プロローグ
22:00更新予定
当選通知のメールは、午後三時二十七分に届いた。
大学の講義室。
後ろの席で、永田海記はぼんやりとスマートフォンを見下ろしていた。
『Deep Archive Online 抽選結果のお知らせ』
件名を見た瞬間、隣から身を乗り出してきた竹内静太が小声で言う。
「来たか?」
海記は無言で画面を開いた。
おめでとうございます。
あなたは選ばれた観測者です。
一瞬、迷惑メールかと思った。
だが本文の下には、製造番号と受取手続きの案内が記されている。
静太が小さく息を吐いた。
「マジかよ……三千本限定だぞ」
三千本。
完全フルダイブ型。
高額報酬付き高難度ホラー。
正直、半分はネタだった。
「四人用なんだろ?」
「うん。パーティ固定。途中参加不可」
海記は画面を閉じた。
学費。
それが一番現実的な理由だった。
焦ってはいない。
だが、余裕もない。
「やる?」
静太が問う。
海記は少しだけ考え、肩をすくめた。
「……面白そうだしな」
金も出る。
ゲームとしても興味がある。
それくらいの軽い動機だった。
そのとき、前の席から振り返った少女がいた。
茶色のボブが揺れる。
「当たったの?」
今関夢菜は、まっすぐに海記を見つめていた。
いつも通り、瞬きを忘れたような視線。
「ああ。四人用らしい」
「へえ」
それだけ言って、夢菜はまた前を向く。
特に驚きもしない。
その斜め後ろから、赤いポニーテールが勢いよく立ち上がった。
「え、なに!? ゲーム!? 私もやる!」
杉波このみは興奮気味に振り返る。
「ホラーなんだろ? 無理だろお前」
「うるさい! 全国大会出てるから!」
「剣道関係ねえよ」
教室に小さな笑いが広がる。
その瞬間。
海記のスマホが、もう一度震えた。
画面には追加の一文。
※ログアウトは四名全員の同意が必要です
※精神指数(SAN)が0のプレイヤーが存在する場合、強制退出はできません
※シナリオ失敗時、当該シナリオの記憶は消去されます。(成功時でも希望があれば消去可)
※攻略成功報酬がございます。
※観測は常に記録されています。
観測。
静太が小さく呟く。
「……観測者、か」
その言葉が、妙に引っかかった。
窓の外では、風が吹いている。
ただの春の日だった。
このとき、まだ誰も知らなかった。
あの白い休憩室に、
最初から椅子が五つあったことを。




