涙
話してる間、小夏は何かを言うこともなく、ただ黙って聞いていてくれた。
そして、全てを話し終わった時。
ポン。
私の頭に手を乗せて。
労わるように、数回、ゆっくりと叩いた。
「……っ」
その手が。
あまりにも優しくて。
頭から伝わる掌の熱が、暖かくて。
視界が滲んだ。
別れ話をしたあの時でさえ、涙は出なかったのに。
「っ」
嗚咽を堪えて泣いてると。
ぐい、と頭を抱き込まれた。
「――辛かったね」
ポツリ、頭上から声がした。
静に響いた小夏の言葉が、胸の内にだんだんと浸透していく。
「……っふ、……う、あ……っ、う」
額を小夏の肩に押しつけるようにしながら嗚咽を漏らす私に、小夏はぎゅっと私を抱きしめる腕の力を強くした。
「うぁああああああっ!」
涙腺が、決壊した。
小夏に縋り付いて、声の限りに泣き叫んだ。
「あああぁああぁあああーッ」
泣きながら、昨日した小夏との会話を思い出していた。
――「結局さ、奈夕は藤咲くんのこと、好きじゃないの?」
一通り話した私に、小夏がそんなことを聞いてきた。
――「何で?」
――「だって、浮気は確かに許せないけどさ、好きだったら別れるまではいかなくない?」
――「……よく、分かんないんだ」
ポツリと呟くようにして答えた私に、小夏は驚いた顔をした。
――「ちょ、分かんないって、何よそれ」
当然だと思った。
でも、私にとってはそれが正直な気持ちで。
苦笑しつつ言葉を続けた。
――「嫌い……って言えたらいいんだろうけど、嫌いじゃ……ないんだよ」
でも。
――「好きでもない?」
こくん。
頷いた。
――「こんな気持ちで付き合ってくのもアレだしね」
だから別れようと思って。
そう言って笑った私に、小夏は納得のいかなそうな顔をした。
――「分っかんないなー。嫌いじゃないんでしょう?なら、そーゆーのも有りだと思うけど?途中で自分の気持ちを見失うことだってあるでしょ」
別れなくてもいいんじゃない?
その言葉に、私は頷かなかった。
――「最初は、私もそう思って付き合ったんだけどね、やっぱ浮気するような人を好きになれそうにないし、さ」
――「そんなもん?」
――「私は、ね」
――「私が変えてやる!とかは?」
ゆっくり首を振った。
――「私じゃ無理だって」
苦笑する私に、小夏は呆れたように息を吐いた。
――「なんてゆーか、冷静ってか……ドライだねぇ」
あの時、私は笑ってたけど。
ホントは、ドライなんかじゃない。
本当は――…。




