思いの暴走(透和視点)
ネタバレが嫌いな方は、奈夕サイドの本編が終了した後に透和サイド(透和視点、とある友人視点)を読むことをお勧めします。
大学のカフェテリアで奈夕と一緒に昼飯を食った日。
大学が終わってから奈夕のマンションに行くと、奈夕はいなくて。
それどころか。
メールしても、電話しても、反応はなく。
連絡が取れないまま、夜が明けた。
連絡が取れない、なんて奈夕と付き合うようになってから初めてのことで。
それだけに、奈夕が本気で俺との関係を終わらせようと考えてるのが分かった。
でも。
(このまま、自然消滅とか……誰がさせるかよ)
分かったからって、それを素直に受け入れられるわけもない。
明るんできた外を見て、大学に向かった。
文系学部の校舎前で待ち伏せながら、一人考えていた。
まずは、奈夕と話をしないといけない。
一昨日、奈夕から話を切り出されるまで、奈夕に変わった様子はなかった。
いつもと同じで。
なのに。
一体、何があったのか。
(奈夕の口から、聞き出さねぇと――)
そう、考えていたのに。
昼近くになってようやく登校してきた奈夕。
入り口にいる俺を一瞥したかと思うと、何事もなかったかのように視線を外して俺の前を通り過ぎていく。
「っ」
そんな彼女の一連の行動を見た瞬間、体が動いてた。
いつの間にか出来てた人垣を押しのけて、立ち去ろうとしてた奈夕の腕を掴む。
「……何?」
俺が掴んでる自分の腕を見ながら、奈夕が言った。
――昨日、どこに行ってた?
――誰と、何を話した?
――“別れよう”って、どういうことだ?
――他に好きな奴が出来たのか?
――やっぱり、俺は遊びだったのか?
――何で……、俺を見ない?
言いたいことは沢山あった。
だけど。
「――来い」
俺の口から出たのは、そんな言葉。
ホントは、すぐにでも問い詰めたかったが。
流石にギャラリーがいる中で話すような内容ではないと、判断出来るだけの理性は残ってた。
「――昨日、どこにいた?」
強引に連れてきた校舎裏で。
開口一番に問いかけた。
出た声は、自分のモノとは思えないほど感情が篭ってなかった。
でも。
口から出る感情のない平坦な声とは裏腹に、心の中はぐちゃぐちゃだった。
胸の内で様々な感情が渦巻いてる。
怒り。
戸惑い。
悲しみ。
見せ掛けだけの平常心なんて、すぐに崩れて。
俺はまた、繰り返す。
俺の視線から逃れるように下を向いたのが気に入らなくて。
無理やり顎を持ち上げた。
「はな……っ、」
それでも俺を見ようとしない奈夕にイラついて。
拒否の言葉しか出さないその声を、これ以上聞きたくなくて。
口を塞いだ。
――話をしないと。
そんな考え、すでに頭の中から消え去っていた。
俺を蹴り飛ばして、逃げていった奈夕の後ろ姿を見て。
カッとなる感情と裏腹に、頭の中がかつてないほど冷えていくのを感じてた。
俺から逃げて、友達だという女の下へ向かった奈夕。
その後を追う。
「――藤咲くんも。奈夕はこれから講義なんだから、気をつけてよね」
俺に目を向ける女の視線を追って、振り返った奈夕の目が俺を映す。
怯えの滲んだ目。
怯える奈夕にさっきは苛立ちを感じてたのに。
今は、その怯えがどこか心地よくて。
自然と、口角が上がる。
「じゃあ、講義頑張れよ」
俺から逃げよう、なんて。
――ユルサナイ。




