サザエさんは愉快かなぁ?
いっさいのころ、ぼくはうみでおぼれた。
おとうさんはぼくをすくいあげてくれたらしい。
ぼくはそれをおぼえてはいない。
さんさいのころ、ぼくはかっていたきんぎょがしんでかなしかった。
まどからたんぼにすてたのは、きのうのことのようにおぼえている。
七さいのころ、ぼくはすんでいた町からはなれてところへ引っこしすることになった。
友だちとわかれるのはつらかったけど、がまんした。
引っこしの日、友だちからたく山、手がみをもらった。その日は泣いた。
十五才、俺は生徒会長を務めた。
役員は引っ込み思案の俺を引っ張ってくれる、優しい奴ばかりだった。
その内の一人の女の子が俺は好きだったが、最後まで言い出せなかった。
十八歳、受験戦争に喘いだ。
受験前日に好きだった子に告白した俺は本当にバカだ。
結果どっちも報われなかった俺は、本当に……本当にバカだ。
二月前、祖父が逝った。
俺も兄貴もお袋も泣いた。親父まで泣いていた。
親父が泣くのを、俺はその時まで見た事が無かった。
昨日、大学のサークルの先輩が卒業していった。
皆泣いていた。俺も少し泣いた。
仲が良かった先輩が、俺のアパートに要らない家財道具を置いていった。
正直要らない物もあったけど、俺は受け取らずにはいられなかった。
今日、実家に白髪染めが置いてあった。
親父の髪が最近白くなっていた事に、今更気がついた。
なんだかそれが少し悲しくて、今コレを書いている。
時間が過ぎていた。
俺が生まれてから、たかが20年しか経っていないと俺は思っていた。
しかし、本当は20年も経っていた。
色んな物が、俺の目の前で、俺の見えない所でも変わっていた。
時間が過ぎなければいいのに。
そうすれば金魚は死ななかった。引っ越しもしないで済んだ。
楽しい生徒会が永遠に続いた。受験勉強に苦しみながらも、あの子をずっと好きでいれた。
お爺さんは死なない。先輩が俺にフライパンを押し付ける事も無かった。
親父の髪は黒いままだっただろう。
悲しい思いをするのは、時間が過ぎるからだ。
時間が止まった世界とは、サザエさんの世界と同じだ。
永遠に日本語を喋れないイクラちゃん。波平の髪はあれ以上禿げず、カツオはいつまでも馬鹿なままだ。
俺はえいきゅうに赤ん坊か、えいきゅうに小学生か、永久に中学生か高校生か大学生でいることになる。
未来がない。
俺が友達との別れで悲しむ事もないし、振られて辛い思いをすることもなかった。
でも今時間が止まれば、俺は好きな人に告白する事も許されないし、将来出会うであろう俺の友達、ひょっとしたら生まれてくるかも知れない俺の子供に会う事も出来ない。
それは、少し嫌だ。
悲しいのより嫌かどうか、今の俺にはよく分からない。
何を言っても時間は止まらない。ザ・ワールドって叫んでも時は止まらない。
これは戒めだ。時間を無駄にするなと言う戒めと同じ事だ。
だから勢いで書いたこれをたまに読み返す勇気がもし俺にあらんことを願う。