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遅すぎた自覚

本気になったら、ツライのは私だって分かってた。

だから、本気にならないように自分に言い聞かせてた。

馬鹿みたいでしょう?

言い聞かせなくちゃいけない時点で、すでに本気になっちゃってたことも気付かずに。

まだ本気じゃないと思ってた、なんて。

その上、




――「私、こないだ見ちゃった!」

――「何々?どーしたの?」




トイレの個室で偶然立ち聞いてしまった、そんな会話で。




――「トウワくんが女の子とデートしてたの!」

――「ええー!?うそぉ!?」

――「ホントなんだって!仲良さそうに腕組んでショーウィンドウを眺めてたんだから!」




自分のホントの気持ちに気付くなんて。

あまりの鈍さに、自分で自分に呆れてしまう。



予感はあった。

その頃には、一緒にいても透和はいつもどこかイライラしてたし、約束をドタキャンされることもあるようになってた。

だから。

「ああ、やっぱり」って。

そう思えればいいだけの話なのに。

そう思えなかった。




――「駅前で女の子と二人で歩いてた」



――「女と映画館にいた」



――「遊園地でデートしてた」



噂は、どんどん聞こえてきた。

そんな話を聞くたび、心が悲鳴を上げて、気持ちが磨り減っていった。




甘い香水の香りを(まと)っている時だってあった。

甘い、女物の香水。

“残り香”って言うらしい。

そんなこと、知りたくもなかった。




いつの間にか、本気になってた。

本気で透和のことを、好きになってた。

そのことにようやく気付いたけど。

今更、どうすることも出来なかった。



思えば、私はとても都合のいい女だったんだろう。

他に人がいる時には話しかけてこない。

デートもしなくていい。

プレゼントもねだらない。

きっと私は、透和にとって都合のいいセフレ同然の女に成り下がってたんだろう。

気付いたけど、どうすることも出来なかった。

問い詰めることは、出来なかった。

問い詰めるには、私は透和のことを好きになりすぎていた。

問い詰めて、肯定されて。

「なら、別れよう」と。

そう言われるのが怖かった。

別れたくなかった。

だから。

女の噂話なんて信憑性(しんぴょうせい)に欠ける、とか。

自分で直接見たわけでもないんだから、とか。

必死に言い訳を並べて。

誤魔化した。




自分に言い訳して、聞こえてくる話全てに耳を(ふさ)いだ。

誕生日に帰ってこなくても。

クリスマスの約束をドタキャンされても。

好きだった。

でも。



――「年の近いイトコ?全員、男だけど?」



その言葉を聞いて、「もう駄目だ」と思った。

まともに騙すつもりさえないんだったら――もう駄目だ。

騙すなら、もっとしっかり騙して欲しかった。



そしたらきっと、私は騙されたままでいられたのに。




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