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第5話 死に戻り令嬢は婚約者である王太子を失脚させる

 王であるジョナサン・バロン・エドワーズとの謁見の日。

 アナスタシアは緑のドレスを着て、チャーリーと一緒に馬車に乗り込んだ。



 王城に着くと、使用人が謁見の間まで案内し、扉を開けた。

 赤い絨毯の先には階段があり、その上にジョナサンが鎮座していた。

 その後ろに王太子のアレックス、第二王子のルパートの姿もあった。

 アレックスはアナスタシアの顔を見て、悔しげに顔を歪めた。

 アナスタシアとチャーリーはお辞儀をしてからジョナサンの前へと進んだ。

 二人は跪き、チャーリーは挨拶をする。


「この度は謁見の申し出を受け入れていただき、恐悦至極に存じます」


 ジョナサンは手を前に差し出した。


「二人とも顔を上げ、立ちなさい」


 アナスタシアとチャーリーは立ち上がり、一礼する。

 ジョナサンはチャーリーに問う。


「それでレイモンド公爵の用件はなんだ?」

「アレックス王太子殿下の婚約破棄のお申し出を承諾させていただきたく存じます」


 ジョナサンは眉間に手をやり溜息を吐いた。


「やはりその話であったか。アナスタシア嬢、此度の事件については余からも詫びよう。アレックスが迷惑をかけたな」


 アナスタシアは一礼する。


「恐れ多いことでございます、陛下。私にも至らぬところが多々ございました」


 ジョナサンは首を横に振った。


「いいや。アナスタシア嬢には今まで王妃教育に熱心に取り組んでもらっていたというのに……。アレックスとアナスタシア嬢との婚約は白紙に戻そう」


 それを聞いたアレックスがジョナサンに言う。


「父上、あの時は感情が昂ってしまいそのようなことを申しましたが、わたしの本心ではありません。どうかご再考を」


 ジョナサンはアレックスを振り返る。

 怒りを含めた視線をアレックスに向けた。


「お前は黙っていなさい」


 アレックスは押し黙った。

 それを横目にルパートは軽快に階段を下りた。

 アナスタシアの前に跪き、アナスタシアの手を取る。


「アナスタシア嬢、わたしと婚約していただけませんか?」


 アナスタシアは驚き、緑の瞳を大きく見開く。

 けれど、アレックスを一瞥してから微笑んだ。


「ルパート殿下。そのお申し出、ぜひともお受けいたします」


 それを見たジョナサンは頭に手をやった。


「レイモンド公爵はそれでいいのか?」


 チャーリーは頷いた。


「娘がよいのであれば、わたしは構いません」


 チャーリーの回答を聞いたジョナサンは、一考してから頷いた。


「それではアレックスの王太子の位を廃し、ルパートを王太子とする」


 それに青い顔で問うたのはアレックスだった。


「なぜですか? 父上。わたしが廃太子とはどういうことですか?」


 ジョナサンはゆっくりと首を横に振り、大きな溜息を吐いた。

 アレックスに落胆の色を示した。


「お前はそんなことも分かっていなかったのか……。お前が立太子できたのはアナスタシア嬢が婚約者であり、レイモンド公爵家がお前の後ろ盾をしていたからだ。公爵家の後ろ盾をなくしたお前の後ろ盾に、誰が代わりにつくと思う?」

「あ……」


 やっと状況を理解したアレックスは、階段を駆け下りてアナスタシアに縋りついた。


「あ、アナスタシア。今まですまなかった。謝るから、どうか婚約を破棄しないでくれ」


 ルパートはアナスタシアをアレックスから守るように間に入り、冷たい目で見下した。


「兄上、見苦しいですよ。アナスタシア嬢、行きましょう」


 ルパートはアナスタシアに手を差し出す。

 アナスタシアは笑顔でルパートの手を取った。


「ええ。ルパート王太子殿下」


 それからアナスタシアは床に手をつくアレックスを見下ろした。


「アレックス殿下、マーガレット様とどうかお幸せに」


 それを聞いたアレックスは、絶望から項垂れた。

 アナスタシアはそんなアレックスに綺麗なお辞儀をした。

 それから、ジョナサンにもお辞儀をしてからルパートと共に謁見の間を出て行った。



 アナスタシアはルパートの右腕に手を添えて庭園を歩いていた。

 ルパートは笑顔でアナスタシアに問う。


「作戦は成功しましたね。満足ですか?」


 アナスタシアもルパートに笑顔を返す。


「ええ。ルパート王太子殿下のおかげです。ご協力いただきありがとうございました」


 ルパートは首を横に振る。


「いいえ。あなたのおかげでわたしは立太子できた。父上は兄上がいずれ心を入れ替えると思っていたようですが、兄上はきっと変わらなかったでしょう」


 子供の頃からアレックスが王太子という位に胡坐をかいてきたのを横で見ていたアナスタシアは頷く。

 ルパートはアナスタシアに尋ねる。


「しかし、よくわたしの婚約の申し出を受け入れてくださいましたね?」


 アナスタシアはにっこりと綺麗に笑った。


「だって、アレックス殿下の悔しがる顔を見るのに、こんなにいい席はございませんもの」

「たしかにそうだ」


 二人は楽しげに顔を見合わせて笑った。

 ルパートは自分の腕を掴むアナスタシアの手に手を重ねた。


「アナスタシア。わたしはあなたを蔑ろにしないと誓います」

「ルパート王太子殿下……」


 アナスタシアは隣にいるルパートに視線を向けた。

 ルパートは笑みを浮かべる。


「わたしはずっとあなたを勘違いしていた。だが、屋上での一件で認識を改めました。あなたは王妃にふさわしい人だ。わたしはあなたに王として認められるように努力いたします」

 

 アナスタシアの手を取り、ルパートは手の甲にキスをした。

 アナスタシアはルパートの行動に驚き、僅かに頬を赤らめた。


「私もルパート王太子殿下の隣にいるにふさわしい女性になれるよう努力すると誓います」


 

 レイモンド公爵家の後ろ盾を失ったアレックスは、レイモンド公爵家に追随して離れていく貴族たちを引き留めることはできなかった。

 今では王城に引きこもり、酒浸りの日々を送っているという。

 マーガレットはコーデン男爵家が罰金とレイモンド公爵家に慰謝料を支払ったことで牢獄から出て、領地に戻されたとアナスタシアは風の噂で聞いた。


 

 二年後、貴族学校を卒業したアナスタシアとルパートは結婚した。

 二人は結婚式を終え、王城のパルコニーから集まった国民に手を振っている。

 

 「おめでとうございます!」

 「ルパート王太子殿下、アナスタシア王太子妃殿下! 万歳!」


 国民たちから祝福の声が飛んでくる。

 ウェディングドレスに身を包んだアナスタシアをルパートは慈しむように見つめた。

 

 「アナスタシア」


 アナスタシアがルパートを見上げると、ルパートはキスをした。

 

 「愛しているよ」

 「ルパート、私も愛しています」


 二人は寄り添い、国民の歓声に応えて手を振った。

最後までお読みいただいたみなさま、ありがとうございました。

ブックマーク、評価していただき、ありがとうございました。

執筆の励みになりました。

次回作もどうぞよろしくお願いいたします。

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