皇帝陛下の愛娘は子離れしようと努力する皇帝陛下を尊敬する
リリアージュは、最近ナタナエルがハグやキスを自分からしてくることがなくなったと感じていた。今までは、日に日に溺愛が加速してナタナエルからのハグやキスなど珍しくもなかったが、最近では滅多にない。もちろんリリアージュからハグやキスをするのは受け入れてくれるが。
皇太子として外交などの仕事に同席する際には厳しい面も見せるが、基本的には変わらないナタナエルだった。しかしここに来てこの変化である。皇太子となった自分への線引きなのか、我が子に自立を促すためなのか。
リリアージュは寂しかったが、同時にあれだけ自分を溺愛してくれていたナタナエルが子離れしようとする姿に尊敬もした。どれだけ愛されているかは分かっているつもりである。
ただ、リリアージュの方が親離れはまだ出来そうにない。だってナタナエルが大好きなのだ。かと言って子離れしようとするナタナエルを無理矢理引き止めるのも申し訳ないし、いずれは親離れしなければならない。リリアージュは自分の気持ちを飲み込んだ。
そんなある日、リリアージュはナタナエルから執務に関して色々と教わりつつ皇太子としての仕事をこなしていた。
ナタナエルが席を外した際に、ナタナエルの机に置いてある日記帳が目に入った。リリアージュはいけないことだと思いつつも手を伸ばしてしまう。
やはりというか、ナタナエルの日記帳だった。そこには色々なことが書いてあったがほとんどがリリアージュに関することだった。
『今日もリリアージュは皇太子として真剣に執務をこなす。真剣な表情なのに、まだまだ幼く見えるから困りものだ。可愛くて、つい頭をなでようと手を伸ばして慌てて引っ込める。リリアージュにはニコラがいる。あいつのことは気に入らないが、これからは二人で助け合いながら生きていくのだろう。俺はあくまでもリリアージュを影で支えていくだけだ。だから、子離れしたように見せないといけない。可愛いリリアージュを今更手放すなんて本当はしたくないが、リリアージュの幸せのためなので我慢する』
『リリアージュがハグをしてくると、まだまだ子供だなとつい優しく抱きしめ返してしまう。本当はそろそろ親離れしなさいと突き放してやらなければならないのだが、俺には無理だ。出来ない。ルイスに相談したら呆れられた。俺は真剣に悩んでいるんだぞ。失礼な奴だ』
『最近リリアージュがニコラに手作りのお菓子を作っているらしい。羨ましい。俺は一度もリリアージュの手作りのお菓子など食べたことがないのに。リリアージュは優しいから気にしていることを伝えたらすぐに俺の分も作ってくれるだろうけれど、子離れしなければいけないので我慢する』
『リリアージュも皇太子としてだいぶ頑張っている。仕事中は親としてではなく皇帝として接さなければならないが、リリアージュはそこの線引きもしっかりとしている。プライベートでは甘えてくるが、仕事中はきりっとした表情で甘えは見せない。しっかりした子に育って俺は嬉しい。さすがリリアと俺の子供だな』
『なんとなく寝付けなくてリリアージュの寝顔を見に行った。あどけない寝顔を見ると、まだまだ甘やかしてやりたくなる。けれど皇太子として、次期女帝として、一部の信用のおける者以外には人に弱みを見せない強さを身につけさせなければ』
『最近出来る限り距離を置いているのに、リリアージュは相変わらず俺にべったりだ。プライベートな時間には、俺との時間を大切にする。可愛い。甘やかしたい。でも、それはリリアージュのためにならない。リリアージュにもう少し皇太子としての仕事を振ってみよう。時間も潰せるし、リリアージュの出来ることも増やしていかないと』
『リリアージュは仕事の覚えが早い。大概の公務や執務は一人でも出来るようになってきた。仕事を教えてやることも減ってくるだろう。俺が他にしてやれることはないだろうか』
『ルイスがいい感じで子離れ出来ていますねと微笑んだ。なんかむかつくので魔法で頭にタライを落とす。褒めているのにとルイスは嘆くが、馬鹿にされたようにしか感じなかったぞ』
『リリアージュは今日もハグとキスをしてくれる。俺は子離れのために優しく抱きとめるだけしかできない。リリアージュは寂しがっていないだろうか。でもこれがお前のためになると信じてる』
リリアージュはそこまで読んでそっと日記帳を机に戻し、中断していた執務を行う。
ナタナエルがどれだけ自分のことを考えて子離れしてくれたのかわかったのだから、出来る限りのことをしてナタナエルを安心させてあげなければいけない。リリアージュはとりあえず、目の前の仕事を完璧にこなすことにした。
戻ってきたナタナエルはリリアージュの仕事ぶりを見て満足そうに頷いて、リリアージュの頭に伸びそうになった手を引っ込める。
そんなナタナエルを優しい気持ちで見守るルイスは、リリアージュもいずれは親離れしていくのだろうと二人の成長に微笑んだ。




