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第7話 元貴公子

 自宅に夕方前に帰宅すると家には誰もいなかった。

 妹は吹奏楽部なので部活をしている時間だ。僕は妹の為に夕飯を作ってから出掛けた。

 入学式が終わると中学の友達とお祝いをしようと約束していたからだ。春休みは忙しくて友達と会えなかったので楽しみで仕方がない。

 僕は長い前髪を一つに束ねて眼鏡を外して目的のファミレスに向かった。陰キャになるという話は友達にはしていない。あまり驚かせないように配慮した。というか、妹に僕の事を諦めて貰う為とは言えない。

 店内に入ると友達の二人が先に席に座っていた。久しぶりに会うが何も変わっていない。まぁたった数か月しか経っていないので変わってないのは当たり前だ。

 友達の笑顔を見ていると中学時代の思い出が蘇ってきた。


「生徒会長ともあろう者が遅刻ですか?」


「ごめん。少し家を出るのが遅くなった。あと、僕はもう生徒会長じゃないからね」


「俺らにとっちゃ理久はずっと生徒会長なんだよ。というか、何その髪型? ちょんまげ? 江戸時代?」


「ちょっと髪を伸ばしていてね。おかしいかな?」


「可愛いと思うぞ。幼い髪型と美形の顔立ちが背徳的だ」


「どういう表現だよ」


 僕と友達はお互いに笑い合った。

 他愛のない話をしていると同級生の女子が到着した。久しぶりの二人は中学時代より少しだけ大人びている。オシャレに髪を結って少しだけ化粧もしているようだ。服装も大人っぽくて似合っていた。


「理久君……久しぶり……」


 なぜか照れている女子に僕は「久しぶりだね」と笑いかける。二人共なぜか緊張しているようだった。中学の卒業式までは普通に接していたはずなのに変だな。もしかして僕の髪型が気になるのだろうか。少し幼稚に見えているのかも知れない。

 髪を下ろしてきた方が良かったかも。少し不安になっていると隣に座る明るい男友達がニヤニヤ顔を女子二人にわざと見せつける。


「あらあら。貴公子と久しぶりに会ったから緊張しているのですか?」


「うっさいわよ! そんなんじゃないからッ! 理久君が私をじっと見つめるから……つい……」


 貴公子とは中学時代の僕のあだ名だ。男友達が面白がって僕を貴公子と呼んだのが始まりだった。からかわれているのは分かっていたけれど皆が笑ってくれていたので僕は拒否せずに流れに身を任せた。もちろん自分で貴公子と名乗った事はない。


「ごめん。君を見つめたつもりはないんだ。ただ、その髪型と服装が良く似合っているなって思って」


「出た! 生徒会長直伝の人たらし! 妖艶な笑顔で相手の心を食う悪魔!」


「いやいや。誰が悪魔だよ。僕は本心で言っているだけなのだから」


 何気ない中学時代のやり取りが本当に楽しかった。

 そして僕達はファミレスで空腹を満たした後でカラオケに向かった。明日も学校なのであまり帰るのが遅くなるのは困るけれど仕方がない。あまり会えない友達を優先しようと僕は割り切った。

 カラオケで盛り上がっているとスマホにメッセージが届く。宛先は由依だ。

 まだ帰って来ないの?と通知があったのでもう少し遅くなると返信した。

 そして五分後。まだ帰って来ないの?と全く同じ通知が来る。僕は頭を少しだけ抱えた。これはいつもの流れになるだろうと理解したからだ。由依には友達と遊んでくると伝えている。もちろん帰宅が遅くなる可能性もあるとも僕は言った。

 もしかして女がいるの?

 僕は同級生の女子が二人いると返信すると電話が掛かってきた。丁度、僕が歌う順番が回ってきたので僕は由依の着信を保留する。

 そして歌い終わる頃には着信記録に由依の名前が並んでいた。三十秒置きに着信がある。何かあったのかも知れないと不安になった僕はカラオケの部屋を飛び出して由依に電話した。


「もしもし由依か? 凄い着信だったけれど何かあったのか?」


 すると気だるい声で「別に何もないけど」と吐き捨てられた。これは相当に機嫌が悪い。絶対に何もない声と態度ではないのは馬鹿でも分かる。

 もしかして女子と一緒に遊んでいるのが駄目なのだろうか。僕にだって女友達はいるのを知っているはずだけれど。


「えっと……同級生の女子は由依が仲良しだった先輩二人だよ。吹奏楽の」


 しばしの沈黙の後で由依が先輩二人の名前を伝えてくる。そうだよと肯定すると由依は即座に「嘘付いてたら怒るから」と重苦しい声を出した。どこからそんな暗い声を出しているのか気になるが「嘘じゃない」ときっぱりと伝えた。

 そして再び沈黙を経て「早く帰ってきて」と吐き捨てられ電話を切られてしまった。

 僕を心配してくれるのは嬉しいけど対応が雑じゃないだろうか。

 ふと、束縛女の由依ちゃんという乾さんの言葉を思い出した。

 もしかして僕って由依に束縛されているのだろうか。

 いやいや。それは無いよな。妹として僕を心配してくれているだけだ。女子がいるかどうかも二人を遅くまで付き合わせたら駄目だよという由依の優しさだろう。

 ただ、脅すような真似は怖いから止めて欲しいけども。

 吐息を付いた僕は友達が待つカラオケの部屋へ歩き出した。

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