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第2話 誘導なのか

 市立姫野路高等学校。一応は進学校だが県内屈指とは言えないレベルだった。

 中学時代の担任教師にも僕の進学校が姫野路高校なのか不思議がられたものだ。自宅から近いレベルの高い高校を何度も薦められた。しかし誰も知り合いのいない高校に進学する方が由依との勝負に有利だと判断した。

 電車とバスを乗り継いで片道二時間掛かるのは疲れるが仕方がない。

 最終的に父さんと同じ大学に合格出来ればいいと僕は考えていたので高校自体はどこでも良かった。

 校門の前に立ち遠くの山や田んぼを眺める。

 高校の近くはのどかな場所で時間もゆっくり流れているような気さえする。都会から離れて自然豊かな場所に通うのも悪くないな。

 校門の前の桜並木道も春を彩っている。空の青と桜の色が鮮やかで綺麗だった。都会ではこの桜並木道を再現出来ないのかも知れない。


「新入生の方々は門を進んで体育館に集まって下さい」


 案内の人が校門で声を出す。新しい制服に身を包んだ生徒達の近くには保護者がいた。僕は保護者がいないので一人で体育館に向かっていると乾さんが年上の女性を連れて近寄ってきた。顔の雰囲気からして母親だと分かる。


「ママ。こちらがお友達の五月雨さみだれ理久りく君です」


「は、はじめまして。五月雨です……」


 徐々に声量を落としながら地面を見て会話する。両手は慌てたように前後左右に揺らした。由依仕込みの挨拶の仕方だ。練習したので自然に出来るようになった。


「この子が麻奈美ちゃんの言っていた噂の五月雨君?」


「はい」


「何だか思っていた印象と違うような……もっと活発な子だと思っていたのだけれど……本当に中学の時に生徒会長だった子なの?」


「ママ。見た目や言動で騙されては駄目ですよ。五月雨君は凄い人なんですから」


「そうなのかしら? まぁいいわ。五月雨君。高校でも麻奈美ちゃんと仲良くしてね」


 僕はわざと瞳を左右に揺らしながら少しだけお辞儀した。


「は、はい。乾さんの朗らかさには元気を貰っていますのでお友達として、お互い助け合えるように……努力します」


「え、何? 見た目と違って凄く誠実なことを言うのね。かっこいいじゃない」


「いえいえ……ですがお綺麗な大人の女性に褒めて貰えて嬉しいです」


「ふふッ、気に入ったわ。時間があったら家に遊びに来てね。ご馳走しちゃう」


 機嫌を良くした乾さんのお母さんは体育館へと向かった。そして何故か呆れている乾さんが僕に近づいて髪に付いていた桜の花びらを取ってくれた。

 そして乾さんは桜の花びらを握って胸にそっと当てて瞳を閉じる。乾さんの何気ない動作が上品で綺麗だった。


「全然ダメですね。言葉が五月雨君そのものでしたよ。人たらしは止めるって言ってませんでしたか?」


「そうなの? 無意識だった。気を付けるよ」


「はぁ……これは苦戦しそうですね。私は由依ちゃんから五月雨君の監視を任されております。不要な言動はビシビシ取り締まりますから覚悟して下さいね」


「ちょっと待って!? 僕聞いていないのだけれど!?」


「今初めて伝えたから当然です。あと、私の家に遊びに来る約束は必ず果たして下さいね」


 制服のスカートを翻して上機嫌の乾さんは去っていく。

 僕は先ほどの発言を思い浮かべて反省する。見た目だけでは足りない。陰キャになる為には精神を鍛え直す必要があるようだ。

 拳を握り気合を入れると乾さんとの約束を思い出した。

 乾さんの部屋で二人きりになると何をされるか分からない。過度なスキンシップを取られると対応に困ってしまう。これは遊びに行くのなら妹の由依も一緒の方が無難だな。

 待てよ。母親を僕に紹介した目的は家に来させる為に誘導したのだろうか。乾さんなら有り得る。乾さんは頭が良く要領がいい。いや考えすぎか。

 首を振った僕は体育館へ入る人の流れに従った。

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