皇帝陛下の愛娘は妖精の王と出会う
「タバサ、ご苦労様」
「はい、妖精王様!」
タバサと呼ばれた下級妖精は、透明な美しい羽根を持つ妖精の側に行き頭を下げた。妖精王はその美しい羽根を広げ、リリアージュを歓迎する。リリアージュは慌てて頭を下げた。
「よく来たね、リリアージュ。私が妖精王、イニャスだ」
朗らかに笑うイニャスは、リリアージュの側によるとリリアージュの頬に手を添え顔を上げさせる。
「ああ、やっぱり。緑の髪の子は、こんなにも可愛い」
その瞳は、どこか懐かしむようなもので。リリアージュは過去の皇帝達とイニャスが本当に仲が良かったのだと知った。
「リリアージュ。私を恐れる必要も敬う必要もない。仲良くしておくれ」
「…はい、妖精王様」
リリアージュがそう言うと、イニャスは悲しそうな顔をする。リリアージュは慌てて言い直す。
「えっと、イニャス様」
イニャスは今度こそ嬉しそうに笑った。
「リリアージュ。今から君に加護か祝福を与えるんだけど、どっちがいいかな。どっちも役に立つよ」
「ええと」
「いずれは両方与えるつもりだけど、羽根の生え変わった老人共がうるさくてね。歳を重ねると思考が歪むのかな。嫌だなぁ。まあ、とりあえずうるさい爺共を黙らせるまではどっちかを選んでね」
「妖精王様が加護と祝福どちらも与える…?」
タバサと呼ばれた下級妖精は目を丸くする。リリアージュとしても同じ気持ちだ。両方授かるなんて、過去の皇帝にもいなかった。
「本当は今までの皇帝達にも与えたかったんだよ。ただ、本人達が遠慮したのと爺共がうるさくてね」
困った困ったと笑うイニャス。妖精國では案外問題児なのかもしれないとリリアージュは思った。
「で、どっちにする?」
「…じゃあ、加護でお願いします」
加護は、魔力が大幅に上がり魔法適性も増える。ナタナエルに憧れるリリアージュは、加護の方が都合が良かった。
「わかった。じゃあ、加護を与えるね」
妖精王がリリアージュの頭に手を翳すと、美しい優しい光が溢れた。
「…はい、完了。リリアージュは魔力が…ナタナエルだっけ?あの坊やより多くなったよ」
「…坊や」
妖精王から見れば、大好きなパパは坊やらしい。
「魔法適性も、治癒魔法以外全て使えるようになるよ」
「え。治癒魔法の適性は増えないんですか?」
「だってリリアージュは、致命的に治癒魔法との相性が悪いんだもの。あ、もちろん他人から使われれば効くし、副作用が出るわけじゃないよ!ただ、自分で使う分には相性が悪い。無理だね」
「そんなぁ…」
子猫達を一瞬で治した、あの時のナタナエルのようになれたらと憧れていたのに。治癒魔法適性が増えないと知り、リリアージュは激しく落ち込んだ。
「あはは。さあ、そろそろナタナエルの坊やのところにお帰り。お友達が心配しているよ」
「あの、ありがとうございました!」
「いいよ。またタバサを向かわせて誘うから、遊びにおいで」
「イニャス様、お元気で」
「うん、リリアージュもね。いつでも見守っているよ」
手を振るイニャスに手を振り返す。タバサが指パッチンすると、いつもの自分の部屋だった。
「リリアージュ様!」
「ご無事ですか!?」
「うん、大丈夫だよ」
この後友人達に非常に心配されナタナエルにまで報告が行き、リリアージュはしばらく過保護な父から宮廷外出禁止令を出されることとなった。




