皇帝陛下の愛娘はまた女神扱いされる
リリアージュとレティシアが祝福の力を使い大陸全土を流行病から救ってから一週間。大陸全土でリリアージュとレティシアを崇め奉るような動きが加速していた。
リリアージュもレティシアもそんなつもりは一切なかったが、大陸全土を救った大英雄として祭り上げられてしまったのだ。
リリアージュとレティシアはこれにはびっくりすると同時にそんなことはする必要はないと言ったが、各地にリリアージュとレティシアを祀る神殿と偶像が次々と建てられた。リリアージュとレティシアは最早自分達ではどうしようもないムーブメントに恐怖すら覚える。
祝福の力を使い大活躍したため隣国の教会本部からご褒美として長期休暇を貰ったレティシアは、リリアージュに招待されてプロスペール皇国の宮廷に遊びにきていたが、二人ともこの世の中の流れにため息を吐いた。
しかし、他人からみればこんな騒動は当たり前である。最悪死に至る、実際に人がバタバタと死んでいた流行病をたった二人で癒して根絶してしまったのだ。そんな聖女様と大英雄様を奉るのは至極当然の動きだと言える。
…が、本気で困っているリリアージュとレティシアにそんなツッコミを入れられるほど非情な人間は流石にいない。困った困ったと顔を見合わせているリリアージュとレティシアに、美味しいお茶を淹れてやり美味しいお茶菓子を出してやるくらいしか出来なかった。そんな中でレティシアが口を開いた。
「あら、私としたことが。リリアージュ様、ニコラ様。ご婚約おめでとうございます。お祝いが遅くなってごめんなさい。これ、婚約のお祝いの品です。どうぞ受け取ってくださいな」
レティシアは綺麗に包装されたプレゼントをリリアージュとニコラに渡す。
「ありがとうございます、レティシア様!とっても嬉しいです!」
「ありがとうございます、聖女様。中を見てみても構いませんか?」
「是非見てくださいな」
リリアージュとニコラは包装を丁寧に解き、中身を取り出す。出てきたのは二人でお揃いの指輪だった。
「指輪ですか?」
「わあ、可愛い!」
嬉しそうに笑うリリアージュに、レティシアが解説する。
「プロスペール皇国では結婚の際に親が娘にネックレスを渡すそうですが、我が国では婚約者同士でお揃いの指輪を贈り合う風習があるのです。結婚の際にもまた贈り合うのですよ。婚約指輪、結婚指輪と言います。僭越ながら、こちらで勝手に婚約指輪を用意してみました。気に入っていただけますか?」
ほんわかと笑うレティシアに、リリアージュは最高の笑顔を向ける。
「はい、とっても!」
ニコラも満更ではないようで、レティシアに心からの感謝を伝える。
「ありがとうございます、聖女様」
レティシアはさらに解説する。
「婚約指輪、結婚指輪は基本的に左手の薬指にはめるのです。最初はお互いがお互いの指にはめるのですよ」
「ニコラ、はめてくれる?」
「もちろんです」
ニコラは跪き、リリアージュの左手をとり薬指に指輪をはめる。その姿はとても絵になる素敵な瞬間だった。ラウルは素早く手持ちのスケッチブックに念写する。
次にリリアージュがニコラの左手をとり、薬指に指輪をはめる。その姿も最早神々しいとまで言えるもので、ラウルはまたスケッチブックに念写した。
微笑み合い幸せを分かち合う、二人きりの世界に没頭した二人が現実に帰ってきた時にラウルは念写したスケッチブックの紙を渡した。リリアージュとニコラはすごく喜び、素直にラウルにお礼を言う。ラウルも二人の喜びように喜んだ。
しばらくレティシアからのプレゼントとラウルの念写した絵に喜んでいたリリアージュとそれを微笑ましく見守るレティシアだったが、冷静になってしまうとまた神殿だの偶像だのに意識が向かった。
「…はぁ。神殿だなんて、私はただの聖女ですのに」
「んー。…私は大英雄なんかじゃないのに、偶像なんて恐れ多いよ」
二人は顔を見合わせてため息を吐く。いや、十分すぎる偉業を成し遂げただろうよと突っ込んではいけない。二人にとっては困っている人を助けるのは当然のことなのだ。そして祝福の力はそれを成し遂げるための力であり、二人にとっては崇められるべきものではないのだ。二人にとって崇められるべきは、二人にこの力を授けてくださった妖精王と天使である。そんな清らかな精神性がまた信仰に拍車をかけるとは露知らず、二人は困ってお互いを慰めあっていた。




