皇帝陛下の愛娘は妖精王に婚約者を改めて紹介する
「姫君ー、リリアージュ姫君ー!」
リリアージュがいつものメンバーと、リリアージュの私室で過ごしていると久しぶりにタバサの声が聞こえた。
「姫君!羽の生え変わった老人達を遂に説得出来ましたので、リリアージュ姫君をお連れするようにと妖精王様が仰っていました!是非来てください!」
「お久しぶりです、是非お願いします!あと、イニャス様に婚約者を紹介したいのですが…」
「もちろん良いですとも!えーっと、ニコラ様でしたっけ。貴方今妖精國でも有名ですよぅ?さあ、行きましょう!」
タバサが指パッチンする。気付けば妖精國だった。
「ここが妖精國…」
「正しくは妖精國の王城の庭ですね」
「イニャス様!」
「妖精王様ー!」
タバサはイニャスの元へ素早く戻る。リリアージュとニコラは頭を下げた。
「よく来たね、リリアージュ。さあ、顔を見せて」
朗らかに笑うイニャスは、リリアージュの側によるとリリアージュの頬に手を添え顔を上げさせる。それに若干の嫉妬を覚えたニコラだったが、表には出さないようにした。しかしイニャスにわかるらしく、クスクスと笑われた。
「そこの坊やはヤキモチ妬きだね。リリアージュを取り上げたりしないから安心おし。それと、顔を上げて良いよ」
ニコラは顔を上げる。イニャスは大らかに笑っていた。
「イニャス様。多分知っていると思いますが、こちら私の婚約者のニコラ・オディロンです」
「うん、素敵な名前だね。私は妖精王イニャス。イニャス様と呼んでいいよ」
「お初にお目にかかります、妖精王様。よろしくお願い致します」
イニャスの顔が曇る。ニコラは何か間違えたかと考えて、言った。
「…イニャス様?」
今度こそイニャスは笑顔になる。
「人の子はいつも妖精王様と呼びたがるね。まあ、妖精達も基本的にはそうなのだけど…妖精達の場合、名前呼びを許せばすぐに呼んでくれるのに、人の子は必ず最初は妖精王様と呼ぶんだ。何故だろう?」
「プロスペール皇国では妖精を神格化してますから」
「それは知ってるけどね。別にそんな神格化なんてしなくていいのにな。むしろウジェーヌ国のようにもっと近しい関係性になれたらいいのに」
「神格化されている以上難しいですね…」
「ちぇっ…ああ、そういえばリリアージュ、ガラスの鳥は役に立ったみたいだね。あそこのご店主も喜んでいるってさ」
「はい!その節はありがとうございました!」
「あれはあくまでもリリアージュのお手柄さ。本当は私としても哀れに思っていたのだけれど、妖精は人間よりも瘴気に弱くてね。だから瘴気の発生し得ない世界の裏側、こちらに妖精國を作っているんだ。救ってあげてくれて、ありがとう」
リリアージュの頭を優しく撫でるイニャスにリリアージュはくすぐったい気持ちになる。イニャスとお話していると、お祖父ちゃんとお話している時のような安心感がある。
「そこで、今回はそのご褒美として祝福も与えようという話になってね」
「え?」
「リリアージュはもう加護を受けていますが」
「うん、でもほら、他国を救ったご褒美だから。我らが妖精國の与えてた力で他国を救ったなんて、妖精國の価値を高める行為でしょう?だから、遠慮なく受け取っていいんだよ」
リリアージュとニコラは顔を見合わせる。そしてタバサを見遣る。
「ええっと、妖精王様が良いと言われているのですから受け取っていいと思います!」
「羽の生え変わったうるさい老人達は黙らせたから大丈夫!屁理屈をこねるのは得意なんだ!」
ウィンクを飛ばすイニャスに毒気を抜かれて、リリアージュは有難く祝福を受け取ることにした。
「では、祝福を受けても良いですか?」
「もちろんだよ。祝福の内容は、病気や怪我の治癒にしようか。リリアージュは治癒魔法に憧れていたものね?治癒魔法ではないけれど、これで人々を癒せるようになるよ」
「え、それって隣国の聖女様のお力と同じでは?」
「ああ、そういえば二人はお友達だったね。うん、同じような祝福になるかな。力の及ぶ範囲も程度も同じくらいだよ。ただ、祝福の力を使うと疲れ果てて気絶したように眠るのも同じだから気をつけてね」
「もしかしてレティシア様に祝福を授けたのはイニャス様なのですか?」
「うん?それはないない!私が加護や祝福を授けるのは緑の髪の子だけだからね!こんな珍しい色、プロスペール皇国の皇族くらいのものだよ」
そしてにっこりと笑ってイニャスは言った。
「おそらくその聖女の祝福は、天使とかその辺じゃない?ただ、天上の奴らはうるさいからなぁ…その子も大変だね。世のため人のためどうこうって毎日言われてると思うよ。私だったら無理。キレる」
あまりにも明け透けな物言いにリリアージュとニコラは思わず笑う。イニャスもタバサもつられて笑った。
「とりあえず、祝福を授けるね」
「ありがとうございます!」
妖精王がリリアージュの頭に手を翳すと、美しい優しい光が溢れた。
「はい、これで祝福を得られたよ。上手に使いなさい」
「ありがとうございます、イニャス様」
「さあ、これ以上ここにいると羽の生え変わったうるさい老人達に嫌味を言われるから帰った方がいい。ご店主には私の方からリリアージュが礼を言っていたと伝えておこう」
「はい、お願いします。本当にありがとうございました!婚約祝いの品もすごく嬉しかったです!」
「ならそれも、国中の妖精達に伝えておくよ。またね」
「はい、また!」
こうしてタバサの指パッチンでリリアージュとニコラは宮廷に戻った。やっぱりそわそわと心配していた友人達やナタナエル、ルイスも帰ってきた二人に安心して笑みを零した。




