二年間不眠不休で結界を守り続けた俺、聖女に連れ出されて人生が変わる
数年前。
世界は、音もなく崩れ始めた。
空が裂け、そこから“魔物”と呼ばれる異形が溢れ出したのだ。
当時の近代兵器は効かず、都市は次々と蹂躙された。
だが、人類は滅びなかった。
ごく一部の人間が“スキル”と呼ばれる異能に目覚め、魔物と戦えるようになったからだ。
日本では、皇居を中心に結界を張る“聖女”が現れ、関東地方を守った。
ただし、現在その結界には、東京湾に面した一点だけ、裂け目がある。
幅三メートルほどの細長い回廊。
魔物はそこを嗅ぎつけ、絶え間なく突撃してくる。
その回廊を、たった一人で守り続けている少年がいた。
岩鉄守人、十八歳。
短く刈り込んだ黒髪に、鋼のように鍛えられた体。
彼のスキルは二連撃必殺。
同じ部位にダメージを与える攻撃を二度当てれば、どんな魔物でも即死する。
「……はっ!」
守人の振るう長剣が、迫りくる魔物の肩を打ち、続けざまに同じ場所を貫く。
魔物は悲鳴を上げる暇もなく崩れ落ちた。
背後では、強化能力者が淡い光を送り続け、回復能力者が静かに治癒魔法を重ねている。
守人はこの二年間、眠らず、週に一回の休憩時間だけ許されて、この回廊を守り続けてきた。
治癒魔法のおかげで、それでも戦い続けることはできるが、過酷な日々だった。
守人がこの戦いの日々を続ける理由はたった一つ。
「守人くん、お願い。私たちの暮らしを守ってほしいの」
加茂桜子は、高校の同級生だった。
柔らかな栗色の髪と、春の陽だまりのような笑顔を持つ少女。
「今はこんな時だから、デートなんてできないけど……守人君が無事に戻ったら、デートしようね」
恋した女子生徒のその言葉だけを胸に、守人は地獄の二年間を耐え抜いてきた。
魔物の群れがようやく途切れ、回廊に静寂が落ちた。
灰色の空の下、潮風がわずかに吹き込み、血と鉄の匂いを薄めていく。
「岩鉄、三十分だけ休んでこい」
背後から、低くしわがれた声がかかった。
振り返ると、髪に白いものが混じった中年兵士が立っていた。
頬に深い傷跡が走り、戦場で年齢以上に老けた顔つきだ。
「いいんですか?」
守人が剣を下ろすと、中年兵士は苦笑した。
「一週間ぶりだろ。お前が倒れたら全滅だ。その間は俺たちで回廊を守る。だが――」
兵士は指を一本立てた。
「三十分だけだ。長く離れれば、誰かが死ぬ。わかってるな」
「はい。すぐ戻ります」
守人は軽く頭を下げ、回廊を離れた。
食堂は、戦場の喧騒から切り離されたように静かだった。
窓の外には灰色の海が広がり、遠くで結界の光が揺れている。
守人は自販機の前に立ち、迷わず炭酸飲料のボタンを押した。
缶が落ちる乾いた音が、妙に心地よい。
席に座り、プルタブを引く。
シュッ、と弾ける音とともに、甘い香りが立ちのぼった。
「これだよな」
一口飲む。
炭酸が喉を刺し、胸の奥まで冷たさが染み渡る。
二年間、食事は禁止。
トイレに行く時間すら惜しいからだ。
唯一許されるのは、この週に一回の休憩時間の時の水分補給のみ。
守人は缶を握りしめ、ゆっくりと息を吐いた。
そこへ、先ほどの中年兵士が食堂に入ってきた。
彼は守人の向かいに腰を下ろし、缶コーヒーを開けた。
「どうだ、うまいか」
「はい。生き返ります」
「そりゃよかった」
兵士は缶を軽く掲げ、守人の缶にコツンと当てた。
「お前さんは十八で、二年間もあそこに立ち続けてる。普通なら、とっくに心が折れてる」
守人は視線を落とした。
「折れそうになったことは、何度もあります」
「だろうな」
兵士は苦く笑った。
「でも世の中悪いことばかりでもない。東海地方、ついに解放されたらしいぞ」
「よかった。あそこの戦況は、ずっと停滞していましたけど、前線の皆の頑張りが報われましたね」
守人は笑顔で返す。
だが、次の言葉で手が止まった。
「解放戦線で活躍したの、異能者のカップルらしい。加茂桜子と、宗谷未来っていったかな」
守人の胸が、凍りついた。
宗谷未来。
高校時代の友人で、守人と同じく湾岸結界守備兵の候補だった生徒だ。
明るい茶髪に、いつも笑っているような目をした快活な青年だった。
兵士は雑誌を差し出した。
表紙には、桜子と未来が寄り添って笑う写真。
『皆の憧れのカップル』と大きく書かれている。
記事には、二人が高校入学以前から付き合っていたこと、宗谷未来はもともとは結界の裂け目の守備兵候補だったが、他の生徒が立候補したために未来が地方の解放戦線に回り、いまや英雄として称えられていることが書かれていた。
守人は、ゆっくりと理解した。
桜子は――未来と離れたくなかったのだろう。
だから、守人に“デートの約束”をして、ここに立候補させたのだ。
「……自分、守備兵から無事に戻ったら、この子とデートするって約束して……それが楽しみで、この仕事に立候補したんですよ……」
声が震え、涙がこぼれた。
食堂に様子を見に来ていた強化能力者も、回復能力者も、補給兵も、誰も何も言えなかった。
ただ、同情の視線だけが守人に向けられた。
友人たちの活躍で、日本における人類の生存圏は広がった。
だが、守人の生活は変わらない。
週に一度の炭酸飲料だけが娯楽の、終わりのない戦い。
雑誌に載る友人カップルのように、景色のいい場所で好きな人と食事をする未来など、守人には訪れない。
「でも、よかった。自分がここに来たおかげで、彼らがこうやって活躍できている。そう考えてもいいですよね。少しは役に立ててるって……」
解放戦線は、異能者の中でも優秀な者たちが配属され、世の中からの認知も、向けられる感謝も大きい。
一方湾岸の結界守備は、行われることが当たり前の仕事で、湾岸ごみ拾いとまで言われることもあった。
「戻ります。三十分経ったんで」
再び結界の裂け目の回廊に戻り、魔物を斬り伏せながら、周囲の兵士たちは愚痴をこぼしていた。
「聖女様は何してんだよ。いつまで岩鉄を働かせるんだ」
「本当だよ。結界修復、まだかよ」
そのとき。
「……申し訳ございませんでした」
結界守備の現場に、澄んだ声が響く。
白いローブをまとい、黒髪を肩で揺らす少女が現れた。
北裏日陰。
十代後半ほどの年齢で、透き通るような白い肌と、静かな瞳を持つ、日本の結界の聖女だった。
「関東周辺の都市を解放するため、各地を転戦しておりました。ようやく、結界修復のために戻ってまいりました」
兵士たちは歓声を上げた。
守人も声を上げていた。
これで、戦いだけの、地獄の日々は終わる。
心の底から喜んだが、日陰の次の言葉が、その希望を打ち砕いた。
「結界修復には、強力な魔物のエネルギーコア、もしくは、大量の魔物の波動を浴び続けた人間の心臓に形成されるエネルギーコアが必要です」
日陰は守人を見つめた。
「岩鉄守人さんの心臓には……すでにエネルギーコアが形成されています」
前線の兵士たちの視線が、守人に集まった。
「それを取り出せば、岩鉄さんは死にます。ですが、結界は修復され、その範囲も広がり、東北・北陸・中部まで一気に魔物から解放できます」
北裏日陰の静かな声が、前線の空気を凍らせた。
次の瞬間、兵士たちの間にざわめきが走る。
「ま、待ってくれよ……守人を犠牲にするなんて、そんな……!」
最初に声を上げたのは、若い守備兵だった。
彼は顔を真っ赤にし、拳を握りしめていた。
「そうだ!二年間も戦ってきたんだぞ!ここで死なせるなんて、あんまりだ!」
別の兵士も続く。
その声には怒りと動揺が混じっていた。
しかし――その反対側で、別の声が静かに漏れた。
「……でもよ。結界が修復されて……関東だけじゃなく、東北も北陸も中部も一気に解放されるって、とんでもないことじゃねえか?」
その言葉に、周囲の兵士たちが息を呑む。
「俺たちも、この湾岸の守備から解放されるってことか?」
「家族のいる地域も、救われるかもしれない」
「魔物の侵攻が止まれば、避難民も戻れる」
希望の言葉が、ぽつりぽつりと漏れ始めた。
だが、それは全て、守人の死を前提とした希望だった。
若い兵士が震える声で言った。
「守人の家族は、知ってるのか?」
「はい。納得してくださっています」
「でも、守人を犠牲にするなんて、そんなの……」
「犠牲にするんじゃない。本人が選ぶんだよ」
中年兵士が低く言った。
その目は、守人を見ていない。
遠く、結界の光を見つめていた。
「どうするべきかは、守人が決める。国のために、人々のために、二年間不眠不休で戦ってきたんだ。俺達には何が正しいかはわからないが、守人なら正しい選択ができるはずだ」
その言葉に、周囲の兵士たちが静かに頷いた。
「守人なら、国のために……」
「二年間も戦ってきた英雄だ。最後まで……」
いつの間にか、兵士たちの視線は守人に集まっていた。
「死んでくれ」とは誰も言わない。
だがその目は、明確にそれを期待していた。
(戦友だと思ってたのは、俺だけだったか……)
先ほど見た、友人カップルの写真が頭によぎる。
(親も友人も……初めから、どこにも味方なんていなかったんだな。馬鹿だな、俺は。終わりまで気付かなかったなんて……)
日陰が何か言おうとしたが、守人は静かに首を振った。
「……わかりました。殺してください」
兵士たちは誰も声を上げなかった。
ただ、安堵とも罪悪感ともつかない、複雑な沈黙が前線を包んだ。
日陰は、かすかに眉を寄せた。
「嫌です。殺すなんて、汚いですし」
「……は?」
「どうせなら、徹底的に魔物を殺して、疲れ果てて、魔物に殺されてください」
守人は呆れたが、日陰は真剣だった。
「行きましょう。裂け目の外へ」
結界の外は、黒い霧が渦巻く荒野だった。
日陰は守人に手をかざし、淡い光をまとわせる。
「最近覚えたスキルです。ホーリーウェポン……効果が持続している間は、武器が絶対に壊れず、聖属性の追加ダメージが付与されます。直接攻撃だけに効果があるので、前線ではあまり役立つことはなかったのですが、岩鉄さんの戦闘スタイルなら効果がありますよね」
守人は二連撃必殺のスキルを使うために、剣で直接攻撃をしているが、守人以外の人間はわざわざ魔物に直接攻撃は加えず、安全圏から遠距離攻撃をする。
「魔物が出現したばかりの時とは違って、今は色んな対魔物兵器が出てきたからな。高いらしいけど。この剣一本で戦ってきた俺には、ぴったりの補助だ。ありがとう」
「お役に立てて何よりです」
「ここまでやってくれれば十分だ。危ないから聖女様は結界の中に戻ってくれ」
「日陰です。聖女も体育会系なので、年下の自分は名前で呼んでください」
「えーと、日陰さん、戻ってくれ。危ない」
「嫌です。戻りません。あそこの皆様の、岩鉄さんに犠牲を強いる言い方には虫唾が走りました」
「みんな自分の大切な人のために戦ってるんだ。仕方ないだろ」
言いながら、早速現れた半魚人を、守人が剣で切りつける。
半魚人は素早い動きで上体を逸らし、切っ先が掠る程度になったが、次の瞬間半魚人は不気味な声を上げて絶命し、塵となって消えた。
「やっぱり! このスキルを授かった時に思ったんです。岩鉄さんの二連撃必殺のスキルと相性がいいんじゃないかって。是非試してみたかったんです!」
「なるほど。一撃ダメージを与えれば、同じ部位に聖属性のダメージが入るから、俺の必殺の条件を満たすことになるのか」
その後の守人は無双だった。
剣で触れただけで魔物が絶命し、凄まじい勢いで魔物を狩りながら、二人は東京湾の湾岸エリアの奥深くへと進んでいく。
港にたどり着くと、巨大な影が海面から姿を現した。
東京湾の主、邪悪なるシードラゴン。
全長数十メートルの、海の王。
「……でかすぎるだろ」
守人の剣の間合いよりも、シードラゴンの攻撃可能範囲ははるかに広く、攻撃を避けて近づくのは不可能だとわかる。
守人は覚悟を決めた。
「日陰さん、逃げてくれ。ここまでのようだ」
「嫌です」
「君、何でも嫌って言ってないか? どう考えても俺のスキルで攻撃する前に、ブレスか尻尾で薙ぎ払われるだろ。一応挑戦するけど、死んだ後で俺の心臓のエネルギーコアを取り出す人がいないと困るから、逃げてくれよ」
日陰は守人の腕を掴んだ。
「逃げません。死ぬことを前提にしないでください。私も一緒に戦うので、勝ちましょう」
「いや、君は聖女なんだから、生き延びる義務がある。多くの人が聖女の結界に守られてるんだ」
「私は、あなたにずっと救われてきました。だから、私もあなたを救いたい、一緒に助かりたいんです」
日陰の声は震えていた。
「聖女の結界は、数え切れない魔物の攻撃で摩耗していて、維持するためのエネルギーは枯渇寸前です。この状態では、結界に与えられたダメージは聖女に伝わり、とてつもない激痛に襲われます。先代の聖女は、痛みに耐えきれず精神を壊し、身を投げました」
守人は息を呑んだ。
「でも、結界の裂け目ができてからは、魔物の攻撃がすべてそこに集中しました。二年前からあなたが裂け目を守って、押し寄せる魔物を葬り続けてくれたおかげで、私は……痛みで心を壊すことなく、生きていられたんです」
日陰は涙を浮かべた。
「あなたの戦いを、私はずっと見ていました。岩鉄さんは私の恩人で……憧れの人です。だから、諦めないでください。一緒に、生きて帰りましょう」
守人の胸に、温かいものが灯った。
「……わかった。もうひと踏ん張り、頑張ってみよう」
守人は港の巨大クレーンを見上げた。
「あのクレーンは、ちょうどシードラゴンの頭の上まで伸びている。気付かれないように近付いて、上から飛び降りて、頭に一撃。シードラゴンのコアなら、結界を修復して広げるのに十分なはずだ」
「結構な高さですが、シードラゴンの頭を引っ叩いた後、岩鉄さんはどうなるんですか?」
「それはまあ、何とかする予定だから、日陰さんは離れていてくれ」
「嫌です。二人で戻らないと意味がないと言っているでしょう」
日陰はきっぱりと言った。
「私も一緒にクレーンから飛び降ります。あなたが攻撃した瞬間、私が固有スキルの小結界で包めば安全です」
「小結界? 初めて聞くスキルだな」
「小結界は、防御障壁を展開する、聖女固有のスキルです。一回だけならどんな攻撃でも壊れずに防ぐけれど、強弱に関わらず一回攻撃を受けると壊れてしまいます。一日三回まで使用できます」
「そのスキルなら確かに落下のダメージも防げそうだけど……君、あんな高いところ、登れるのか?」
「当たり前です。聖女と言うと軟弱なイメージかもしれませんが、私は毎日筋トレをしています」
「わかった。そういうことなら、協力してくれ」
守人と日陰はクレーンを登り、海を見下ろした。
シードラゴンは、二人が何をしているかなど気にせず、港の魔物に食いついて飲み込んでいる。
「行くぞ」
「はい。二人を包む形で小結界を展開できるよう、私は岩鉄さんにしがみついて飛び降りるつもりですが、動きにくいですか?」
「大丈夫だ。ホーリーウェポンの追加ダメージのおかげで、一回でも当てればドラゴンも即死のはずだからな」
二人は同時に飛び降りた。
気付かないままのシードラゴンの頭を、守人が剣で切りつける。
そのまま落下していき、地面に衝突する直前、白い障壁が守人と日陰を包み込み、衝撃を吸収した後でパリンと割れた。
「シードラゴンは……!?」
立ち上がって見ると、シードラゴンは生きて、怒りの目を守人に向けていた。
「どういうことだ? 一撃入れたはずだが」
「はい。岩鉄さんは、確かに切りつけていました」
シードラゴンは大きく吠えた。
「人間どもが、生意気なことをしおって!」
「しゃべった!?」
「聖なる力には驚いたがな。我の鱗に、人間の小さな武器の攻撃が効くはずがなかろう!」
「剣のダメージが通っていなかったか……」
日陰は視線を落とし、拳を握りしめた。
「申し訳ございません。私の見通しが甘かったです」
「いや、自分の攻撃力とシードラゴンの防御力、どちらが大きいか見極められなかった俺の責任だ」
ドラゴンは二人を敵と認識して、今にも攻撃を仕掛けようとしている。
再度頭を切りつけて聖属性のダメージを与えるのは至難の業だろう。
「日陰さん、小結界はまだ張れるんだよな?」
「ええ。あと二回だけですが」
「十分だ」
守人は剣を構えた。
「タイミングを間違えずに小結界を張ってくれ。一回目は、俺の剣の柄が日陰さんに突き刺さるのを防ぐため。二回目は、それでも止まらなかったあいつの攻撃を防ぐためだ」
「どういうことです……?」
「この剣、ホーリーウェポンの効果が持続している限りは絶対に折れないんだろ。小結界も一回だけなら絶対に破れない。あいつの尻尾はどうだろうな」
シードラゴンが巨大な尾を振り上げた。
「来るぞ!」
日陰が小結界を展開。
守人はその結界に剣の柄を押し当て、切っ先を迫りくるドラゴンの尾に向けた。
「人間の小さな武器ごときで――」
シードラゴンの嘲笑は、悲鳴に変わった。
絶対に折れない剣。
絶対に破れない小結界。
そして、ドラゴン自身の圧倒的な攻撃力。
強烈な圧力で、剣の切っ先はドラゴンの誇る鱗を貫き、深々と尾に突き刺さった。
直後に聖属性の光が、切り裂かれた肉の中で爆ぜる。
「日陰さん、今だ!」
日陰が二度目の小結界を張り、ドラゴンの尾の衝撃を防いだ。
白い障壁が砕け散ると同時に、シードラゴンは絶叫し、崩れ落ちた。
シードラゴンのエネルギーコアを戦利品に、結界の裂け目に戻ると、兵士たちが拍手で迎えた。
先ほどの皆の態度から、複雑な気持ちで何も言えずにいる守人に、日陰が雑誌を見せてきた。
「守人さん、このお店、桜子さんたちがデートした場所だそうです」
「うん。素敵なお店だね。俺の心の傷口に塩を塗らないでほしい」
「今から一緒に行きましょう。聖女のコネで、当日でも入れていただきます」
日陰は照れたように笑い、守人の手を引く。
「では皆さん、私たちはこれからデートですので、失礼します。結界の修復は後日ですが、近辺の魔物は守人さんがあらかた駆除したので、安心して休んでください」
有無を言わさず、日陰は守人とともに守備基地を後にする。
「あなたのおかげで、この二年間、私は本当に救われていました。いくら感謝してもしきれません。今日は私に奢らせてください」
「これまでの戦いに、意味があったならよかった」
守人は、ようやく心から笑えた。
「……俺、二年ぶりに街に出るんだな」
「大丈夫ですよ。私が案内しますから」
二年ぶりに湾岸前線を離れ、守人は日陰と二人、静かな夜の街へ歩き出した。




