皇帝陛下の愛娘は皇配教育を受ける婚約者を応援する
今日、リリアージュはシモンとラウル、エミリアとレオノールと共にキッチンに立っている。それというのも愛しい婚約者、ニコラの為である。
ニコラは毎日、皇配教育で忙しく過ごしている。しかし、リリアージュに対しては常にいつも通り柔らかな微笑みを浮かべている。そんなニコラをリリアージュは心配していた。
そこでリリアージュは、シモンとラウル、エミリアとレオノールに皇配教育を頑張っているニコラを応援したいがどうすればいいかと相談をしたのだ。
シモンが素直に応援の言葉をくれてやるだけでニコラは喜ぶといい、ラウルは何かご褒美のプレゼントをするのもモチベーションが上がるかもしれないという。
ならば応援の言葉と共にプレゼントを贈ろうということになったが、問題はプレゼントである。あまりに仰々しいものではかえってニコラが困るだろう。けれど心のこもったプレゼントを贈りたい。
そこでエミリアが、ならば手作りの品を贈るのが一番ではないかと提案した。それは良いということになり、レオノールが手作りの品なら焼き菓子などはどうかと、それならばレオノールが教えられるから一緒に作ろうと言った。
ということで、レオノールが簡単で可愛らしい焼き菓子の作り方を教えてくれる。簡単と言っても、他のお菓子作りと比べてである。お菓子作り初心者のリリアージュには充分に難しかったが、なんとか形になった。
ついでに、一緒に作っていたシモンとラウル、エミリアとレオノールも上手く作れたらしい。婚約者同士で交換し合いきゃっきゃうふふと食べている。いや、実際には案外さらっと交換して感想を述べ合っていただけだが、リリアージュにはラブラブな婚約者同士の甘い時間に見えていた。その光景を見たリリアージュはニコラにも喜んで貰えそうだと期待する。
そして、リリアージュはそろそろ勉強の終わっただろうニコラを迎えにいく。少しの時間ではあるがリリアージュとニコラにとっては大切な逢瀬の時間。リリアージュはニコラに可愛らしくラッピングした焼き菓子を渡した。
「ニコラ、いつも皇配教育を頑張ってくれてありがとう。頑張り屋さんなニコラのために、焼き菓子を作ってみたの。食べてくれる?」
「…もしかしてリリアージュの手作り!?絶対食べる!今食べても良い?」
「もちろん!」
ニコラは大切そうに丁寧に包みを開けて、焼き菓子を一つ手に取る。手作りだとわかりやすい、ちょっとだけ歪なそれがニコラには心底愛おしかった。
「では、いただきます」
一口口に含むと優しい甘さが広がった。まるでリリアージュのくれる感情そのもののような味に、ニコラは思わず自然に微笑む。
「美味しい…リリアージュ、最高の贈り物をありがとう。これで明日からもまた頑張れるよ」
ニコラの眩しいくらいの笑みにリリアージュも嬉しくなる。リリアージュはニコラに抱きついた。そんなリリアージュを優しく抱きとめたニコラは、リリアージュの柔らかな髪に指を絡ませて幸せを感じる。
実のところを言えば、ニコラは少し疲れていた。いくら勉強を頑張っても、学ぶべきことはまだまだ多い。幼いうちから勉強出来ていれば違ったかもしれないが、ニコラがリリアージュの婚約者になったのは三年前。よく三年でここまで皇配教育が進んだものだと思うほどニコラは優秀だったが、それでもまだまだ足りなかった。
当然先生方はニコラに厳しく接するし、あまり褒めてはもらえない。ストレスは徐々に蓄積していった。
しかし、ここにきてリリアージュからの嬉しい言葉付きの手作りの焼き菓子のプレゼントである。ニコラは俄然やる気が出るのを感じた。
さらにリリアージュからのハグですごく癒される。ニコラは先程まで感じていた疲労とストレスが霧散していく感覚を覚えた。
「リリアージュ、もしよかったらまた何か作って欲しいな」
ニコラはちょっとだけリリアージュに甘えてみる。リリアージュはニコラに甘えられたのが嬉しくて笑顔で受け入れる。
「もちろんだよ!そうしたら、明日はレオノールちゃんに教えてもらってガトーショコラを作ってみるね!」
ちなみにガトーショコラはリリアージュの好物である。そんなリリアージュにニコラは愛おしさが募る。
「うん、楽しみにしているね」
そして逢瀬の時間は終わる。けれどリリアージュは目的であったニコラへの応援が叶い、ニコラと甘い時間を過ごせたことで大満足でニコラを見送る。さらに、明日の目標が決まったことで、るんるん気分だった。
翌日レオノールに相談して、皇配教育があるニコラ以外のみんなでガトーショコラを作ってみる。
わいわいと楽しみながら、ニコラへの愛情たっぷりに作ったガトーショコラはレオノールが教えてくれただけあって初めてにしては上出来だった。
今日も皇配教育の終わったニコラを迎えに行き、リリアージュの部屋でほんの少しの逢瀬の時間にガトーショコラをプレゼントする。
ニコラは本当に嬉しそうに受け取り、美味しい美味しいと完食してくれた。リリアージュは心が満たされるのを感じ、ニコラも幸せを噛み締めていた。




