皇帝陛下の愛娘は新しいオアシスで女神と讃えられる
リリアージュは、国王や王太子が期待した以上に広大な範囲にオアシスを作り、そのオアシスの全ての樹木をこの国の収入源である果物を実らせる木にした後、疲労困憊でその場で気絶するように眠り、ニコラにお姫様抱っこされて国王の転移魔法で宮殿に帰ることになった。いくら妖精王の加護を受けているとはいえ、極大魔法をあれだけ連発すればこうなるのも無理はなかった。むしろ良くもった方である。
だがリリアージュは次の日目を覚まして朝食をご馳走になると、さらに爆弾発言を落っことした。
「あの、国王陛下」
「はい、第一皇女殿下」
なんだか国王の態度がおかしいと思いつつも言葉を続ける。
「オアシスが出来ても、家がないと国民達が移り住めないですよね」
「ええ。ですから今、神殿を建てるのを急がせています。神殿が出来次第、民の家も建設させます」
「神殿?」
「はい。我らが女神の」
リリアージュは女神と呼ばれているのが自分だとは気付かずに、そういうものかとただ流した。
「そうなんですね。では提案なのですが」
「はい、なんでしょう」
この威厳のある方に敬語で喋られるとなんとなく落ち着かない。何故急に敬語になったのだろうか。そんなことを考えて、リリアージュはそれより提案を先にしようと思い直す。
「もし、皆様がよろしければ頑丈な樹木で作る木の家をご用意させて貰えたらな、なんて…余計なお世話なら、断ってください」
「余計なお世話などととんでもない!本当に国民達の住処まで作ってくださるのですか?」
「はい。といっても、極力気を付けますが人によっては住みづらいと感じるかもしれないです。昨日みたいに極大魔法で昨日の木とは違う、太くて頑丈な木を育ててその中を家にする、みたいな感じなので」
「それは良い!是非ともお願い致します!」
まあ、なるべく住み良い住居にするつもりではあるがそんな二つ返事で了承されていいのかとリリアージュはちょっと困惑する。しかし、ここで役に立ってそれが今後のプロスペール皇国とウジェーヌ王国の仲を取り持つ縁となるならそれでいいやと思考を放棄した。
さっさと終わらせて今度こそパパのところに早く帰りたい。でも役に立ってパパに褒められるのも嬉しいからもっと頑張りたい。リリアージュは今日も元気に、立派なファザコンに育っていっている。
リリアージュは昨日自分が作ったオアシスに国王の転移魔法でまた来た。そして、極大魔法で丈夫でかなり太く高い木をたくさん生み出して育てて、その中を住居として使えるように魔法をかけた。魔力を大量に使ってまた疲労が出たが、今度は所構わず眠るほどではない。なんとかなった。
「出来ました。見てみてください」
国王が中に入ると、平民達にとっては立派な住居として使えるだろう家になっていた。家財道具一式を運べばすぐに使えるだろう。おまけに高い木なので、二階も三階もあるのでむしろ贅沢な方かもしれない。
「どうでしょうか?」
「十分過ぎるほどです!ありがとうございます!」
リリアージュは、役に立てたと胸を撫で下ろした。
「神殿の方はお手伝い出来ることはありますか?」
「いえ、神殿の方は我々にお任せください!」
お任せくださいとは。
リリアージュは自分が女神扱いされていることに気付いていないため、任せるも何も自分には関係ないのだがと首を傾げた。しかし、もう自分には関係ないと思考を放棄した。そして、宮殿に転移魔法で帰ると、プロスペール皇国に帰ることを告げる。元々今日がウジェーヌ王国の招待の最終日だったのでちょうどいいだろう。
何故か国王と王太子から留まるよう懇願されるも、ニコラ達に庇われて帰れることになった。
帰ったリリアージュをナタナエルは優しく抱きしめて出迎え、おかえりと言っておでこと瞼、頬にキスを落とす。ナタナエルは、こっそりと魔水晶で覗いていても寂しいものは寂しかった。
リリアージュはそんなナタナエルにただいまを言って、ハグとキスを返した。ウジェーヌ王国の国王と王太子がリリアージュを引き止めようとしたのを魔水晶で見ていて、絶対零度まで冷え切っていたナタナエルの機嫌は急上昇した。
しかしその後、気絶するまで極大魔法を使うなと怒られた。何故ナタナエルがそれを知っているんだろうと疑問に思うリリアージュだったが、素直に頷いてごめんなさいを言った。
ニコラ達は、そんなナタナエルとリリアージュの様子に無事にリリアージュを連れ帰ることが出来て良かったとほっとした。ニコラ達は、リリアージュが女神と崇められ無理矢理監禁されたらどうしようと危惧していたのだ。リリアージュには、不安にさせたくなくて言えなかったが。
一方その頃、ウジェーヌ王国では何人もの平民達が新しいオアシスの新しい家に移り住んだ。想定より大きく作られた新しいオアシスは、飛び地になるはずがウジェーヌ王国として機能している元々のオアシスと繋がるように出来ていたので移り住むのは魔法を使えば割と簡単だった。平民達は、気まぐれな妖精達の手を借りつつさくっと新居に引っ越して、心優しいプロスペール皇国の第一皇女殿下…我らが女神様とやらに、想いを馳せて祈りを捧げた。




