皇帝陛下の愛娘は皇帝陛下を魔法で超える
ナタナエルはリリアージュが妖精王の加護を受けたと聞いてすぐに、リリアージュを連れて魔法訓練室へ向かった。宮廷魔術師達が魔法を極めるために使うこの部屋はナタナエルの極大魔法にも耐える。
「リリアージュ、魔法適性は増えたか?」
「治癒魔法以外全部だよ」
「魔力はどのくらいだ?」
「パパより多くなったよ」
「なら、極大魔法を打ち込んでみろ」
リリアージュは極大魔法をいくつも大量の的にぶつける。さすがに連発すれば魔力が消耗され疲労が襲ったが、たしかにナタナエルよりも魔力が多いらしい。魔法適性が増えているのも確認できる。
正直、これが妖精王の加護の力かとナタナエルは驚いた。しかし、これでリリアージュが皇太子となることは明白。自分で自分の身を守る術も手に入れた。むしろ、ナタナエルはリリアージュが妖精王の加護を受けられて安心した。
「リリアージュ。疲れただろう、よくやった」
「うん。ありがとう、パパ」
リリアージュはナタナエルに抱きついて、ナタナエルの頬にキスをする。ナタナエルはそんなリリアージュを軽々と抱えて頬とおでこにキスをした。何も言わずについて来た心配性なお友達たちはそんな仲の良い親子の様子に、リリアージュは大丈夫そうだとほっと胸を撫で下ろした。いきなり妖精國に飛ばされて、本当に心配したのだ。
「リリアージュ。このことを公表してもいいか?」
「うん、大丈夫だよ」
ナタナエルはリリアージュから許可が出ると、ルイスに命じてすぐにリリアージュが妖精王の加護を授かったことを国中に公表した。リリアージュがナタナエルを魔法で超えたことも併せて公表すれば、リリアージュが将来皇太子となることを歓迎する声が増えた。
これまでも大多数の人間には心優しい美貌の姫である第一皇女殿下を皇太子にと思われていたが、一方でリリアージュの親戚に当たる公爵家の、緑の髪の魔法において優秀な公子こそ皇太子に相応しいと怪しげな動きを見せる者達もいることにはいた。まあ、リリアージュの祖父が無理矢理黙らせて抑え込んではいたが。
リリアージュの祖父は、今は亡き皇后の父であると同時に侯爵であり、皇帝たるナタナエルの私財を超える巨額の私財を持ち合わせる大金持ちでもある。大抵の貴族は逆らえない。リリアージュのためならお祖父ちゃんは老体に鞭を打って頑張るのだ。
そんなこんなで、怪しげな動きを見せる者達もナタナエルを魔法で超えたリリアージュには文句のつけようが無く、すごすごと引っ込んだ。リリアージュの祖父はもう顔と名前を覚えていたので、いつかは誰がやったともわからないように報復されるのだろうけれども。
ナタナエルは国中がリリアージュを次期皇太子として歓迎する動きに満足そうに微笑んだ。表情筋の固いナタナエルが自然と微笑むのは、リリアージュのことかリリアに関することだけである。ルイスはそんな自分の主人を優しく見守っていた。
リリアージュは、ナタナエルがリリアージュの妖精王の加護を公表した直後から皇太子として歓迎するムードが高まったことに納得していた。
一部の貴族から熱望されていたあの親戚の公子とは会ったことがない。祖父が会わないで済むように手を回してくれていた。やがて公子は祖父の手で公の場には出なくなるだろうと予想もしている。
リリアージュは、自分にとっては優しいお祖父ちゃんだが、他人から見た祖父がどういう人間かも知っていた。
もう、誰も自分が女帝となる邪魔はできない。ならば、自分は国民たちにとって最高の女帝とならないといけない。リリアージュは、一人密かに決意を新たにしていた。けれど友達やナタナエルには心配をかけないように、リリアージュは普段通り無邪気に笑う。そんなリリアージュを、ナタナエルは優しく見守っていた。




