後に引けない(透和視点)
ネタバレが嫌いな方は、奈夕サイドの本編が終了した後に透和サイド(透和視点、とある友人視点)を読むことをお勧めします。
初めて、奈夕との約束をドタキャンした。
当日になって、「他の用事が入った」とドタキャンした俺に。
奈夕の返答は、
――「分かった」
その一言だけだった。
寂しそうな表情をするわけでも。
怒るわけでも。
「他の用事って何?」と、理由を聞いてくるわけでもなく。
――「分かった」
ただ、それだけ。
考えてみれば。
今まで奈夕に「好きだ」と、言われたことはなかった。
“奈夕は俺のことを好きじゃないかもしれない”。
その思いが、強まった。
怒って欲しかった。
奈夕の気持ちが、知りたかった。
好きだって、言って欲しかった。
俺が聞いて、強制するんじゃなく。
奈夕自身に、言って欲しかった。
言ってくれないのなら。
せめて。
嫉妬して欲しかった。
言葉が聞けなくても、嫉妬してくれるなら。
安心出来るんじゃないかと。
そう思った。
もっとドタキャンの回数を増やしたら。
他の女と一緒に歩いたら。
もっと、人目につく所なら。
特別な日なら。
どんどんやる事が、エスカレートしていった。
意地になってるんだと思う。
無駄な努力だと笑いたい奴は、笑えばいい。
馬鹿なことしてる、自覚はある。
それでも。
他にどうしたらいいか、分からないんだ――。
でも。
かなりの回数を重ねても、奈夕の反応は変わらなかった。
そんな奈夕の反応に。
周りで面白がってた奴らの目に、同情の色が混じり始め。
ついには、「もう止めろ」と言う奴まで出てきた。
だけど。
俺は止めなかった。
今更、止められなかった。




