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第13話 手掛かり

 アシュトンが倒れてから数日。クレイヴス城には、重く張り詰めた空気が漂っていた。アシュトンの意識は未だ戻らず、医者たちは懸命な治療を続けている。セレスティアは、その合間を縫って、黒幕を突き止めるための調査をアルフォンスとリディアに命じていた。心身ともに疲弊しているはずなのに、彼女は、アシュトンの代わりに領主夫人としての務めを果たそうと、必死に気丈に振る舞っていた。

 そんな中、女学校のエンパイア・クラウンの研究は続いていた。セレスティアは、アシュトンがこの大会に込めた思いを無駄にしたくないと、自ら女学生たちの指導にあたっていた。しかし、生徒たちは、アシュトンの容態を案じ、疲弊の色を隠せないセレスティアの姿に気づいていた。

 ある日の午後、エンパイア・クラウンの盤を囲む女学生たちとセレスティアの間で、研究が一段落した時のことだった。一人の女学生が、意を決したように口を開いた。


「セレスティア様……」


 セレスティアは、棋譜から目を上げ、彼女たちを見た。その瞳は、何かを言いたげに揺れている。


「アシュトン様が、あのようなことに……私たちが、セレスティア様のお時間を取ってしまっていて、申し訳ありません」


 別の女学生も、申し訳なさそうに俯いた。


「セレスティア様は、アシュトン様のお見舞いや、他の公務も大変なはずなのに、私たちに付き合ってくださって……。無理をなさらないでください」


 セレスティアは、彼女たちの言葉に、胸が締め付けられる思いがした。自分のことよりも、アシュトンの身を案じ、そして自分を気遣ってくれている。この女学生たちは、ただの生徒ではなく、共に偏見と戦う仲間なのだと、改めて実感した。

 セレスティアは、ゆっくりと顔を上げ、彼女たちをまっすぐに見つめた。


「皆……ありがとう。私を気遣ってくれる気持ちは嬉しい」


 そして、セレスティアは、普段のアシュトンがそうするように、穏やかながらも力強い口調で言った。


「でも、心配いらないわ。私たちは、大丈夫。アシュトン様がこの大会に込めた思い、そして私たちに託してくださった未来を、決して無駄にはしない」


 彼女の言葉には、アシュトンへの深い信頼と、彼が倒れた今だからこそ、自分たちがより一層強くならなければならないという決意が込められていた。


「アシュトン様が戻られた時、私たちがどれだけ成長したか、この大会で結果を出して、必ずお見せするわ。だから、今は、ただひたすらに、研究に打ち込みましょう」


 セレスティアの言葉に、女学生たちの目に再び力が宿った。彼女たちは、アシュトンのために、そして自分たちの未来のために、エンパイア・クラウンの駒を握りしめた。盤上には、静かながらも確固たる決意が満ちていた。

 アシュトンの意識が戻らぬまま数日が過ぎた。城内には依然として重い空気が漂う中、セレスティアの命を受けたアルフォンスが、ようやく手掛かりを掴んだ。


「奥様、今回の襲撃に関わった可能性のある人物が浮上いたしました」


 アルフォンスが、セレスティアの前に差し出したのは、一人の男の情報だった。その名はギル。かつてアシュトンの父に仕えた私兵の一人だが、規律を破り、数年前に追放された人物だという。


「このギルという男、最近、突如として金回りが良くなったという報告がございます。複数の情報源が、彼の派手な金遣いを証言しております」


 その情報を聞いたセレスティアは、眉をひそめた。確かに、襲撃者たちが周到に準備されていたことを考えると、背後に資金提供者がいる可能性は高い。

 そこに、グスタフが呼び出され、ギルの話を聞かされた。グスタフの顔色が変わる。


「ギルだと!? あの野郎……」


 グスタフは、苛立ちを隠せない様子で言葉を続けた。


「奴は昔から口が悪くて喧嘩っ早かったが、腕は立つ方だった。それで、博打が好きで金遣いも荒く、たくわえなんざなかった。そんな奴がこれほどの襲撃を組織し、指揮するだけの金を持っているとは考えられねぇ。アイツに、これを準備する金は無い」


 グスタフの言葉は、アルフォンスの推測を裏付けるものだった。ギルは単なる実行犯であり、その背後に真の黒幕がいる。

 セレスティアの瞳に、強い光が宿った。アシュトンを傷つけた黒幕を突き止める。その決意が、彼女の中で確固たるものとなっていた。


「グスタフ。あなたの言う通り、ギルは単なる駒に過ぎないでしょう。だが、その駒が、必ずや黒幕へと繋がる糸口となるはずです」


 セレスティアの声は、静かでありながら、有無を言わせぬ響きを帯びていた。彼女は、王都に旅立つアシュトンが見せたのと同じ、領主としての威厳をまとっていた。


「何としても、ギルを生け捕りにしなさい。そして、その口から、全ての真実を吐かせ、黒幕を突き止めるのです。アシュトン様の仇を討つためにも、決して、見逃すわけにはいきません」


 その言葉に、グスタフは深く頷いた。彼の表情は、先ほどの悔恨と苛立ちから、獲物を狙う猟犬のような鋭いものへと変化していた。


「かしこまりました、奥様。ギルは、このグスタフが必ずや捕らえてみせます。奴の口から、黒幕の正体を必ずや引き出してみせましょう」


 グスタフは、私兵たちを率い、ギルの捕縛へと向かった。セレスティアは、その背中を見送りながら、アシュトンの無事を祈り、そして、必ずやこの一件の真実を明らかにする決意を新たにした。


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