ちゃんと紹介したい、とは思ってたんだけど。

透和と和解したあの日は、小夏とちゃんと話せる状態じゃなくて。

「ありがとう」とだけ伝えて、久しぶりに自分のマンションに帰ってしまったから。

機会を逃して、何だかタイミングが掴めなかった。

そんな時だったから。

透和の質問に答えるのと一緒に、小夏のことをちゃんと紹介したいって話をした。


その後、小夏とも話をして。

どうせ会うなら、一緒にご飯でも食べようってことになって。

透和と和解したあの日から、一週間ちょっと。

それぞれの空いてる時間を合わせて、ようやく対面が実現した。



場所は、その方が気楽だろうから、と半個室形式の居酒屋になった。

私と透和が店についた時、すでに向こうは来ていて。

店員に案内されるまま一つの個室に通された。

すでに座ってメニューを眺めてた小夏に謝って、席に座った。

そして。

一番初めの小夏の言葉に戻って。

今に至る。



(あああああ、何で堀ごたつ形式の個室の居酒屋にしちゃったんだろう……!?)

靴を脱ぐのに手間取ってなかったら、せめて私が小夏の前に座ることも出来たのに……っ。

真正面に座らなかったって二人のやり取りが変わるとも思えないけど。

いや、でも……っ。

なんて、内心パニクりながらも、チラリと終わりの見えない応酬を続けてる二人を見る。

小夏が私の左斜め前に座ってて。

小夏の正面が透和。

その透和の隣に、私がいて。

そして私の前には――、



「……注文どうするんだ?」



氷室くんがいる。

私が小夏を紹介することになった時、透和が「それなら俺も紹介したい奴がいる」と言って今日ここに呼んだのが氷室くんだった。

私の前に座る氷室くんは、横で起こっている静かな戦いなど知らないとばかりに平然とした表情で声をかけてくる。

今日会った氷室くんは、春休み前に初めて会った時が嘘だったんじゃないか、と思うくらいにとても友好的だ。

そのあまりの変化に、こっちもこっちで戸惑ってしまうけど。

戸惑ったからってどうすることも出来ない。

取り敢えず、注文だけでもさっさと決めよう、と氷室くんに促されるままにメニュー表を受け取った。

そして、メニュー表を覗き込んで顔にかかった髪を耳にかけた時、



「――それ」



もう一度、氷室くんから声がかけられた。



「それだろ、誰にやられたのか口を割らなかったって言う頬の傷」

「……え」



言われた言葉に、思わず顔を上げた。

頬の傷。

確かに、今、私の頬には傷がある。

二日前、マンションの前で待ち伏せてた女性にぶたれた時に出来た傷。

引っ掻き傷だったから、二日経った今でも、まだちょっと傷が残ってる。

だから、そのことを言われたんだと分かるんだけど。

今の言い方は、まるで、



――「それだろ、誰にやられたのか口を割らなかったっ言う頬の傷」



(まるで、私に会う前から知ってたような――)

二日前、ぶたれたまま私は慌てて透和との待ち合わせ場所に向かった。

だけど、さすがにぶたれた顔のまま透和と顔を合わす気にはなれなくて。

待ち合わせの駅に着く前に、乗った電車の中で私なりに誤魔化そうとしたんだけど。

リキッドファンデーションの厚塗りでは、私が期待したような効果は得られなかったらしい。

会ってすぐバレた。

バレて、問い詰められて、説教されて、拗ねられて――って、それはまぁ、もう終わったことだしいいんだけど。

それを何でこの人が、知ってるんだろう?

そう疑問に思ったのが顔に出てたんだろう。

驚く私を見て、「トウワから聞いた」と氷室くんが苦笑した。



「松本が誰にやられたか言わないからさ、トウワ、めっちゃ機嫌悪くて大変だったんだぜ?」



透和の方をチラッと見てから、ちょっと面白がるように彼が言った。



「それは、凄いご迷惑を……っ」



大変だったって、氷室くんは軽く言ったけど。

機嫌が悪い透和の相手なんて、そんな軽く言えてしまえるほどではなかったと思う。

私としては、女同士の話だし、誰にやられたかとか言うのは告げ口するみたいで嫌だったから、話をややこしくしないように、と思って言わなかったんだけど。

(まさかそのせいで、他の人にとばっちりが行くなんて――っ)

私なりに考えてとってる行動が、ことごとく裏目に出てる。

傷を隠そうとしたのも。

相手の人のことを言わなかったのも。

心配や迷惑をかけたくないからだったのに。

余計に迷惑をかけることになってしまってる。

八つ当たりされて、迷惑をこうむっただろう氷室くんを思えば。

自分の行動がいかに考えなしだったかを突き付けられて。

もう、謝罪の言葉しか思い浮かばない。



「ああ、違う違う。謝って欲しいわけじゃねぇって。トウワの八つ当たりなんて今に始まったことでもないし」



私の謝罪を、氷室くんはきょとんとした顔で否定する。

否定して、氷室くんはニヤリと楽しそうに笑った。



「そうじゃなくってさ、たかが頬の傷一つの原因を教えてもらえなかったってだけで、機嫌悪くして取り乱しちまう。――それくらい、トウワがあんたの言動に左右されてて、トウワがあんたにベタ惚れなんだっつー話」

「べた……っ!?」



絶句する私に、氷室くんはカラカラ笑う。

改めて、透和以外の人から言われると……何ていうか、もう。

(めっちゃ恥ずかしい……っ)


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