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第3話 死に戻り令嬢は味方を増やす

 学校から家に帰ったアナスタシアは、父親であるチャーリー・レイモンドの部屋に向かっていた。


 ――この時点でお父様に訴えれば、婚約破棄ができるかもしれない。


 アナスタシアは淡い期待を胸に抱いて、チャーリーの執務室のドアを叩いた。

 室内から返事か聞こえて、アナスタシアはドアを開けた。

 机に向かっていたチャーリーは顔を上げてアナスタシアを見た。


「アナスタシアか。どうかしたのか?」


 アナスタシアはドアを閉めて、チャーリーの前に立つ。


「お忙しいところ申し訳ございません。お父様、アレックス王太子殿下との婚約についてご相談があるのです」


 チャーリーはそれを聞いて、応接の席をアナスタシアに勧めた。


「座りなさい」


 アナスタシアは椅子に座り、チャーリーと向き合った。


「まずは話を聞こうか」

「ありがとうございます、お父様。実はアレックス王太子殿下との婚約を破棄したいのです。アレックス王太子殿下は私のことを婚約者として見てはいません。最近はコーデン男爵家のマーガレット様を恋人のように扱う始末。私はもう耐えられません」


 チャーリーはそれを聞いて眉間に手をやった。


「あの方は何を考えているのだ……。しかし、お前とアレックス王太子殿下との婚約は王家からの申し出であり、こちらから婚約破棄というわけにはいかない。それは分かっているな?」


 アナスタシアは俯いた。


「承知しています。アレックス王太子殿下から婚約を破棄していただけないのでしょうか? 人目も憚らずマーガレット様と一緒にいるのですから」


 チャーリーは何度か頷いた。


「分かった。陛下にそれとなくお伺いしてみよう。しかし、アレックス王太子殿下との婚約が破棄されたとなれば、お前の未来が心配だ。もうこの国での婚姻は難しくなるかもしれない」


 アナスタシアは笑みを浮かべた。


「お父様にはご心配をおかけいたします。それでも私はアレックス王太子殿下との婚約を破棄したいのです」


 チャーリーはアナスタシアの心情を汲み取って首を縦に振る。


「お前は今までよく耐えた。苦労をかけたな」


 アナスタシアはほっとした表情を見せて、首を横に振った。


 ――これでアレックスの方から婚約破棄してもらえればすべては解決する。



 しかし、その数日後のことだった。

 アナスタシアがいつものようにエレンとケリーと一緒にいた時だった。

 アレックスがアナスタシアの前に立ち、音を立てて机を叩いた。

 教室が静まり返り、アレックスとアナスタシアに視線が集中した。

 アレックスは水色の瞳でアナスタシアを睨みつけ、顔を歪めている。


「お前、俺とマーガレットのことを公爵に告げ口したな」


 アナスタシアは頭を下げた。


「申し訳ございません。アレックス王太子殿下」

「お前は今まで通り大人しく俺の言うことだけを聞いていればいい。俺のことに干渉するな」


 アレックスはそれだけ言って、マーガレットを連れて教室を出て行った。

 ケリーがアナスタシアの肩に手を添える。


「大丈夫ですか?」


 エレンはアレックスが出て行った教室の入り口を睨みつけて言った。


「ご自分が悪いのに、アナスタシア様を怒鳴るだなんて。アレックス王太子殿下はなんて酷いことをなさるのかしら」


 他の令嬢たちもアナスタシアを気遣い近寄ってくる。

 アナスタシアは震える手を握り、震える声で言った。


「よいのです。私がお父様に相談したのがいけなかったのです……」

「そんな……! 婚約者があのような振舞をすれば相談するのは当たり前ですわ」

「アナスタシア様は悪くありません!」


 令嬢たちが口々にアナスタシアを慰めた。

 遠巻きに見ていた男子生徒たちも口々にアナスタシアを擁護する。


「婚約者に対してあのような言い方はないよな」

「アナスタシア様がかわいそうだ」


 生徒たちの同情が一心に集まってくるのをアナスタシアは感じた。


 ――教室で怒鳴るだなんて意外な展開だったけど、これで私に対する生徒たちの心象はアレックスに虐げられるかわいそうな婚約者だ。残るはマーガレットが階段から落ちた時に、私が突き落としたのではないと証言してくれる人。エレンとケリーだけでは心許ない。もっと発言力のある人を味方につけないと……。


 アナスタシアは顔を上げた。

 その視線の先にいたのは、第二王子であるルパート・アーサー・エドワーズだった。


 ――なんとかルパート殿下を味方につけたい。話すきっかけが欲しい……。


 この時、マーガレットの転落事件まで残り一か月を切っていた。



 アナスタシアはルパートと話すきっかけが掴めずに焦燥感だけが募っていく。


 ――もう時間がない。けれど、アレックス王太子殿下の婚約者である私が第二王子のルパート殿下を呼び出すわけにはいかない。


 そんな折、ルパートがよく屋上にひとりでいるという噂を耳にした。

 ひとりで行動している時間が長ければ長いほど、マーガレットの嘘に嵌められる可能性もあったが、一か八かでアナスタシアは屋上に通うことにした。



 マーガレットの転落事故まで三日と差し迫った頃。

 アナスタシアが屋上で待っていると、金髪のルパートがやってきた。


「これは姉上。おひとりですか?」


 アナスタシアはピンクの髪を靡かせて振り返った。


「ルパート殿下、ごきげんよう。ルパート殿下にお話があり、お待ちしておりました」


 ルパートは屋上を見渡して、二人きりであることを確認した。


「俺に話したいこととは、もしかして兄上のことですか? 兄上はずいぶんとマーガレット嬢にご執心のようですね」


 アナスタシアは頷いた。


「ルパート殿下にお願いがあるのです。三日後の十四時ごろ、中央階段の三階から私を見ていてほしいのです」


 ルパートは不思議なお願いに首を傾げる。


「なぜですか?」


 アナスタシアはルパートに近寄り、声を潜めて言った。


「見ていていただければ分かります。ご協力いただければ、レイモンド公爵家は必ずあなたの味方になるでしょう。王太子の位が欲しくはありませんか?」


 ルパートはアレックスと同じ水色の瞳でアナスタシアを見た。

 ルパートは王位継承権二位という立場だが、母親が低位貴族の娘であり、後ろ盾が弱く、アレックスに到底太刀打ちできなかった。

 そこにアナスタシアからのこの申し出である。

 アレックスの後ろ盾をしている公爵家がルパートに乗り換えれば、一気に形勢は逆転する。

 ルパートはおかしそうに笑った。


「姉上。そのような物騒な申し出をしてよろしいのですか?」


 アナスタシアは緑の瞳でルパートを見据える。


「ルパート殿下はアレックス王太子殿下が未来の王になることを危惧したことはございませんか? 人の話に耳を傾けず、己の欲望にばかり忠実。そのような者が将来王になるこの国の未来を案じたことはございませんか?」


 ルパートは黙った。

 緑の瞳と水色の瞳が交差する。

 ルパートは重い口を開いた。


「兄上が兄上でなければ、わたしは王位を求めることはなかった。アナスタシア嬢も同じようにこの国の未来を考えていたのですね」


 アナスタシアは笑みを浮かべて頷いた。


「それでは、私に協力してくださいますね?」


 アナスタシアは手を差し出す。


「アナスタシア嬢の御心のままに」


 ルパートはアナスタシアの手を取り、手の甲にキスをした。

 アナスタシアは満足そうに微笑んだ。

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