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皇帝陛下の愛娘はスラム街の少年を救う

今日、リリアージュとルイスは髪色を魔法で変えて平民の格好をして〝親子〟を装い商店街を歩いている。


というのも、エミリアから「経済大国であるこの国では平民も良い暮らしが出来るが、一部スラム街の人々は苦しい暮らしをしている」と聞いて、見てみたいと思ったのだ。


助けてあげるにせよ、放置するにせよ、現状を知らなければ判断できない。ナタナエルにはナタナエルの考えがありスラム街に手を入れていないのだろうけれども、次期女帝としてはやはり一度見ておきたい。そう思った。


ナタナエルは最後まで反対したが、ルイスがいずれ女帝となるリリアージュ様の成長を阻害する気かと喝を入れ仕方なく許可を出した。ルイスが護衛するのが絶対条件だったが。ついでに、その間は魔水晶で見守り続け執務はストップすることになるが。


で、商店街からすぐそこ、ちょっと奥に入ればスラム街だ。ルイスに抱き抱えられスラム街に入ったリリアージュは、スラム街の悲惨さに絶句した。


痩せ細った人々は、水だけでお腹を満たすためお腹だけが異常に膨れ上がり明らかに異常。悪臭も漂う。排尿や排便を、トイレなどないためその辺りでするしかないし、お風呂にも入れないので臭うのは仕方なかった。スラム街を色々見て回ったが、リリアージュにとってはこれは異常だった。いや、きっとスラム街の存在を知らなければ誰もが異常だと言うだろう。


リリアージュは、女帝となったらスラム街にメスを入れると心に誓う。でも、出来ればナタナエルの代でなんとかしてもらえるよう、政策を打ち出したいと考える。良い政策ならばナタナエルに直談判出来る。友人達にも相談してみようと思った。


その時、自分と同じくらいの歳の少年が目の前で倒れた。見に来るだけのつもりだったリリアージュだが、さすがに見過ごせなかった。


ルイスから降りて、ルイスとその少年と手を繋いで転移魔法を発動する。すぐに宮廷のナタナエルの部屋に来た。幸か不幸か、少年は弱ってはいるし痩せ細ってはいるが、腹が異常に膨れ上がってはいない。なんとかしてやれるはずだ。


「パパ!お願い、この子を助けて!」


「…仕方ない」


ナタナエルは、治癒魔法をかける。さすがに痩せ細った身体はどうしようもないものの、怪我や感染症は治り少年はすぐに目を覚ました。


「ここは…」


「貴方お名前は?今ルイスがパンを取りに行っているから待っていて。あ、紅茶飲む?」


少年はごくごくと紅茶で喉を潤した。


「ありがとうございます。僕はニコラ・オディロンと申します。オディロン公爵家の次男です」


「オディロン公爵家って…馬車で屋敷に帰る途中、山賊に襲われて…」


「…はい。両親は死にました。馬車に乗っていて生き残ったのは、僕だけです。兄上が公爵家を継ぎましたよね?後妻の子であった僕は、両親の葬儀の後すぐに放逐されたのです」


「そんな…」


「その後スラム街に流れて、どうにか生きてきました。こうして拾っていただきありがたいと思うのですが…僕は、またスラム街に戻るより他ありません」


リリアージュが絶望しているのを見て、ナタナエルは考える。そこにルイスが現れた。


「お待たせしました、リリアージュ様。君、パン粥なら食べられるかい?」


「ありがとうございます、いただきます」


美味しそうにパン粥を食べるニコラにリリアージュは涙ぐむ。助けたいけれど、全ての人に手が届かないのがこんなにも歯痒い。そこで、ナタナエルが言った。


「こいつは公爵家の次男らしい。身元を確認して、本当ならばリリアージュの侍従として雇え」


「えっ」


「…!パパ、ありがとう!」


「かしこまりました。良かったですね、リリアージュ様」


「うん!」


「身元引き受け人はルイス、お前だ」


「かしこまりました」


「だがそれにかまけずさっさと結婚して子供も作れ」


「善処します」


とんとん拍子に話が進む。ニコラはただ呆然としていた。そして、リリアージュが女神に見えた。


後日、ニコラは正式にリリアージュの侍従となった。ルイスが身元引き受け人である。


そんなニコラに協力してもらい、リリアージュはナタナエルに更生施設を提言した。スラム街に大きな施設を作って、スラム街に流れ着いた人々を受け入れる。そこで、施設の人々のための食べ物を確保する畑仕事や畜産をしたり、施設内の家事をこなしたり、簡単な内職などを行い社会復帰を目指すというもの。


まあ、まだまだ粗いが形にはなっているので、ナタナエルはリリアージュを褒めた。さすがに財源はどうすると聞くのは意地悪かと思いやめた。そして、ナタナエルの私財の方から、私費で更生施設をいくつか作り運営を始めた。私財はどうせ有り余っているので問題ない。もし運営が上手くいけば、その他のスラム街にも作るつもりである。


それを聞いてリリアージュは今日も無邪気に笑う。そんなリリアージュの様子に、ナタナエルは私費を出してよかったと満足した。

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