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後日談①


――「ホントは、外でデートだってしてみたかった」



あの日、奈夕はそう言った。

だから。

“外でデート”をしてみようと思う。








「で?奈夕はどこか行きたいトコあんの?」



寄りを戻して初めての休日。

前日に奈夕の部屋に泊まった俺は、遅めの朝食を食べ終えてから提案した。



「と……透和は?行きたいとこ、ないの?」



食器を洗い終えてリビングに入ってきた奈夕は、突然の俺からの質問に戸惑いを隠せないみたいで。

逆に質問を返してくる。

そんな奈夕に笑って、立ってる彼女の腕を取る。



「俺は別に奈夕と一緒なら、どこでもいい」



だから、奈夕の行きたいとこに行こう。

軽く引っ張って腕の中に引き込みつつ、そう言ったら、



「っ」



何故か奈夕は言葉を詰まらせた。



「……奈夕?」



俯いた奈夕を不思議に思って覗き込めば、奈夕は頬を赤く染めていた。

どうしたんだ?

そう不思議に思う俺が口を開く前に、



「ほ……ホント?ホントにどこでもいい?」



奈夕が窺うように声を出した。



「あ?ああ、いいぞ」



確認のように聞いてくる奈夕に、二つ返事で頷く。



「――…遊園地」

「分か――」



一呼吸おいてからポツリと呟かれた言葉に、了承の返事を言いかけて。



「――と、映画館と、駅前のショッピングモールと、水族館。あと……」

「ちょ、待て!」



まだつらつらと言葉を続けそうな奈夕を、慌てて止めた。



「そんな一気に言われても無理だって!」



時間的にも、距離的にも。

そう言う俺を、奈夕はきょとんとした表情で見返してくる。

(行けると、思ってたのか……?)

そんな奈夕に少し呆れつつも、言葉を続ける。



「つーか、そんなに行きたかったのか?」



なら、もっと早く言ってくれてよかったのに。

言外に、責めるような含みを持たせて言えば、奈夕はきまり悪げに目をそらした。



「行きたかった、って言うか、その……」

「――なんか、あるのか?」



言いよどむ奈夕に、(いぶか)しげに問いかける。

よく見れば、奈夕の表情は嬉しそうじゃない。



「奈夕」



迷うように視線をさ迷わせる奈夕に、呼びかける。



「もう、擦れ違うのは嫌なんだ」



言えば、奈夕は観念するように息を吐き出して。

ゆっくりと口を開いた。



「……今言った場所を聞いて、気付くことない?」

「は?」



何を言われるのかと、若干(じゃっかん)身構えてた俺にかけられたのは、そんな問いかけだった。

(どういう、意味だ?)

気付くことと言われても、正直、何も思い浮かばない。

さっき奈夕が()げてた場所に、統一性はないし。

無理やり共通点を挙げるとするなら――、

(どれも定番のデートスポットだってことくらいか……?)

俺の困惑に気付いたんだろう。

奈夕が溜め息を吐いた。



「遊園地、映画館、ショッピングモール、水族館。――これ全部、透和が他の女の子とデートした場所だよ」



言われても、言ってる意味が理解出来なかった。

俺が他の女とデートした場所?

(つっても、奈夕ならともかく、他の女とデートなんて――っ、まさか!?)

そこでようやく気付いた。

(ダチの女に手伝ってもらって、奈夕に焼きもちを焼かそうとしてた時のことを言ってるのか!?)



「ちょ、奈夕。それは――」



まだ疑ってたのか、と慌てて弁明しようとすると。



「友達の彼女に協力してもらってただけ、なんだよね?それは分かってる」



奈夕が笑って俺の考えを否定した。

(なら、何で……)

不思議に思ったのが、顔に出てたんだろう。

奈夕は苦笑しながら、続きを口にした。



「だけど、嫌なの。透和が私じゃない他の女の子と一緒に行った場所なんだって思うと……、そこの近くを通るだけで、嫌な気持ちになる。だから、その場所に今度は透和と一緒に行くことで、嫌な感情を上書きしたいな、なんて思ったり……」

「……」



だんだんと尻すぼみになっていく奈夕の言葉を、呆然と聞いていた。

遊園地、映画館、ショッピングモール、水族館。

俺が、奈夕に焼きもちを焼かそうとダチの女と行ったという場所。

奈夕が言うなら、そうなんだろう。

だけど。

(そんなに、いろいろ行ってたか?)

そう思ったのが、正直な感想だった。

はっきり言ってあの時は、嫉妬してくれない奈夕に焦れてヤケクソで。

会う場所なんかはダチたちに任せて言われたとこに行ってただけだから、“どこに行った”とか言われても全く記憶にない。

黙った俺に何を思ったのか、奈夕は肩を落として「ごめんなさい」と呟いた。

唐突な謝罪に、意識が引き戻される。



「し……嫉妬深くて呆れるよね?ホント、ごめ――」



その言葉に、奈夕がまた何か勘違いをしそうになってるのに気付いて。



「違う!」



慌てて奈夕の言葉を遮った。

そうじゃない。

呆れたんじゃないんだ。

むしろ逆で――。



「嬉しかったんだ……」



ずっと、何とも思われてないんだと思ってた。

奈夕にとって、俺は友達の延長でしかなくて。

“嫉妬”なんてされてないと。

なのに、今になって。



――「透和が私じゃない他の女の子と一緒に行った場所なんだって思うと……、そこの近くを通るだけで、嫌な気持ちになる」



その言葉は。



(――反則だ)



口元を片手で覆う。

顔が熱い。

顔の火照(ほて)りはしばらく、引きそうもない。




――今日するはずだった“外でのデート”は、どうやら延期になりそうだ。



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