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春休みが終わり、私たちは三年に進級した。

気付けば四月も半ばが過ぎて。

透和を避けるようになってから、二ヶ月もの時が経っていた。






「――では、今日はここまで。後でしっかり復習をしておくように」



今日最後の講義が終わった。

筆記用具を片付け教科書と一緒に抱えて講義室を出たところで、校舎の窓から桜が見えた。

あの、透和と初めて出会った図書館裏の桜だ。

私がいる階が四階だからなのもあるだろうけど、この校舎からもあそこの桜が見えるんだ。

(……透和)

もう長いこと、彼を見ていない。

前期授業が始まってからは、透和が文系学部の校舎に向かってる、という連絡を受けることがなくなった。

多分、諦めたんだと思う。

(あんなに「別れない」って怒ってたのに……)

結局、二ヶ月もしないで諦められるような思いでしかなかったってことで。

そんなこと、分かりきってたことなのに。


ツキン。


ショックを受けてる自分が――滑稽(こっけい)だった。





透和のことを考えると、今もまだ胸が痛い。

このままじゃ駄目だ、と思ったから、別れた。

そのはずなのに。

一人の時間が出来ると、ふと考えるのは透和のことで。

気付けば、透和の姿を探してる。

辛くて、苦しくて。

もう無理だと思ったから別れたのに。

私は今でも――透和に囚われていた。



透和はもう、私を諦めたのに。

前に進んでるのに。

私はまだ、前に進めてない。

今のままじゃいけないことは、分かってる。

私は今も、小夏のマンションにいる。

このまま小夏に、周りに、迷惑をかけ続けるわけにもいかない。

そう思うのに、どうすることも出来なくて。

弱い自分が嫌になる。

(もっと時間が経てば、透和のことを過去に出来るのかな?)

風に揺れる桜を、窓から見下ろしながら。

強くなりたい、と。

そう願った。





小夏とは午後に受講してる講義が別だから、今日はそれぞれで帰ることになっている。

(サークルにも顔出すって言ってたから、帰ってくるのは8時過ぎかな)

なんて思っていたら。

教科書を置きに行ったロッカーの前で、鉢合わせた。




「あ、奈夕!」



ロッカーの前で鉢合わせた小夏は、私を見るとホッとしたような顔になった。



「小夏?」



その様子に不思議に思って首を傾げれば、小夏は困ったように眉を下げた。



「あのさ……、悪いんだけどちょっとお願いしていい?」



(うかが)うように聞いてくる言葉に、さらに疑問が膨らんだ。

ホントにどうしたんだろう?



「どうかした?」

「さっき教授からこの資料を第五資料室に戻してくれって頼まれたんだけど、ほら私、今から部のミーティングに出ないといけなくてさ……っ」



見れば、小夏は分厚いファイルを腕に抱えていて。

別にこれから用事があるわけでもなかったし。

現在進行形で小夏に迷惑をかけてる自覚のある私としては、小夏から頼られるのが嬉しかったりもして。

だから。



「分かった、いいよ」



二つ返事で、頷いた。



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