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馴れ初め

初めて会話をしてからは、週に数回、図書館裏で会って二人で会話をするようになった。

二人だけで会ってたと言っても、甘い雰囲気は全くなかった。

ホントにただ会話をするだけ。

内容だって、文系学部と理系学部の講義の違いとか。

教授に対する愚痴とか。

よく見るテレビ番組の話とか。

色気なんて微塵もないようなモノばかり。

だけど、楽しかった。


私は時間が出来れば図書館裏に行くようになった。

別に、いつも会えるわけじゃなかった。

私だけしかいない時もあった。

逆に、彼だけの時もあったらしい。

メールで連絡はしなかった。

約束もしなかった。

お互いが好きな時に訪れて、タイミングが合えば一緒に話す。

そういう関係が心地よかった。

二人で話すその時間を、透和も楽しみにしてるようだった。

知り合い以上、親友未満。

そんな関係だった。

このままずっと、この関係は続いていくんだと思ってた。

だから。



「――付き合わないか?」



そう言われた時は、驚いた。

大学二年、夏季休暇直前のことだった。



「いいよ」



彼の言葉に、私は特に考えることもなく頷いた。

それまで彼のことを恋愛対象として見たことはなかったけど。

友達として、好意は持ってた。

それは向こうも同じだっただろう。

彼がどういう気持ちで、そんなことを言ってきたのかは分からないけど。

大した理由はないんだと思う。

私といても気を使わなくていいから、とか。

楽だから、とか。

媚びない女は珍しいから、とか。

きっと、そんな理由。

私も私で、頷いたことに大した理由はなかった。

付き合ってる人もいなかったし、別に好きな人もいなかったから。

友達として好意を持ってる相手だし、付き合っていくうちに好きになれそうかな、と思えたから。

だからオーケーした。

それだけだった。


だけど。





――「男はね、顔じゃないのよ、顔じゃ!」



マンションに戻って一人になった時、ふと、前にゼミの飲み会で先輩が叫んでた言葉を思い出した。



――「顔のいい男なんてね、今まで女で苦労したことがないから一人の女を繋ぎとめようって意思がないのよッ」

――「そーそー、最初はよくてもすーぐ飽きて、他に行っちゃうんだからー」



聞いた当時は大変なんだなって、その程度だった。

その後も、ゼミの先輩や同学年の女子たちから、いろんな話を聞いた。

男に入れ込んでさんざん貢がされたあげく、お金がなくなった途端ポイ捨てされた話とか。

友達と二股かけられたあげく捨てられて、友達も恋人も一気になくなっちゃった話とか。

飲み会のたび、そんな話が飛び交った。



そんな、今まで聞かされてきた話を思い出して――急に怖くなった。

今まで図書館裏で会って仲良くなった彼が、そんな男たちと同じだとは思えなかったけど。

でも、私は彼の噂を知っていた。




透和の噂は、聞いていた。

主に女性関係。

図書館裏で話すようになってからも、彼の噂は聞こえていた。

同じゼミの先輩の彼女を寝取った、とか。

とある使ってない空き講義室でセックスしてた、とか。

特定の彼女は作らないで多数のセフレがいる、とか。

ロクでもない噂ばかり。



噂が必ず事実だとは限らない。

噂には尾ひれが付き物だし、どこまで本当かは分からない。

でも――…。

考えれば考えるほど、分からなくなって。

怖くなって。

そして――現実を思い出した。

透和が大学の中で、とても人気のある学生だという現実を。

思い出すと同時に、もっと怖くなった。

私も、透和に馴れ馴れしく話しかけただけで大学を退学するまでに追い詰められたという女子学生みたいに、苛められるんだろうか。

いや、私の場合は恋人という肩書きまで付いてしまってる。

もっと、酷い目に合うのかもしれない。

想像するだけで、怖くて仕方なかった。

でも、いいよと答えた言葉を撤回するつもりはなかった。

なんでかは、私自身よく分からない。

ただ、頷いた時の透和の笑顔が私の頭の中に鮮明に焼き付いてた。

だから。

付き合うことになったその日、私は自分を護る為に、付き合っていく上での三つの決まり事を作った。




一つ、期待しない。

二つ、信じすぎない。

三つ、深読みしない。




だって透和は私が物珍しいだけなんだ。

いつ飽きられて捨てられるか、分かったもんじゃない。

だから、傷付かないように。

自分を護るために。

決まり事を作った。




私の行動は矛盾してる。

異性として好きではなかったけど、好意はあったから付き合って。

でも、周りから聞かされてきた話と透和の人気を思い出して、怖くなって。

透和だって、私を異性として好きだというわけじゃないんだろうしと、予防線を張った。

矛盾してる自分に気付いても、どうすることも出来なかった。




きっとすぐ、飽きて捨てられるんだろう。

だったら、周囲からの好奇の目になど晒されたくなかった。

それに、透和は頭に絶世の、という形容詞が付いても不思議じゃないくらい、美形だ。

頭も悪くないし、運動だって出来る。

対して私は、不細工とまではいかないものの特別可愛いと言うわけでも綺麗と言うわけでもない、至って十人並みな容姿で。

勉強も運動も平均くらい。

はっきり言って、釣り合ってない。

バレたらどうなることか。

(ねた)(そね)みに、誹謗中傷の嵐にさらされることは想像にかたくない。

そんなことに耐えられるほど――私は強くない。



だから。

私たちの関係は周りには内緒にしてた。

隠してたから。

大学でだって、図書館裏以外では声もかけない。

他の人の目があるところでは会話もしない。

他人の振り。

外に一緒に出掛けたりもしない。

デートはいつも、私か透和のマンションだった。



でも。

一緒にテレビ見たりゲームしたりして、ご飯を食べて、眠る。

それだけで良かった。

そんなことが、楽しかった。



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