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第3話

   

 入ってみると、以前の本屋と比べて、店内の構造はかなり変わっていた。

 まずフロア面積が二倍も三倍もある。どう考えても建物に収まる広さではなく、なるほど「魔法の本屋」だと感心してしまう。

 かつては店の奥にあったレジの場所も異なり、今度は入り口に設置されていた。ちょうど銭湯の番台みたいに、少し高いところに店の者が座っているのだが……。

「いらっしゃい」

 と挨拶してきたその店員は、全身がピンク色。等身大のクマのぬいぐるみだった。

 店の広さという時点で既に「魔法」という非日常を実感させられており、ぬいぐるみ店員にも驚くべきではないのだが……。

 思わず俺は、ぬいぐるみ店員に尋ねてしまう。

「それって、着ぐるみじゃないんですよね?」

「おや? あなたは……」

 店員はこちらの質問に答える前に、ぬいぐるみ特有のつぶらな瞳をいっそう丸くして、俺の顔を覗き込んできた。

「……なるほど。このお店が初めてどころか、一般人なのですね!」

 面白いものを見つけた、と言わんばかりの口調に変わる。

 続いてクルリと背中を向けて、そこにあるファスナーを見せつけてきた。

 ファスナーがあるならば、ぬいぐるみではなく着ぐるみだったのか。俺は納得すると同時に「ごくごく常識的な存在だったのか」という失望も感じたが……。

「どうぞ、そこから手を突っ込んで確認してください。中の人なんていませんから」


 言われた通り試してみると、確かに中には誰も入っていなかった。子供の頃に遊んで壊したぬいぐるみ同様、白い綿みたいな化学繊維が、ぐちゃぐちゃと詰まっているだけ。

「納得できましたか?」

 ぬいぐるみの言葉に無言で頷きながら、俺は店内を見回していた。自覚はないものの、おそらく不思議そうな表情をしていたのだろう。

「なるほど。次はこの店について教えてもらいたい、という顔をしていますね。ならば教えてあげましょう!」

 どうやら話し好きなぬいぐるみらしく、店員は説明を始める。

 それによると……。


 ここは真夜中だけ営業している本屋であり、ごくまれに俺のような一般人が紛れ込むこともあるが、基本的な利用客は魔法使いや人外の生き物たちばかり。

 俺が知らなかっただけで、魔法が使える人間は世の中に結構いるらしく、そうした魔法使いにしか見えない「人外の生き物」もたくさん存在しているそうだ。

「協会が把握している統計によれば、人類の約三パーセントが魔法使いだそうですよ」

 という話だから驚きだ。

 確か、俺が通う大学には数千人の学生がいるはず。そこに「約三パーセント」を当てはめるならば、百人以上は魔法使いが在籍していることになるではないか!

「こちら側の世界へようこそ。こうしてうちの店を訪れたのも何かの縁です。あなたも今後は、こちら側の世界と関わるようになるでしょうね」

 店員はそう言いながら、もふもふしたぬいぐるみの顔にニヤリと笑みを浮かべた。

   

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