6.悟くんの楽しい1日
最終回です。
一方その頃、デパートの中では。
「……ねー」
「……なんだよ」
「……おそくない?」
「……(コクコク)」
「……あれからもう30分はたってるよねー?」
「………(コクコク)」
「……ぜんっっっぜんこねーじゃねえか!!!」
迷子センターで呼び出し放送を流したあと、隣にあるクレープ屋さんのベンチでクレープを食べながら今か今かと悟くんを待ちわびていた金髪さん、黒髪ストレートさん、茶髪ゆる巻きさんの3人。しかし、待てど暮らせど悟くんどころか母親もやって来ません。
茶髪セミロングさんは迷子センターで1人待機していましたが、先程から『ねえまだあのガキ来ないの??』『このままだとイタズラだと思われちゃうよ!』『ずっと受付の人にジロジロ見られてチョー気まずいんだけど!!』というLI●Eがひっきりなしに送られてきます。
「クソッ!なんなんだよ!あのガキどころかアイツの母親も来ないってどういうことだよ!あれからもう5回も呼び出し流したんだぞ!なのになんで誰も来ねえんだよ!!」
金髪さんがクレープを握りつぶしながら大声でわめき散らしました。その声に周りの人たちは何事かと振り向きます。
「ちょっとー声うるさいー!!あとクリームこぼれてるー!」
さすがにまずいと思ったのか、黒髪ストレートさんが慌てて止めに入ります。
「……でも、おかしい……こんなに誰も、来ないなんて……」
茶髪ゆる巻きさんもいつもより少し口数を多くしながら、うーんと首をかしげます。
「チッ、もう1回放送流させるか……」
そう言って金髪さんが茶髪セミロングさんに催促のLI●Eをしようとした時、丁度迷子センターのドアが開いて茶髪セミロングさんが出てきました。
「あれー?どしたの?なんで出てきたのー?」
「もー!どうしたのじゃないよ!受付のオバさんにガキの母親に連絡しろってめっちゃ言われたから電話するフリして1回出てきたの!すげー疑いの目で見てきてさ、マジなんな……って、ちょっと!アンタたちなにクレープなんか食べてんの!?」
「えー?だって待ってるあいだヒマだったからー。半分いる?」
「いらねえよ!こっちが1人で苦労してたってのにマジなんなん!?」
「オイ!それよりもう1回呼び出しの放送流させろ!」
「ハァ!?無理に決まってんじゃん!もう5回も流してもらったんだよ?これ以上やったらマジでイタズラ確定されてヤバいって!!」
「アァ?テメェが考えた作戦だろ?ギャルピなんたらにおまかせ~とかつったんだから責任持って最後までやれよ!」
「なによ!いっつも人任せのくせに偉そうなことばっか言って!アンタたちだってのん気にクレープなんか食べてないで少しはあのガキ探しに行くとかしてよ!」
「もー!こんなとこでケンカしないでよー!」
「……仲間割れ、ダメ」
金髪さんと茶髪セミロングさんが殴り合いの喧嘩を始めそうになるのを、茶髪ゆる巻きさんが間に入ってボディブロックします。黒髪ストレートさんは3人の周りで(クレープを食べながら)オロオロするばかり。
そんな騒がしい4人組に、誰かが声を掛けてきました。
「あ、あの……」
「なに!?今取り込み中なんだ、け、ど……あ」
茶髪セミロングさんが振り向くと、そこにいたのは迷子センターの受付のお姉さんでした。
「あ、受付のオバ…お姉さん。な、なんですか?なんでここに………?」
「(オバ?!)いえ、電話をしに行くと言って出て行ったきりお客様がなかなかお戻りにならないので様子を見に来たのですが……迷子のお子様もお母様もいらっしゃらないですし……」
受付のお姉さんは疑いの目を向けつつ、困ったように首をかしげます。
「あ、そ、そうですよね、その、ハハハ……」
「あの、それで、うのがはらさとしくんのお母様にはご連絡がついたのでしょうか?」
お姉さんの当然の問いかけに、茶髪セミロングさんは焦りながらもなんとか答えます。
「あ、あのぉ、そのぉ、ママさんには電話したんですけどぉ、電源が切れちゃってるのか全然繋がらなくってぇ!で、そしたら偶然友達のこの子たち見つけたんでぇ、今みんなにも探すの手伝ってもらおうと思って話してたんですぅ!」
「はぁ、そうなんですか……それはそれは……」
4人の様子から明らかにウソだとわかっているお姉さんですが、もちろんそれを口に出すことはなく営業スマイルで答えます。女子高生たちもこの状況をどうしようかと顔を見合わせます。
そうして少しの間無言の時が流れましたが、その気まずい沈黙を破ったのは受付のお姉さんでした。
「あの、変なことを聞くようなんですけど、一つよろしいでしょうか?」
「な、なんですかっ?!」
いきなり問いかけられて、焦る茶髪セミロングさん。
(ヤバイ……!!オワッタ!!!!)
いよいよここまでかと固唾を飲んでお姉さんの次の言葉に気構える4人に、お姉さんが質問した内容は拍子抜けするようなものでした。
「その迷子のお子様のお名前は、本当に『うのがはらさとし』くんですか?」
『…………ハァ?』
本当に変なことを聞かれ、思わずすっとんきょうな声を出す4人。
「ちょっと、それどういう意味?わけわかんないんだけど!」
「い、いえ、これには理由が……!」
あまりの意味不明さに金髪さんがお姉さんに詰め寄ろうとした時、再び誰かが声を掛けてきました。
「いやぁ、その人たちかい?さっきから流れている呼び出しをしたのは」
いきなり割り込んできた声の方に顔を向けると、そこにはぴっしりとスーツを着た少し太ったおじさんが立っていました。
「アァ?誰だよオッサン?」
「て、店長!!」
「は!?て、店長!?」
いきなり現れたおじさんの正体に驚いく女子高生たち。
そんな彼女たちを他所に、店長はニコニコしながら4人に近づいてきました。
受付のお姉さんは金髪さんが驚いている隙にサッと距離を取り店長の横に身を引きます。
「はじめまして、私このデパートの店長をやっている者です。どうぞよろしくお願いします」
「は、はぁ……」
そう言って丁寧にお辞儀をしてくる店長に、金髪さんは呆然としながら返事をします。
「あの、店長。どうして店長がこんな所に?」
お姉さんはオロオロしながら店長に問いかけます。4人もうんうんと頷きます。
「なぜって、君は気にならなかったのかいこの呼び出し?」
店長はお姉さんに聞き返します。
「は、はい!それはもちろん!あの、やっぱり店長も気になったんですね」
「そりゃそうだよ!私だけじゃなく、ここの店員みんなが驚いたと思うよ!」
「そ、そうですよね。だって……」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
2人の意味深な会話に、今度は金髪さんが割り込みました。
「さっきからなに言ってんだよ!あの放送でなんかヘンなことでもあったのかよ!」
「そういえば、さっきオバ、お姉さんも『うのがはらさとし』って名前がどうとか言ってたけど、何?それが何か関係あんの?」
金髪さんの横から茶髪セミロングさんも言葉を挟みます。すると、
「そう!ソレですよ、ソレ!」
店長がビンゴッ!というように茶髪セミロングさんを指差して、ガハハと豪快に笑い出しました。いきなり笑われた茶髪セミロングさんはもう何が何なのかと困り果てています。
「ちょ、ちょっとー!なにがそんなにおかしいの!?ちゃんとセツメイしてよー!!」
金髪さんも茶髪セミロングさんも混乱して何も言い返せないので、痺れを切らした黒髪ストレートさんが代わりに店長に詰め寄りました。
店長は、とても愉快そうに笑い続けながら答えました。
「あー、これは失礼。いやね、だって……」
「だって……?」
「だってね、さっきから自分の名前が連呼されているのがついおかしくて!」
『…………ハァアアアア?』
いよいよ意味がわからない返答に、今日一番のマヌケ声を上げる4人組。
「いやぁ、最初に放送を聞いた時はすごい偶然だと思ったんですけどね、30分も続けて流れているんでどうも気になりまして」
「ちょ、ちょっと待てよ!!自分の名前ってどういうことだよ!?」
「はい、実は――」
そう言うと、店長はスーツの胸ポケットから名刺入れを取り出しました。そして中から名刺を1枚取り出し、両手を添えて丁寧に4人に差し出しました。
そこに書かれていたのは―――
デパートSMILEY
店長 宇野ヶ原 聡
『――――――え?』
「改めまして、私、当店店長の『うのがはらさとし』と申します」
『…………は、ハァアアアアアアアアアあああああああ!!!』
デパート中に4人の絶叫がこだましました。
「で、悟くんは一体なにをやっていたの?」
車を運転しながら、お母さんが悟くんに尋ねました。
「社会見学だよ!」
「社会見学?」
「そう!社会見学!」
悟くんはそう言って、とても楽しそうに話を続けました。
「あのデパートっていろんなお店があるでしょ?だからね、どんなものが置いてあるのかとか、みんなどんなふうに働いてるのか見学してきたんだ!」
「まぁ悟くん!!ママのこと気遣ってくれるだけじゃなくてデパートに来てまでお勉強だなんて、なんて偉いのかしら!」
「えへへ、そんなことないよ!」
「ううん、そんなことあるわ!それで、悟くんはどのお店が一番面白かったの?」
お母さんの質問に、悟くんはうーんとしばらく悩むフリをして、
「ファンシーショップかな」
と答えました。
「ファンシーショップ?それ女の子向けのお店でしょ?なんでそんな所が面白かったの?」
お母さんが不思議そうに尋ねると、悟くんは少し照れくさそうに言いました。
「だって……女の子ってどんなものが好きなのかなって気になって!」
「まあ!悟くんったら!」
そんな微笑ましい会話をしながら、悟くんはズボンのポケットからスマホを取り出しました。ネットアプリを開き、先程ファンシーショップで見ていたデパートのHPを見返します。
鬼ごっこの前に悟くんはHPで館内図などを調べていました。
館内図と、同じくHPに掲載されている『店長からのごあいさつ』を。
悟くんはその中の最後の一文を読み返します。
「このデパートを訪れた皆様の1日が、笑顔で楽しいものになりますように」
店長 宇野ヶ原 聡
(ああ、とっても楽しい1日を過ごさせてもらったよ)
そして、悟くんはあの4人の女子高生たちのことを思い返しました。
(迷子の呼び出しとはなかなか良い考えだったけど、僕からすれば単純すぎて詰めも甘かったね。さて、そろそろ本物の『うのがはらさとし』くんに会えた頃かな?そのあとは……ふふ、どうなっているのやら)
「おい、いたか!」
「ダメ!どこにもいないよ!」
「クソッ!どこ行ったんだよあのガキ!」
店長から名前を伝えられ、しっかりイタズラ(と確定された)放送のお叱りを受けたあと、女子高生たちはようやくルール通りの鬼ごっこをスタートさせ、必死にデパート中を走り回って悟くんを探していました。
店長にも念を押して「同じ苗字の息子か親戚の子どもはいないか?」と尋ねましたが、店長の子どもはもうすっかり大きな大学生で、親戚も近くには住んでおらず、しかもこの名字は大変珍しいもので日本全国でも店長の家庭でしか確認されていないもよう。
名前もわからない小学生に一杯食わされた女子高生たちは、怒りと悔しさと恥ずかしさと走り回った疲れで顔が真っ赤になっています。
「こんなに探しまわってるのにどこにもいないなんてぇ………あ、まさかキンシとか言っといて上の階とかトイレにいるとかー!?」
「……なきにしも、あらず」
「いや、あのガキはたしかにクソズル賢いけど多分そんなルールを破るようなズルはしない。もっと小賢しいこと考えてどっかで高みの見物してるに違いねえ!」
「アンタ、なんでそんなあのガキのこと理解してる風なの……?」
「う、うるせえ!この短期間でもわかるくらいアイツはそういうヤツなんだよ!!」
「(だったら最初から騙されてたの気付けよ……)で、どうすんの?4人で闇雲に探し回ってもキリないよ?」
「……閉店時間まで入り口で待つ」
「えぇー!?それまでずっとここにいなきゃってコトー!?」
「……閉店時間は21時……今は17時……あと4時間」
「いや、流石にそんないられないって。アタシ門限あるし」
「アタシもー見たいドラマあるから帰るー」
「……今日の夕飯は、すき焼き……」
「うるせえ!テメェらこのままあのガキにやられっぱなしでいいのかよ!高校生が小学生にナメられてんだぞ!店員にもアタシらがイタズラしたって思われたままでよ……あのガキ捕まえて母親に暴露して店長んところにコイツがアンタの名前使ってウソついてたって突き出せばメーヨバンカイだろうが!!」
「まあ、たしかにそうだけど……」
「アンタはなんちゃら孔明なんだろ!頭イイキャラなら最後までその意地見せろ!門限はそれも含めてガキのせいにしろ!ドラマは見逃し配信で見ろ!すき焼きは……知らねえけどまた作ってもらえ!!」
「……たしかに、このままじゃギャルピ孔明ちゃんの名が廃るっていうか、一生ムカムカしたままかも」
「うぅ~……ドラマはリアタイしたいけどぉ、ここのデパート来づらくなんのはイヤだしぃ……ママに録画しといてもらおー」
「……今日のすき焼きより、明日のPRIDE……!」
「よし!そーと決まればさっそく行動開始!それぞれの入り口で張り込むよ!今に見てろよクソガキィ……!!」
(とかなんとか言ってたりして。僕としたことがルールに制限時間を入れ忘れてしまっていたが、流石に彼女たちもそこまで馬鹿ではないだろう)
と、見事4人の行動を当てる悟くん。
(もし本当にそんなことをしていたとしたら、きっと僕がもうとっくに帰ったなんて、それこそ閉店時刻まで微塵も疑問に思わないんだろうな。逃げる範囲はデパートの1階のみと言ったけど、デパートの1階の駐車場から出てそれより上の高さには行っていないし、デパートの外は駄目とも途中で帰ってはいけないとも言っていないから、ちゃんとルールは守ったということで、良いよね)
そんなことを考えて、悟くんから自然と笑みがこぼれました。
「ふふ、そんなに笑顔になるなんて、今日は本当に楽しかったのねぇ」
お母さんに優しく微笑まれて、悟くんもまた、嬉しそうに微笑み返しました。
「うん!とっても楽しかったよ!だから………」
だから、また遊ぼうね―――
【おわり】
読んでいただきありがとうございました。
この作品は高校生の時に別の小説投稿サイトに掲載したものに修正を加えたものになっています。
当時のものを読み返してみたらまあヒドイ。
悟くんは一旦終わりにして、新しいいたずらが思いついたらまた書き足していきます。
まだ他に書きたいものが色々あるので。やっぱ「なろう」なんで次は転生ものを。
当時より少しは上がった文章力で、これからもちょっとずつ作品投稿していければと思います。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。