自分の気持ち
ずっと、自分の気持ちが分からなくなってた。
「好きなのか?」と聞かれたとして。
「好きだ」と答えられる自信がなかった。
でも今。
目の前で、悲痛に叫ぶ透和を見て。
息が詰まって、胸が苦しいのは。
目が熱くて、視界が滲むのは。
きっと――…。
◇◇◇◇◇
言い訳を、させて貰えるのなら。
別に透和を遊び相手のように扱ってたつもりはなかった。
透和を追い詰めてるつもりなんて、全くなかった。
苦しげに歪められてる透和の顔を見つめながら、言葉を紡ぐ。
「傷付けるつもりなんて、なかったの……」
私の言葉に。
行動に。
透和が傷付くなんて、思ってもいなかったの。
大学内で他人の振りをしようとしたのは、虐めが怖かったからだし。
外に一緒に行きたくないのも同じ。
どこに同じ大学の人がいるか分からないじゃない。
「ホントは……、外でデートだってしてみたかった」
透和の友人に会うのを嫌がったのは、「吊りあってない」とか「こんな女が?」とかがっかりされるのが嫌だったからだ。
「友達に……、この人が私の彼氏なんだよって自慢だってしたかった」
イベントの日にドタキャンされて怒らなかったのは、怒るというよりむしろ、空しかったからだ。
「誕生日も、クリスマスも……っ、一緒に祝いたかった……!」
“好き”という言葉を言わなかったのは――恥ずかしかったのもあるけどそれ以上に。
透和に言ってしまったら、ウザがられるじゃないか、と。
「こいつも同じか」と見限られてしまうんじゃないか、と。
怖かったからだ。
私の話を聞き終えると。
透和はずるずるとその場にしゃがみ込み、顔を隠すように頭を抱えた。
「んだよ、それ……」
私の話を聞き終えた透和の第一声は、そんな言葉だった。
呟かれた声に、力はない。
「うん、何だろうね。お互いに勘違いして、傷付けあって。……何やってんだろうね」
「……馬鹿みてー…」
「うん、馬鹿みたい」
ホント、馬鹿みたいだ。
「……」
二人の間に、沈黙がおちる。
これ以上、何を言ったらいいのか、どうしたらいいのか分からなくて、視線を彷徨わせる。
と、窓の外に小さく図書館が見えた。
(――図書館……)
私たちの始まりの場所。
「……ねぇ」
気付いたら、声が出ていた。
「――もう一度、最初からやり直そうよ」
しゃがみ込んだ透和の顔を覗き込むように、声をかけた。
「……最初から?」
私の言葉に、透和が顔を上げた。
不思議そうな顔。
「そう。こんなに拗れちゃう前に戻って。もう一度」
「……」
屈んだ姿勢を元に戻して。
背筋を真っ直ぐにして。
すぅっと息を吸って深呼吸。
それから床に座ってる透和の顔を真っ直ぐに見て、口を開いた。
「私は藤咲透和くんが好きです。大好きです。だから、付き合ってください」
「っ、……何だよソレ。てか普通、俺が言うモンじゃね?」
私の告白に目を見開いた透和は、茶化すように言いながら立ち上がった。
「ちょ、それ偏見!女の方からの告白だって珍しくないんだからねッ」
言われた言葉に急に恥ずかしくなって、誤魔化すように語尾を強めた。
「つったってさ、この状況で……」
告白の返事はなかったけど。
目の前に立つ透和の耳は、この薄暗い部屋の中でも分かるくらい、赤くなってて。
照れてるのが、丸わかりで。
だから、誤魔化すように茶化してくる透和の言葉に言い返した。
「だからそれが――」
言い合いながら。
久しぶりの会話に心が弾んだ。
そう。
付き合う前は、こんな軽い言い合いもしてた。
茶化されて。
言い返して。
からかわれて。
向きになって。
それが楽しくて。
透和と話すのが好きだった。
気付けば、さっきまでの重たい空気はなくなってて。
透和と二人、昔のように笑ってた。
◇◇◇◇◇
二人で顔を見合わせて、笑い合って。
そして。
何かを思い切るように、透和は乱暴に前髪を掻き上げた。
「透和?」
いきなりどうしたんだろう?
そう疑問に思う私の前で。
「あー、くそっ」
言って、透和は視線を少しさ迷わせた後。
ゆっくりと息を吐き出して。
私の目を真っ直ぐに見て、口を開いた。
「奈夕、俺は――奈夕が好きだ」
「っ!」
少し、改まったように話し出した透和の声が、優しい。
目が――熱くなる。
「俺と一緒にいることで、傷付くかもしれない。いろいろ言われることもあると思う」
だんだんと視界が滲んで。
「全てから護る、なんて大きなことは言えないけど」
見上げる透和の顔が、見えなくなっていく。
「……っ」
「傷付く以上に幸せにするから。だから――、」
ぐい。
腕を引かれ。
抱き寄せられる。
そして、透和は私の耳元で、そっと最後の言葉を囁いた。
「俺と付き合って」




