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第1話

   

 この話の発端となったのは、深夜の散歩中に起きた出来事だ。


 そもそも俺は、大学生になり一人暮らしを始めた頃から、妙に寝つきが悪くなっていた。

 寝られない時の対処法は人それぞれだろうが、俺の場合、ぶらぶらと一時間くらい外を散歩する。するとようやく睡魔が訪れるのだ。

 とはいえ、その程度で歩き疲れるわけではない。俺は筋肉に恵まれた体つきで、体力にも自信あるタイプなのだから。

 ならば、精神的な理由なのだろう。この辺りは学生向けアパートも多いせいか、夜中でも電気がついている部屋が結構あったり、俺みたいに外を出歩いている若者がいたりする。

 そうした人々の存在を感じるだけで、なんだか安心感を覚えたのかもしれない。


 まあ行動原理はともかくとして、その夜も俺は、少し近所を歩き回っていた。

 特にその夜は、行きつけだった本屋の方へ足が向いていた。

「行きつけの本屋」ではなく「行きつけだった本屋」だ。かなり遅くまで開いている本屋なので、それこそ夜の散歩中に立ち寄ることも可能なくらいだったが、そんな営業形態が災いしたのか、あるいは立地が悪かったのか。一ヶ月くらい前に閉店していた。


 住宅街から少し外れた裏道を進んでいくと、道の両側に緑の木々が立ち並び、ちょっとした林か森のようになった場所に差しかかる。その「林か森」の途中にポツンと建っているのが、問題の本屋だった。

 緑の木々に挟まれた区間には街灯もなく、かつては本屋の(あか)りを目指して歩いたものだが……。

 それもなくなってしまうと、月明かりと星明かりだけが頼り。真っ暗に近い中を、俺はてくてくと歩く格好になっていた。


 そんな状況でも、見慣れた建物が見えてくるとホッとする。閉店しても本屋の建物自体は取り壊されていなかったのだ。

 建物が残っている以上、もしかしたら居抜きみたいな形で、また別の本屋が同じ場所に入るかもしれない。今この瞬間は夜だから営業していないにしても、もしも昼間営業しているのであれば、看板だったり営業時間の貼り紙だったりがあるかもしれない。

 そう考えて、本屋の跡地に近づいてみると……。

 先ほどの「ホッとする」から一転、背筋がゾッとしてしまう。寂しい場所にある建物の前に、ひとつの人影があったのだ。

   

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